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新年度がはじまり、子どもに何か習いごとをさせようと考える親も多いだろう。習いごとと言えば、ピアノやそろばん、書道、水泳などが定番。近年では、英会話やプログラミング、将棋などを習う子どもも増えつつあるという。そんななか、小中学生を中心にブームとなり、習いごととしてもじわじわと人気となっているのが「麻雀」だ。なぜ、今、「麻雀」が習いごとの選択肢となっているのか、麻雀が子育てにどんな効果をもたらすのかなどを探るべく、実際に子どもたちが集まる麻雀教室を取材した!
大人顔負けレベル!頭脳ゲームとして麻雀を楽しむ子どもたちの姿
今回、取材に協力してくれたのは「ニューロン麻雀スクール」。全国に161校を展開、約6.2万人の会員を持ち、「みんなのリビング」をテーマとしたカルチャー教室だ。撮影したのは「ニューロン麻雀スクール 太平通校」(愛知県名古屋市)。ここでは、小学生・中学生・高校生を対象とした「ニューロン子供麻雀教室」を、月2回開催している。
この「ニューロン子供麻雀教室」では、対局約50分+休憩約10分のセットを1コマとして、1日3コマ授業を行う。授業のうち最初の5分ほどは講義で、あとは講師の指導を受けながらの練習対局を行うというスタイルだ。
授業の時間が近くなってくると、保護者に連れられた子どもたちが続々と教室に入ってきた。取材当日(2025年3月24日)の参加者は28人で、最年少は7歳。席は子どものレベルごとに振り分けられており、子どもたちは自分の席を確認すると、各々が麻雀卓に座っていく。麻雀卓は、大人が使うものと同じ全自動麻雀卓。そしてフリードリンクとなっている。なんと整った環境だろう。子どもが座ると、麻雀卓がずいぶんと大きく見える。
開講の時間になると、保護者は一旦退室。子どもたちが麻雀に集中できるよう、授業の間、保護者は教室に入れないという。
この日は、講師の宮城さんが講義を担当。1コマ目の講義は、麻雀のマナーと心得について学ぶ時間のようだ。宮城さんから「まずはあいさつから」「麻雀牌は優しく扱う」「アガった人がその局の主役」などといった話があった。ほかにも、2・3コマ目では、どの牌を切るのがベターか、安全牌の見極め方など、一歩踏み込んだ内容の講義が行われた。自分がうまくいかなかったときでも、アガった人には「お見事!」と拍手をする…大人でもできない人が多いかもしれないマナー、子どもたちは実践できるのだろうか?
講義が終わると、さっそく対局開始!あいさつをすると、慣れた手つきで手牌を並べていく。上級者レベルの卓では、大人も驚きのスピードでサクサクと対局が進んでいき、「チー!」「ポン!」など声が飛び交う。一方、初心者レベルの卓には講師がつき、ルールや流れを丁寧に教えていた。また、何人かの講師が各卓を見て回っており、困ったり悩んだりしたときは、手を挙げて講師に質問していた。
驚いたのは、子どもたちは対局をしながら、会話も楽しんでいたことだ。麻雀は、今や家庭用ゲーム機やスマートフォンのアプリなどで、誰でも気軽に楽しむことができる。しかしながら、対局相手とコミュニケーションをしながら麻雀をすることは、ゲームでは当然難しい。講師の宮城さんは、「ゲームと実際に集まる麻雀の最も大きな違いは、目の前に人がいることです」と話す。「ニューロン子供麻雀教室」では、初対面の人と対局することも多いそうで、そんな環境の中で麻雀をするとコミュニケーション能力も育まれるという。
「ツモ!」「ロン!」とアガる子がいると、ほかの子たちは「わ~」「惜しかった~」と残念がりながらも、「すごい!」「お見事!」「おめでとう!」と拍手をしている姿が印象的だった。教えられたマナーをしっかりと実践して、みんなで楽しく麻雀をしているようだ。そして、「次こそは勝つ!」と言って、次の対局を始める。健康的な頭脳スポーツとしての麻雀が、そこにはあった。
なぜ今「麻雀」?子どもたちの間でブームになっているらしい
「麻雀」と聞くと、たばこの煙がモクモクと充満した雀荘で、大人が遊ぶもの…といったイメージを持っている人も多いだろう。しかしながら、それはひと昔前の話。今、麻雀を健全な趣味としてプレイする人が増えているのだ。
明治時代に中国から伝わったと言われる麻雀は、大正、昭和、平成と何度かブームとなった。かつては大人の嗜みのような側面が強くあった。ところが、1980年代後半に「(金銭を)賭けない・(タバコを)吸わない・(酒を)飲まない」を掲げた「健康マージャン」が登場すると、国内の麻雀環境は徐々に変化。
