東京・上野にある東京国立博物館で、新たな歴史の扉が開かれた。これまで「総合文化展」として親しまれてきた常設展示が、2025年4月1日から「東博コレクション展」としてリニューアルスタート。常時展示されている約3000件の所蔵品・寄託品が、コレクションとしての魅力によりフォーカスを当てて展示される新たなかたちへと進化した。
このリニューアルを記念し、俳優の佐々木蔵之介さんがスペシャルサポーターに就任。4月7日に行われた報道発表会では、副館長・浅見龍介さんとのトークセッションも披露され、東博の“今とこれから”が熱く語られた。さらに、その直後にはギャラリートークも行われ、新たな見どころとなる金剛力士立像や、国宝に指定された法隆寺献納宝物の「伎楽面」についても詳しく紹介。まさに“東博のいま”が凝縮された1日となった。今回は現地から、佐々木蔵之介さん、浅見副館長、そして西木主任研究員の声とともに、注目の展示や新しい東博の魅力をたっぷり紹介!
佐々木蔵之介がスペシャルサポーターに就任!“蔵”つながりのご縁と、仁王像の迫力に圧倒
東博コレクション展のスタートにあわせ、俳優・佐々木蔵之介さんがスペシャルサポーターに就任。報道発表会の前には、研究員の案内で展示室を見学し、特に印象に残ったのが本館11室に展示された金剛力士立像、通称「仁王像」だったという。
「お寺の門に立っているイメージだけど、展示室で見ると“どーん”“どーん”と、まるで博物館の守り神のようで。圧巻でしたね」 とその迫力を振り返る佐々木さん。背面まで見られる展示スタイルや、展示室全体の照明・空間づくりについても、じっくりと見ていた様子がうかがえた。
トークセッションでは、副館長・浅見龍介さんとともに、スペシャルサポーター就任のいきさつや、展示作品をめぐる思い出を披露。「実は、収蔵庫のことを職員の皆さんは“蔵”と呼んでるそうで……そこから僕に決まったんじゃないかと(笑)」という“蔵”つながりのエピソードに、会場からは笑いも。
最後には来館者に向けて、「この歴史ある文化を楽しく学びながら応援できたらと思ってますので、ぜひ東博コレクション展にお越しください」とメッセージ。東博の魅力を“蔵”ごとまるっと背負ってくれる佐々木さんの言葉に、新しくなった東博コレクション展への期待がいっそう高まった。
背中にも注目!本館11室に立つ、圧巻の仁王像
2025年4月8日にリニューアルオープンした本館1階11室では、展示環境が大きく刷新された。空間全体の照明や3台の展示ケースが一新され、より見やすく快適な鑑賞体験が叶うようになった。細部の造形や色彩もクリアに楽しめる、洗練された展示空間に生まれ変わっている。
そんな11室のトピックの中心となるのが、平安時代後期の「金剛力士立像」。高さおよそ3メートル、阿形・吽形の一対が並び立つ姿は、展示室の空気を一変させるような迫力を放っている。
佐々木さんも「仁王像って普段はお寺で真正面からしか見られないんですが、今回の展示では背面まで見られるんです。研究員の方に“ちょっと背中を見てください”って言われて、見たらちょっと緩やかなんですよ。これ、贅肉ですか?って思いました(笑)」とユーモアを交えて語った。
「鎌倉時代の仁王像なら、もっとアスリートのように背中も引き締まっているそうですが、これ裏側が見れるっていうのが、おもしろかったです」とも話し、普段は見ることのできない“背中”の表情に注目していた。浅見副館長も「ちょっと中年の…」と応じ、会場の笑いを誘った。さらにこの仁王像の仮組みが始まったのが昭和43年で、奇しくも佐々木さんの生まれ年と同じ。思わぬ縁に「ご縁を感じますね」と笑顔を見せる場面もあった。
この金剛力士立像は、かつて滋賀県栗東市の蓮台寺の門に安置されていたが、昭和9年の室戸台風で大破。その後長く部材のまま保管され、昭和43年に美術院が研究資料として引き取り、約2年かけて本格的な修理が行われた。内部を大きくくりぬいて軽量化された構造や、繊細に補修された彩色など、見どころは多い。
