最近ではスーパー銭湯や街なかの銭湯でもよく見かけるようになった炭酸泉。施設内にあるのはほぼ人工炭酸泉だが、大分県竹田市の長湯温泉エリアには天然の炭酸泉がある。その名も「ラムネ温泉」。ほかにはない温泉と旬のいちごや地産地消の創作会席を堪能し、心をゆるめる旅を紹介する。
ぬるめの温泉にじっくり入って癒やされる
竹田市は大分県の南西部に位置し、熊本県に隣接する。おんせん県だけあって、竹田温泉群は長湯温泉、久住温泉郷、竹田・荻温泉から構成される。中でも全国的にも珍しいのが炭酸含有量の多い長湯温泉。天然の炭酸泉で、しかも世界でも珍しい含鉄炭酸泉だという。そのため、お湯に入るだけでなく、飲んでもいいとされている。
炭酸泉は、お湯に炭酸ガス(二酸化炭素)が溶け込んだ温泉で、炭酸ガスを毛穴から吸収することで血行促進や疲労回復が期待できるといわれている。近年、温浴施設でよく見るようになった炭酸泉は当然ながら人工炭酸泉だが、長湯温泉の炭酸泉は二酸化炭素の濃度が高い湯が豊富に湧出する、正真正銘の天然炭酸泉。
今回は日帰り利用できる「ラムネ温泉館」に向かった。大分駅からは車で約1時間。温泉町ということもあり、近くには旅館も多い。車を走らせていると大きな建物とかわいいイラストの看板が見えてくる。建物の前に駐車場があり、利用者は無料で駐車OK。朝10時から夜10時まで営業しているので、旅行にも組み込みやすいのがうれしい。
受付で料金を支払う。大浴場は大人500円。なんとリーズナブル。料金にはタオルは含まれていないのと、ボディソープやシャンプー、コンディショナーなども設置されていない。必要なものを持参するのがおすすめだが、タオルの販売や有料のレンタルバスタオルもある。ということで持参したもろもろを持って大浴場へ。ボディソープなどはシャワールームで使用する。
体中が泡に包まれてラムネに入っているように感じる温泉
大浴場は内湯と外湯(露天風呂)があり、どちらも源泉かけ流し。内湯は42度、外湯は32度と温度が極端に違うのが特徴。なぜこんなに温度が違うかといえば、温冷交代浴ならぬ、温温交代浴を楽しむため。ちなみに女湯も男湯も基本同じ造りになっている。
内湯は仕切りがあるが、温度はどちらも同じ42度。肌寒い季節なら最初に内湯でゆっくり温まってから外湯へ。暑い時期なら外湯に入ってから内湯にサッと入るのがよさそう。
炭酸泉は温度が低いほうがシュワシュワ感が残るので、外湯は入った瞬間に泡に包まれる。ただ、32度となるとかなりぬるい。季節にもよるが冬場だと温まるとは言いにくい。なので、意外と程よく温まる温度の内湯に入る。交互に入るとどちらも気持ちよく入れる。
外湯の脇にはサウナがある。温泉だけでも十分だが、外湯のシュワシュワを水風呂代わりにしてサウナを楽しむのも実はおすすめ。32度なら普段水風呂が苦手という人でも安心して入れる。むしろ、ずっと入っていられる。いろいろ組み合わせて炭酸泉を堪能できる。
ちなみに貸し切りで利用できる家族風呂もあり、こちらは1時間2000円。予約はできないので、先着順で案内される。営業前の朝7時半から整理券を設置しているので、ちょうどいいタイミングで空いているかは運次第。
しっかり炭酸泉を満喫したら、売店もチェック。入口にあった看板のイラストはイラストレーターの南伸坊さんによるもの。何とも言えないかわいさで、さまざまなオリジナルグッズが売られている。入浴時に使えるタオルや着替え用のTシャツ、お土産にもなるトートバッグやてぬぐいなどもあるので、お気に入りを見つけたらぜひ連れて帰ろう。
シーズンラストチャンスのいちご狩りを楽しむ
大分は海の幸も山の幸も豊富で、旬の農産物もたくさんある。5月中旬ぐらいまではいちご狩りもできる。気持ちもおなかも満たされる、この時期のレジャーといえばいちご狩り。よく知られる紅ほっぺやさがほのかなどもよく目にするが、大分には大分県オリジナルいちご「ベリーツ」がある。
鮮やかな赤色と香りのよさ、甘さと酸味のバランスのよさが特徴の「ベリーツ」。大分ではスーパーや青果店などで販売されているので、お土産に購入するのもいい。シーズンもそろそろ終盤となるので、存分にいちごを楽しみたいならやっぱりいちご狩りの食べ放題がおすすめ。ということで、竹田でいちご狩りができる道の駅竹田の「水の国のわくわく農園 いちごハウス いちご狩り」へ。残念ながらベリーツではないが、ゆふおとめ、紅ほっぺ、さがほのかのいちご狩りが楽しめる。いちごの生育状況や天候によっては休園することもあるので事前予約がおすすめ。