1990年代後半になると、ゲームやマンガの影響から、麻雀に興味を持つ子どもが増えていく。子どもとはいっても、10代後半の男の子が大半だった。そんな中、2010年代に入ると、女子高生が主人公で、学校を舞台にした麻雀マンガも登場。アニメ化や実写映画化もされヒットすると、麻雀をやってみたいという女の子が増加した。近年も麻雀を題材にした少女マンガが連載されたほか、月刊少女マンガ雑誌でカード麻雀セットが付録となり、好評を博したこともある。
そうして徐々に子どもたちに浸透していった麻雀。子どものころに麻雀を楽しんでいた人たちが大人となり、親として自分の子どもに麻雀を教えるパターンも増えてきた中で、麻雀ブームの火付け役となったのが、「Mリーグ」だ。
「Mリーグ」は、「ゼロギャンブル宣言」を掲げた、競技麻雀のチーム対抗戦ナショナルプロリーグ。麻雀の頭脳スポーツ化と競技力の向上を目的として、2018年に発足した。その試合の様子はインターネットテレビ局で配信されるなどして、まるでスポーツのように盛り上がっている。
そんな「Mリーグ」でカッコよく麻雀をする選手に憧れて、「もっと麻雀が上手になりたい」「Mリーグの選手になりたい」と、麻雀教室に足を運ぶ子どもが増加。かつての大人の遊びとしての麻雀は姿を変え、ゲームやアプリ、マンガなどの影響で子どもたちにもより身近な存在となり、将棋のような頭脳ゲームとして、子どもたちの間でブームとなっているようだ。
麻雀を習うと学力が向上?コミュニケーション能力もアップ?
昨今では、認知症予防への効果も期待されるとして、高齢者が麻雀で遊ぶ様子がテレビなどで放映され、話題となった。では、子どもの場合ではどうだろう?麻雀を習うことで、子どもにとってはどんなメリットがあるのだろうか?
実は、子どもの麻雀と知能指数のつながりに関する研究結果がある。「横須賀市立うわまち病院」の脳神経外科医師・東島威史さんが、麻雀のルールを知らない6歳~15歳の子ども24人に、月に2回、1年間継続して麻雀教室へ通わせたところ、IQ・知能指数が平均して8ポイント上昇したという結果が出ている。特に「処理速度」という、集中力や情報処理の速さ、視覚的な記憶を反映する指数が上がったそうだ。
また、麻雀の難しいポイントの1つが、点数計算だ。麻雀の点数は、完成した役、アガり方、ボーナス、その局で親かどうかなどの要素によって、複雑な計算が必要となる。100以上の大きな数字を足し算・引き算しなければならず、暗算しようと思うとかなり頭を使うことになるだろう。「ニューロン子供麻雀教室」では、テキストや講師が計算方法を教えてくれる。これにより、「数字に強くなった」「計算が速くなった」「算数が得意になった」という声もあるという。
さらには先述のとおり、麻雀を習うことで、コミュニケーション能力の向上も期待できる。対面で麻雀をする特徴の1つが、「目の前に人がいる」こと。教室での様子を見ていると、ルールや点数計算がわからなければ、子どもたち同士で教え合い、アドバイスするなど、おのずと会話が生まれていた。学校でのことや、流行についての話が弾んでいる卓もあった。
そして、コミュニケーション能力を育むうえで大切なことが、「対局が終わるまでは続けなければいけない」ということ。ゲームやアプリで麻雀をする場合、もし自分が勝てていなかったら、電源を落として止めてしまうこともできる。しかし、対面での麻雀となれば、そうはいかない。麻雀は運の要素も大きい。そのため、どれだけ頑張っても勝てないことはあるが、それでも辛抱して続けなければならないし、勝った人には拍手をする。麻雀のマナーを学ぶことで、他人を尊重するといった社会性を身に着けることも期待できるのだ。
もう1つ、「ニューロン子供麻雀教室」が大切にしていることが、「考える力」だ。同施設では、講師が子どもに説明やアドバイスをするが、答えを教えることはあまりないそう。ヒントを与えたうえで、「じゃあ、この場合はどうすればいいと思う?」と、子ども自身に考えさせる。麻雀という複雑なゲームを通して、いろいろな可能性を考える力を育んでいるという。
また、麻雀は年齢を問わずできるゲームでもあり、親や祖父母、親戚などと一緒にプレイすることも可能。昭和、平成の麻雀ブームもあり、子どもが麻雀を覚えると、親や祖父母と3世代で遊ぶという家庭も多いそうだ。麻雀で大人と遊んだり、「Mリーグ」を親子で観戦したりと、家庭内での会話が増えるキッカケにもなっているようだ。
麻雀教室に通う親子にインタビュー!
ここからは、実際に「ニューロン子供麻雀教室」に通っている親子にインタビューした様子を紹介。なぜ麻雀教室に通うことにしたのか、子どもにどんな変化があったかなど、3組の親子に話を聞いた。
▶ 古瀬美祈さん(10歳)
―― どうして麻雀教室に通うようになったのですか?