素材はヒノキ。像の内部には「内ぐり」と呼ばれる技法が施されており、木の中をくりぬくことで重さを抑え、乾燥によるひび割れも防ぐ役割を果たしている。特にこの像では腕の内部までしっかりと内ぐりされており、阿形・吽形ともに約170キログラムと、3メートル近い大きさからは想像できないほど軽量。見た目とのギャップに驚かされる構造も、大きな見どころのひとつだ。
浅見副館長はギャラリートークで、「この展示室が開いている限り、ずっとこの仁王像は立ち続けます。『玄関を入って右を見れば、仁王像がいる』、そんな存在になってくれたら」と語った。
また、展示室には新たに高透明度のガラスケースと調整自在の照明が導入され、唇に水晶を埋め込まれた菩薩立像の繊細な輝きも、はっきりと確認できるようになった。「これまでの展示では気づけなかった細部にこそ、この像の魅力が詰まっている」と感じさせてくれる空間だ。
幻の仮面芸能、伎楽面がついに国宝へ
法隆寺宝物館では、作品保護のため毎週金・土曜日に限定公開されている重要文化財の「伎楽面(ぎがくめん)」が、新たに国宝に指定された。飛鳥から奈良時代にかけて作られた31面の仮面は、1878年に法隆寺から皇室に献納された貴重な文化財。現存する伎楽面としては日本最古、そして世界的にも類例のない希少なコレクションだ。
この日は報道発表会に続き、彫刻担当の西木正統主任研究員によるギャラリートークも実施された。伎楽とは仏教とともに伝来した仮面劇で、今では“幻の芸能”とも呼ばれている。その一端を伝えるのが、意外にもユーモラスなストーリー。鬼のような顔つきの崑崙(こんろん)が、美しい女性・呉女(ごじょ)にちょっかいを出し、最後は金剛(仁王)が現れて懲らしめるという筋立てだ。
浅見副館長はトークセッションで「仮面の中に目の穴が広がってるものがあって、“見えない”から(当時の人が)開けちゃったのでは?」と語り、演者が実際に使っていた“生きた痕跡”を紹介。佐々木さんも「開けちゃったんだ……勝手に(笑)」と笑いながら返していた。さらに「自分も時代劇でカツラに兜をかぶると、“重くて無理!”ってなるんです。それは軽量化してもらわないとパフォーマーは無理だなと思って。それをさっきお聞きしながら、確かになあって思いました。だってあれ、面をかぶるだけで、もう全部後頭部まで入ってますもんね」と、俳優ならではの視点からも感心していた。
展示室には7世紀に作られた重厚なクスノキ製の面をはじめ、時代とともに素材が工夫され、桐や乾漆といった軽量な面も並ぶ。西木主任研究員はギャラリートークの中で「仮面が演者にとって重すぎることがわかったのか、時代が進むにつれて素材がだんだん軽くなっていったことがわかります」と解説していた。どれも後頭部まである“かぶり物”型で、演者の顔を完全に覆う構造。CTスキャンによる内部調査で保存状態を確認するなど、博物館の徹底した保存・研究活動も見られた。
これら31面は、飛鳥時代から奈良時代にかけて制作された現存最古の仮面であり、“使われた痕跡”を残したまま今日まで伝えられてきたことも、今回の国宝指定の大きな理由のひとつだろう。現存する伎楽面は、東京国立博物館のこのコレクションのほか、東大寺と正倉院にわずかに伝わるのみで、その希少性はきわめて高い。
「伎楽面は、形が残っているだけでなく、人から人へと受け継がれてきた“生きた遺産”。世界的にも本当に貴重な存在なんです」と西木主任研究員。その言葉のとおり、千年以上の時を超えて今に伝わる仮面たちは、今もなお見る者の想像力をかきたててやまない。
記念に手に入れたい、東博の新グッズ
本館11室のリニューアルと金剛力士立像の展示にあわせて、新グッズも多数登場。ミュージアムショップには、仁王像の圧巻の存在感を落とし込んだ全14点のグッズがずらり。
金剛力士立像Tシャツやプリント巾着、アクリルキーホルダーなど、バリエーション豊かに展開されている。どれも存在感が抜群で、展示の世界観をそのまま引き継ぐような仕上がり。細部までこだわったデザインにも注目したい。
展示も空間も、新しく生まれ変わった東京国立博物館。足を運べば、文化財の息づかいに触れながら、思わず「すごい…」と声が漏れる瞬間に出会えるはず。東博のいまを、ぜひその目で体感してみて。
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取材・文・撮影=北村康行