東海道新幹線や山陽新幹線の車内デッキに掲示されている「ふっ素のふふふ」シリーズは、ふっ素樹脂製品と日常生活との関わりについて、イラストと会話で伝えながら、「ふっ素樹脂製品を身近に感じてもらう」ための広告だ。今回は、そんな「ふっ素のふふふ」を新幹線に掲示している理由や、「ふっ素のふふふ」のデザインのこだわり、東京ドームなどの有名な建物にも使われる「ふっ素樹脂」の特徴などについて、中興化成の担当者に話を聞いてみた。
――「ふっ素のふふふ」の広告掲示に関して、意図や狙い、目的、ターゲットなどについて教えてください。
当社はふっ素樹脂という、プラスチック樹脂を使って製品を加工するメーカーになります。今年で創業62年目です。「ふっ素のふふふ」の「ふっ素」は「ふっ素樹脂」を指しています。「ふっ素樹脂」と聞いてもピンと来ないかもしれませんが、「テフロン(TM)※」という言葉は聞きなじみがあるかもしれません。当社は創業以来、ふっ素樹脂製の粘着テープや屋根膜材、搬送用ベルト、チューブなどさまざまな製品を製造し食品、自動車、半導体、機械、医療、建築、宇宙機など幅広い業界に採用いただいています。
しかし、各産業を支える黒子ポジションの製品であることや、堅い社名も相まって、当社の認知度は低い状態でした。そこで、まずは「中興化成のふっ素樹脂製品は実はすごい」ということを伝え、ふっ素樹脂や当社を身近に感じてもらおうと。そしてひいては、製品購入や学生さんとのご縁につながればと思い、2018年から取り組みが始まりました。
※「テフロン(TM)」はケマーズ社の商標です。
――「ふっ素樹脂」に注目した広告「ふっ素のふふふ」を東海道新幹線車内に掲載するというアイデアはどのようにして生まれましたか?
掲示広告は街なかのあちこちにありますが、新幹線を選んだ理由はさまざまな立場の方が利用する特別な空間だと思ったからです。ビジネスや観光、就職活動で地方と都市を結ぶ新幹線の中で、降車の準備をする際や電話をかける際にデッキに出ますよね?そのちょっとした折りに、ふと「ふっ素のふふふ」を目にかけていただけることで、当社との丁寧なコミュニケーションが取れるのでは、と考えたのが理由のひとつです。
また、以前にはグリーン車両のフリーペーパー「ひととき」や、航空機の機内誌への掲載を行っておりました。新幹線や飛行機の機内誌に掲載するには、掲載企業や掲載内容について一定の審査があります。当社は上場企業ではないので、就活生にとっては、どうしても企業選びでフィルターがかかりやすくなってしまいます。しかし、「新幹線や機内誌に掲載できるのであれば確かな企業に違いない」と就活生や親御さんの信頼を得られるのではないかという点も見立てとしてありました。
掲示に当たってひとつ留意したのが、広告によって不快な気持ちにさせないこと、さらに言えば明るい気持ちになっていただけるかという点でした。朝から晩までさまざまな心情の方が利用する新幹線なので、その日をスムーズに過ごせるよう、イラストレーションの仕上がりには、大いにこだわりました。一度は、テーマにまで遡って原稿やイラストを作り替えたこともあります。イラストレーターにグレース・ヘルマーさんを採用したのも、鮮やかで楽しく、そして優しい印象を彼女の作品に感じたからでした。
――「ふっ素のふふふ」について、これまでに社内や社外での反響などあれば教えてください。
おかげさまで広告に対する認知度も上がっており、X(旧Twitter)上でも、新シリーズが掲示されるたびに投稿してくれる人もおり、「ふふふファン」が増えたことをうれしく思っています。ほかにも、営業の際に新規訪問先で「広告見たことあります」と会話が弾んだり、製品の問い合わせのきっかけになったりもしました。
社内でも柔らかいイラストは好評で、ノベルティーの制作など広告以外でのコミュニケーションにも一役買っています。また、就職活動中に広告を見たことがきっかけで入社した新卒社員がいたことは、これまでで特に一番うれしかった出来事となりました。