【古瀬美祈さん】
「家族で“ドンジャラ”をしていて、麻雀に興味を持ちました。そこで両親に『通ってみる?』とすすめられたので、親子で通っています。お父さんとお母さんも、隣の大人教室で習っているんです」
【美祈さんのお母さん】
「年末年始に親戚の集まりで麻雀をしたのがキッカケで、親子3人で入会しました。家では麻雀のことを話したり、麻雀が習慣になったりなど、親子のコミュニケーションが増えたと思います」
―― 麻雀教室に通ってみて、よかったことは?
【古瀬美祈さん】
「点数計算や待ち方が覚えられることです。教室に参加するのは今日で8回目なのですが、役を覚えてきておもしろくなってきました。家族みんなで点数も暗算できるように、今後も続けていきたいです」
▶ 藤井海未さん(12歳)
―― 麻雀に興味を持ったキッカケは?
【藤井海未さん】
「両親がMリーグのファンで、私も一緒に観戦していたのと、家に雀卓があったので、両親に教わりながら始めてみたのがキッカケです。家で麻雀をするには人数を集めなきゃいけないので、だったら教室に通ってみようかなと」
【海未さんのお父さん】
「家族で麻雀をするうちに、海未のほうが強くなってきたので、『せっかくなら麻雀教室に通ってみたら?』とすすめました」
―― お住まいが静岡県ですね。なぜ名古屋まで通っているのですか?
【海未さんのお母さん】
「静岡県には、子ども向けの麻雀教室がなかったんです。それで、一番近いのが名古屋だったので。少し時間はかかりますが、海未が今後も通いたいみたいなので、続けさせようと思っています。家族で麻雀について話すのも楽しいですし」
【藤井海未さん】
「今日が初参加だったのですが、また来たいです。先生にはどの牌を切るかアドバイスをもらえて、少し強くなった気がします」
▶ 恵本侑吏さん(9歳)
―― 今日が初参加と聞きました。どうして麻雀教室に行ってみたいと思ったのですか?
【恵本侑吏さん】
「もともとボードゲームやトランプゲームが好きだったのですが、学校新聞で“大人がやること”として麻雀が紹介されているのを見て、やってみたいなと思いました」
【侑吏さんのお母さん】
「侑吏から麻雀教室に通いたいと聞いたときは、正直ビックリしました。私自身は麻雀はやらないのですが、将棋や囲碁と同じで頭を使うスポーツという認識でしたし、流行っていると聞いたので行かせてみてもいいかなと。ここなら雀荘というわけではないし、安心だなと思いました」
―― 今日、初めて麻雀をやってみて、どうでしたか?
【恵本侑吏さん】
「ルールを覚えていくのが楽しくて、3時間があっという間でした。隣に先生がいてくれて、丁寧にアドバイスしてくれたので、初めてでしたがおもしろかったです。最後には、満貫でアガれました!これからも通って、大人に勝てるようになりたいです!」
―― 侑吏さんは今後も続けたいそうですが、お母さんはいかがですか?
【侑吏さんのお母さん】
「オンラインで知らない人とゲームをやることなどと比べると、麻雀教室は安心なので、本人が続けたいなら応援したいですね。数字にも強くなったらいいなと期待しています」
このほかにも、「お母さんに麻雀で負けて悔しかったから通い始めた」「Mリーグの選手になりたいから」などといった声があった。教室に通い始める子どもには、両親や親戚が麻雀をしていて興味を持ち、ある程度ルールを知っているという人が多い。一方で、恵本侑吏さんのように、まったくの未経験から麻雀教室に通う人もいるが、講師の丁寧なサポートのおかげで、その日の授業が終わるころにはある程度自力で麻雀を打てるようにまでなっていた。
頭脳ゲームとしての「麻雀」を子どもの習いごとにしてみては?
年々増加しているという、子どもの麻雀競技人口。麻雀には点数計算という比較的難しいポイントがありながらも、ルールは覚えやすく、1日で打てるようになることから、子どもたちには人気のようだ。プロの公式戦を気軽に視聴できて、効率よく学べるという環境も背景にあり、数年続ければ「Mリーグ」のプロ選手並みの麻雀力を身につけることも可能だという。
点数計算で暗算が得意になることのほか、思い通りにいかず失敗してイライラしたときでも自分自身でその気持ちに折り合いをつけて受け流す術を覚えることや、失敗を恐れず勇気を出すこと、自分で考えて選択すること、初対面の人と会話することなど、子どもたちが麻雀で鍛えられる能力は多いようだ。
昨今は頭脳ゲームとして将棋を習いごとにすることも多いようだが、同じく健全な頭脳ゲームとして、麻雀も習いごとの選択肢に加えてみてはいかがだろうか?
取材・文=民田瑞歩、撮影=古川寛二
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