新型コロナウイルス感染症による規制が終わり、これまで以上に盛り上がりを見せている観光業界。2025年4月からは大阪・関西万博の開催もあり、国内外問わず多くの観光客が日本周遊を楽しんでいる。
それに伴ってレンタカーの需要が高まっているようで、全国レンタカー協会が提示しているデータによると、2021年以降のレンタカー車両数は右肩上がり。カーシェアリングもそこかしこで見かけるようになった。
一方で、外国人観光客が運転するレンタカーによる交通事故の増加が問題視され、国内での「若者の車離れ」も指摘されている。こうした状況に、レンタカー業界はどのような対応を迫られているのだろうか。今回は、大型車・ハイエースの貸し出しを行っている株式会社ジェイクラブ エルレンタカー事業部(以下、エルレンタカー)広報課の野村絵里菜さんに話を聞いた。
外国人観光客のレンタカー需要急増でうれしい反面、リスクも…
エルレンタカーは、最大で10人が乗れる大型車のハイエースのみを貸し出している珍しいレンタカー会社だ。同社では2023年ごろから観光用にレンタルする利用者が増加傾向にあり、とりわけ外国人観光客向けの周遊用が売り上げの8割を占めているのだとか。
今や東京や大阪、京都といった地域を中心に、外国人観光客を見ない日はほとんどない。特に中国や韓国などのアジア圏からの旅行客が多い印象で、「車をレンタルしにくるツアー業者によると、アジア圏からの旅行客が最多だそうです」と野村さん。
外国人観光客向けに車を貸し出す際に、不安やアクシデントなどはなかったのだろうか。
「最初のうちは、文化の違う外国人観光客に車を貸し出すことに不安がありました。『汚れて返ってくるのではないか』『どこか破損があるのではないか』と思うことも多かったです。ですが、いざ貸し出してみると、現在にいたるまでひどく汚れたり壊れたりした状態で返ってきた車両はありません」
逆に、過去に日本人に貸し出した際は砂や泥で汚れて返却された経験があったそうで、むしろ外国人観光客のほうが丁寧に扱ってくれる印象を受けたという。
「ジュネーブ交通条約」の加盟国であれば、国際免許証を取得することで外国人でも日本で車を運転することが可能になる。しかし、日本の交通ルールに慣れていないせいで事故を起こしてしまうことも。最近はそうした事故のニュースも少なくない。
「レンタカー業者としても事故は回避したいです。こうした問題を起こさせないために、当社では貸し出しに2つの条件を設けています。一つが、日本の免許証を持っていること。日本の交通ルールに慣れている人にのみ貸し出すようにしています。もう一つが、免許取得から3年以上経っていること。ハイエースという通常よりも大きな車を運転するため、ある程度運転に慣れている人に利用していただくようにしています」
このルールを設けたことで、エルレンタカーでは現在まで外国人観光客による事故が起きたという事例はないのだとか。「今後もリスク回避のために、この方針は変える予定はありません」と野村さんは語る。
ターゲットを変えることで時代の変化に対応
外国人観光客向けツアーにレンタカーが利用される一方で、日本では「若者の車離れ」が報道されることも多く、一部の調査では20代の免許取得率が50%程度という報告もある。
特に都市部に住む人にとっては車を買うことも持つこともコストであり、免許を取得するための費用も高額に感じる人がいるようだ。こうした変化は、今後の自動車業界にも少なからず影響があると囁かれている。
「当社の利用者には30~40代の方が多いのですが、時折20代の方や大学生のグループがレンタルしに来られることもあります。ある大学生グループでは免許を持っているのが7人中3人ということがあり、今は免許を持たない人も多いのだと実感しました」
若者の車離れに対して、「当社では、レンタカー事業のターゲット層を個人から法人に転換させることを考えています」と野村さん。国内では免許を持つ人が減少傾向にあるが、観光業界ではレンタカーのニーズがどんどん高まっており、「数カ月単位でレンタルしたい」という声もあるようだ。ツアー事業者が抱える「車を所有するコスト」を解消できるよう、法人契約の制度も開始したそうだ。
観光業が日本経済にとって重要な役割を果たす今、移動の一端を担うレンタカー業界。時代やニーズに合わせたその動向に今後も注目したい。
取材・文=織田繭(にげば企画)
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