狂気のエンターテインメント映画『サブスタンス』を鑑賞。異常なまでに“美と若さ”に執着した主人公を演じたデミ・ムーアの怪演は必見!

東京ウォーカー(全国版)

2025年5月16日より全国公開された『サブスタンス』。デミ・ムーアが主演を務め、“若さと美しさに執着した元人気女優の姿”を描いたホラーエンターテインメント作品だ。公開前に試写で観た本作の感想を紹介(以下、ネタバレを含みます)。

映画『サブスタンス』で主演を務めたデミ・ムーア(C) The Match Factory


【ストーリー】
50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベス(デミ・ムーア)は、容姿の衰えから仕事が減少し、ある新しい再生医療<サブスタンス>に手を出す。

サブスタンスを接種したエリザベスの背を破り、脱皮するかの如く現れたのは若く美しい“スー(マーガレット・クアリー)”だった。

抜群のルックスと、エリザベスの経験を持つ新たなスターの登場に色めき立つテレビ業界。スーは一足飛びに、スターダムへと駆け上がる。

一つの精神をシェアする存在であるエリザベスとスーは、それぞれの生命とコンディションを維持するために、一週毎に入れ替わらなければならないのだが、スーがタイムシェアリングのルールを破りはじめ…。

(C) The Match Factory


デミ・ムーアが新しい再生医療で“より完璧な自分”を手に入れる役に挑戦!

本作のメガホンをとったのは、長編映画デビュー作『REVENGE リベンジ』(2017年)が、トロント国際映画祭やサンダンス映画祭で絶賛されたコラリー・ファルジャ監督。

『REVENGE リベンジ』は、若い女性ジェニファーが、不倫関係にある男性の知人からレイプされ、殺されかけ、そのあと加害男性たちに復讐するリベンジスリラーとして反響を呼んだ。

男たちから逃げるジェニファーが、途中で銃を手にした瞬間から「舐めたらあかんぜよ!!」と反撃し始める姿がかっこよく、彼女を徹底的に下に見ている加害男性たちに容赦なく復讐をしていく様が痛快だった。※血みどろバイオレンス映画なので苦手な人は要注意…

そんなファルジャ監督がタッグを組んだのは、『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年)や、『G.I.ジェーン』(1997年)、『チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル』(2003年)などの話題作に出演し、長年ハリウッドで活躍してきたデミ・ムーア。

正直言うと、スクリーンで彼女の姿を観たのは『チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル』以来だった。しばらく出演作に恵まれなかった彼女だが、本作で初のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、女優として完全復活を果たした。

デミ・ムーアが演じたのは、元人気女優のエリザベス。顔の皺も体のたるみ(とはいえ体のラインは十分美しい)もさらけ出し、物語が進むにつれて“若さ”や“美しさ”に執着して暴走するエリザベスを、驚くほどの怪演で体現した。

【写真】デミ・ムーアが演じるのは、新しい再生医療に手を出す元人気女優のエリザベス(C) The Match Factory


若く美しいスーを演じたのは、クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)でブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオと共演し、ドラマ『メイドの手帖』(2021年)やヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなるものたち』(2023年)などで注目を集めるマーガレット・クアリー。

個人的にはコジマプロダクション制作の『DEATH STRANDING』というゲームで彼女が演じたママー役が印象深いが、メガネをかけた少し地味なママーとは真逆のビジュアルで本作に登場する。

(C) The Match Factory


母体のエリザベスを犠牲にしてでもチャンスをつかもうとするスーの姿に注目

エリザベスは「1回の注射で新たな細胞分裂が始まり、より若く美しく完璧なもう一人のあなたを作り出す」という、再生医療“サブスタンス”を知り、興味を惹かれてサブスタンスを受け取りに行ってしまう。

接種したあと、瞬く間にDNAが分裂し、彼女の体から“より完璧な自分”が現れる。その描写にまず度肝を抜かれるので楽しみにしていてほしい。

“母体”に指示通りの処置を施した“完璧な彼女”は、エリザベスが降板させられたレギュラー番組の次に始まる番組の出演者を探すオーディションへと出かけ、審査員の前でスーと名乗る。

(C) The Match Factory

(C) The Match Factory


オーディションで見たスーを気に入ったのが、エリザベスに降板を言い渡したプロデューサーのハーヴェイ。ハーヴェイを演じたのは、『エデンより彼方に』(2002年)で、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされ、 近年は『僕のワンダフル・ライフ』(2016年)、『僕のワンダフル・ジャーニー』(2019年)で知られるデニス・クエイド。

本作ではエリザベスを無神経な言葉で傷付け、“若くて美しいスー”に鼻の下を伸ばし、トイレのあと手を洗わずにエビを素手でつかんで汚く食べるハーヴェイを圧倒的な存在感で演じきった。

ハーヴェイが気持ち悪すぎてデニス・クエイドを嫌いになりそうなほど(笑)。それぐらい嫌な役を演じたデニスの演技にも注目してほしい。

(C) The Match Factory

(C) The Match Factory


年を重ねていく中で“少しでも美しく若くありたい”と思うのは自然なこと。筆者も韓国で肌のメンテナンスやプチ整形をしたいと思い、美容外科を調べまくったことがあった。ただ、調べれば調べるほどどこを選べばいいのかわからなくなり、結局チャレンジできないまま何年も経ってしまった。

エリザベスはテレビ業界に生きる人で、一般人よりも美への執着が強い…今のままでも十分美しいのに…。そこで手を出したのがサブスタンスだが、ひとつの精神をシェアするエリザベスとスーは【1週間ごとに入れ替わらなければならない】という絶対的なルールによって後に苦しむことに…。

新番組のメインの座を射止めたスーはたちまち人気者となり、チャンスを逃したくなくて“7日間交代のルール”を破ってしまう。エリザベスに感情移入するとルールを破るスーに怒りが湧いてしまうが、自分がスーの立場だったら気持ちはわからなくもない。

大きな仕事が舞い込み、もっと上を目指してチャンスをつかもうと必死なスーを見事に演じ切ったマーガレットにも拍手を送りたい。

(C) The Match Factory

(C) The Match Factory


“美や若さなんてどうでもいい!”と心が解放される最高の1本

ネタバレになるので詳しくは書けないが、本作にはエリザベスとスーが対決するシーンがあり、さらにその先に驚きの展開が待っている。

個人的には『遊星からの物体X』や『ゼイリブ』のジョン・カーペンター監督作品が大好きなので、想像を超えたクライマックスシーンは思い切り楽しめた。“怖い”を通り越して最後は笑ってしまうので安心して鑑賞してほしい。

わりと好きな作品だったため、劇場公開後に本作のパンフレットを購入。パンフレットにはコラリー・ファルジャ監督からのメッセージが掲載されており、「この映画が言わんとしていることは、最終的には、解放なのです。解放は、人に力と励ましを与えるものです」と書かれていた。

まさに、本作のカオスな展開に心が“解放”され、“もう美しさなんてどうでもいい!若さもどうでもいい!”と最高の気分を味わえる映画だった。

『笑ゥせぇるすまん』や『世にも奇妙な物語』、『トワイライト・ゾーン』が好きな人や“度肝を抜く映画”を観たい人におすすめの本作。ぜひ劇場の大きなスクリーンで楽しんでほしい。

(C) The Match Factory

(C) The Match Factory


文=奥村百恵

(C) The Match Factory

This browser does not support the video element.

※記事内に価格表示がある場合、特に注記等がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

注目情報