今後の新作については未定ですが、せっかく12作品も制作したので、それらを活かした新しい内容も検討しています。
――「ふっ素のふふふ」のデザインや内容のこだわりを教えてください。
何よりもまず、ふっ素樹脂技術というのがなかなかとっつきにくいものなので、そこを打破したいという想いがありました。難しい話になってしまうのを、そのまま伝えるだけでは振り向いてもらえません。なので、いかにしてチャーミングに伝えるかを考えた結果、「ふっ素のふふふ」のフレームに辿りつきました。タイトルの「ふふふ」で「実はね、」と秘密を打ち明けるような親しさを醸し出しました。
技術の説明は長い文章ではなく、「製品」と「社員」のマイペースな会話に任せました(笑)。「社員」は社内に実際にモデルがいます。素朴な会話なのですが、伝えたいツボはしっかりおさえてあります。そして、単なる製品紹介だけじゃなく、ちょっとだけ遊び心を入れたり、人生のことに触れてみたりと、読み物としても充実させています。
あとは、あえての筆文字のタイトルですが、これは程よい脱力感を狙ってのもの。そして、何よりもグレース・ヘルマーさんの鮮やかでホッとするイラストレーションが、全体のトーンをぐっと明るくしてくれています。たくさんの要素のわりに、すっきりと仕上げられたのは、アートディレクターさんの力の賜物ですね。
――これまでの「ふっ素のふふふ」シリーズでイチオシの広告などあれば教えてください。
全12回のシリーズですが、どの回もそれぞれお気に入りでして、どれかひとつを選ぶとなるととても難しいのですが。全体を振り返ってみると、ロケットもあればコーヒー豆もあったりと、宇宙から日常生活までを網羅しているというのがふっ素樹脂加工技術の真髄を表しているのかな、と思います。そのふっ素樹脂の原材料である「蛍石」が第12回に登場するのですが、これはとても象徴的ですね。当社のシンボルみたいなものですから、石の輝きや質感にはいつもよりこだわったかもしれません(笑)。
――この記事で「ふっ素のふふふ」を初めて知る読者の方に知っていただきたい「ふっ素樹脂」 の魅力などあれば教えてください。
ふっ素樹脂はプラスチックでは珍しく、石油ではなく「蛍石」という鉱物が原料となります。鉱物由来という点や、ほかのプラスチックよりも多くの特性をもっている点で、とても魅力的な樹脂です。多くの特性とは、主に①耐熱・耐寒性、②絶縁性、③耐薬品性、④滑り性、⑤非粘着性、⑥耐候性です。汎用樹脂にない特性と当社の加工技術でお客様の課題を解決し、社会に貢献できるのは「ふっ素樹脂」の魅力であり、当社の魅力でもあると思います。
――最後に読者へのメッセージをお願いします!
SNSで「ふっ素のふふふ」の投稿を見ると、とてもうれしくなります。SNSの運用には慣れていないので、個別にお返事はできていないのですが、いつも応援してくださり、ありがとうございます。今後も、東海道新幹線と山陽新幹線のデッキには広告を掲示予定なので、今回初めて「ふっ素のふふふ」を知った方も、ご覧いただけたらうれしいです。
また、「ふっ素のふふふ」の第1弾で紹介された東京ドームのほかにもJR高輪ゲートウェイ駅の屋根や鹿島サッカースタジアムの屋根など、当社の建築用屋根膜材は読者の皆さんの目に触れやすい製品です。当社Webサイトで実績の一部を紹介しておりますので、もし訪れた際には、ぜひ当社「中興化成工業」の名前も思い出していただけたら、うれしいです!
全12作品制作された「ふっ素のふふふ」は、中興化成株式会社の公式サイト上で公開されている。柔らかいイラストと「製品」と「社員」のマイペースな会話に癒やされる「ふっ素のふふふ」で、幅広い使い方をされている「ふっ素樹脂」について学んでみてはいかが?また、東海道・山陽新幹線に乗る際には、ぜひデッキに掲示されている広告に注目してみよう!
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取材・文=平岡大和