40分の食べ放題コースは4、5月なら大人1700円で体験できる。タイミングによって食べられるいちごの種類が限られることもあるが、とにかくいちごが食べ放題という贅沢を堪能できる。
時間の都合やおなかの余裕によっては、食べ放題は無理ということも。そんなときは、持ち帰り用のもぎ取りコースもある。自分で採ったいちごをパックや箱に詰めて持ち帰れるというもの。こちらは量り売りになるので、お財布と相談しながら好きな量をお土産に。ちなみに「ベリーツ」が気になる人は県内のスーパーなどでも販売しているのでチェックしてみよう。
また、道の駅なので地元の野菜や加工品などを買うこともできる。もちろん、いちごの販売もあるので、時間がない場合はここで購入するのもアリ。またこの時期、いちごのソフトクリームも販売しているので、甘いもの好きの人はもちろん、ドライブ中のリフレッシュタイムにぜひ!道の駅のいちご農園で収穫したいちごを使っているというのもポイントだ。
道の駅内には「善米食堂」という食堂があり、「醤油仕立ての和風ハンバーグ定食」(1100円)や、「豊後牛サーロインステーキ定食(コーヒー付き)」(3800円)、大分グルメの「とり天定食」(900円)、「大分だんご汁定食」(950円)などが食べられる。県産のお米を地元のおいしい水で炊いたご飯もぜひ堪能したい。
日常の喧騒を離れて特別な時間を過ごす
温泉のあるエリアには宿泊できるホテルや宿も多い。そんな中で今回選んだのは「宿房 翡翠之庄」。茅葺屋根の母屋と内湯付き離れ、露天風呂付きの離れ、旅籠の棟から成る、趣のある宿泊施設。
母屋にはフロントとラウンジがあり、この空間に入ったらすぐに非日常感に誘われる。時間も時代もわからなくなるような独特な空気。周辺に人工的な灯りや音がないこともあり、建物の中にいながら自然を感じる。空気がいい。
木の廊下を歩くのも、図書室で古い書籍に触れることも、忙しさを言い訳にあくせくしている日々では感じられない、穏やかさに満たされる。温泉は高濃度炭酸泉の100%かけ流し。室内のお風呂もいいが、「小さな男女別浴場」を利用するのもおすすめ。露天風呂と湧水の水風呂を楽しむことができる。
丁寧に一品一品作られた地産地消にこだわった料理
旅館での大きな楽しみが食事。地元産の野菜やハーブ、“エノハ”を使って丁寧に作られた季節の味が楽しめる。まず、最初に出てきたのは9種の前菜。オーナーが特注した有田焼の容器に季節の素材を使った料理が並ぶ。一つひとつ丁寧に作られた味は、口に入れた瞬間に風味が広がり、余韻までも楽しめる。
鴨のたたき切りと地元野菜を使った鴨味噌は1986年から作り続けられている自家製。酒肴にもご飯のお供にもなる奥深い味わい。要冷蔵品だが販売もされていて、個人的にかなり気に入ったので自分用の土産に購入した。
この地ではヤマメのことを「エノハ」と呼ぶそうで、仕入れ後に湧水の水槽で活かしたエノハを氷のドームの中に入れて出してくれる。初めて食べた新鮮なエノハの刺身は、臭みなどはなく、さっぱりとして上品。
地元の野菜、地元産のお米を湧水で炊き上げたご飯、豊後牛など、すべて地産地消にこだわり、どれを食べても驚きとワクワクと感動がある。地元の食材の豊富さと、料理で季節を感じられる贅沢も噛み締める。
シメは、「幻のエノハ茶漬け」。エノハは敷地内の加工場で漬け込みから燻製までを行い、その製法は門外不出。初めて食べるのに何となく懐かしいような気持ちにさせてくれる一品で、サラサラと食べられる。
ラムネ温泉に旬のいちご、そして地元の食材をたっぷり使った丁寧な料理と滞在中は自由に入れる源泉かけ流しの温泉。慌ただしく予定ばかりを詰め込む旅や、ショッピングやアクティビティが中心になってしまう旅行とはひと味もふた味も違う過ごし方ができる大分・竹田の旅。日常を忘れることが贅沢だと心から感じられる幸せを、ぜひ味わってみて。
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