刺激にあふれていて、常に先端のモノ・コトが集まっている、日本一の大都市・東京。また、東京近郊の街にもそれぞれに個性があり、その分だけ衣食住を彩る店も多数。コーヒーショップも然りだ。
「暮らしやすい街にはいいコーヒー屋さんがある」
そのことを実感できるコーヒーのバトンリレーの旅へ。
第2回は1回目の
「堀口珈琲 横浜ロースタリー」
に続いて、世田谷区船橋にある「堀口珈琲 世田谷店」を紹介。「堀口珈琲」は開業時から豆売りをメインにした“ビーンズショップ”としてのスタイルを大きく変えることなく、「スペシャルティコーヒーとは何か?」を追求し続けるロースター。
1990年に開業し、今年で創業35年。セミナーを通してコーヒーの魅力を伝える「狛江店」、生豆の仕入れ・選別拠点としてテスト焙煎の場にもなっている「上原店」をはじめ、都内各所に店舗を展開。さらに2017年には海外初出店となった中国の「上海外灘店」(フランチャイズ)、2019年には大型焙煎所「横浜ロースタリー」を新設するなど着実に規模を拡大。品質のよい生豆を仕入れ、確固たる理論を掲げて焙煎を行ってきた「堀口珈琲」は、今や全国的に知られる存在となっている。それぞれの特徴を持った店舗が展開されている中、今回は創業の地でもある「世田谷店」に足を運んだ。
街に溶け込む上質な空間
店内に入ると、そこはゆったりとした時間が流れ、誰でも気軽にコーヒーが楽しめる“街の喫茶店”。
店を構える世田谷区船橋は住宅街に飲食店や昔ながらの商店が点在する、どこかゆったりとした雰囲気が漂うエリア。「堀口珈琲」はそんな街に溶け込むように、落ち着いて“コーヒーを楽しめる場所”になっている。もともとは同ビルの2階で営業していたが、開業から6年経った頃に1階へ。移転の際、現会長の堀口俊英さんが店づくりに携わり、そのこだわりが随所に感じられる。
店内に並ぶ北欧家具は、木の質感が活かされたシャープなデザインの「カイ・クリスチャンセン」の北欧ヴィンテージ物や日本の木工作家の物で、その一つひとつのデザインは異なることも特徴。木目の優しい風合いが、クラシカルで落ち着きのある雰囲気。
「世田谷店」ではかつて個展を行っていたこともあり、その際に出会った作家や窯元の作品を今でも使用しているのだとか。手描きの柄の食器類やカップのほか、カトラリー類まですべてが一つひとつ違うもの。店内に飾られたイヤーカップのそれぞれの個性も相まって、まるでギャラリーのように楽しめる空間となっている。
コーヒーとともに季節のスイーツを味わう
「世田谷店」はメニューの数が、系列店の中で一番多いことも特徴のひとつ。パフェやケーキ、さらにサンドイッチをはじめとするメニューまで豊富なラインナップ。それぞれのフードメニューに「おすすめコーヒー」を提案し、コーヒーとのペアリングが楽しめる内容に。そしてがっつりとした食事メニューは置かず、あくまで軽食に留めているのも「あくまでコーヒー屋」という理念の現れだ。
ケーキやパフェは自社で手作り。季節ごとに手がけるメニューは、外部のフードアドバイザー協力の元、ブラッシュアップを欠かさず、納得のいく商品を提供している。自家製ケーキの中でも人気が高いのは「和栗のモンブラン」(680円)。なめらかなスポンジに熊本県産の和栗のペーストやコクのある生クリームを重ね、さっぱりとしながらも和栗の風味と生クリームの甘さが効いている。
ケーキに合わせた、おすすめのコーヒーは浅煎りのブレンド「#1 BRIGHT & SILKY(ブライト&シルキー)」ハイロースト。甘さがありつつくどさのないケーキを、ほのかな酸味が広がるコーヒーがすっきりとまとめてくれるベストなペアリングだ。常連さんが飽きずに、いつでも新しい味を楽しんでほしいと、ほとんどのメニューが毎月入れ替わる。
コーヒーの魅力に触れる入口として
淹れたてのコーヒーの提供、“ビーンズショップ”としてメインとなる豆の販売を通して、「堀口珈琲」が伝えたいコーヒーの魅力に触れられるのが、大きなポイントとなっている。
主力商品であるブレンドは3つのシリーズをそろえ、浅煎りの#1〜深煎りの#9と幅広い焙煎レンジの「CLASSICシリーズ」が定番。加えてシングルオリジンもあり、内容は常時10種類ほど。原料を基準に最も適した焙煎度で、ベストな味わいを取り出す「堀口珈琲」ならではの考えがわかるラインナップだ。飲み手としてもさまざまなコーヒーと出会い、意外な好みを知ることができるかもしれない。
良質な生豆の現地調達からはじまり、それぞれが持つポテンシャルを最適に“取り出す”焙煎までを一貫して行っている。そしてコーヒーの良し悪しを決めるのに、抽出も重要な作業のひとつ。同店ではオリジナルのKONO式ドリッパーを採用し、バリスタが一杯ずつ丁寧にハンドドリップ。焙煎度に応じてお湯の注ぎ方や抽出時間をコントロールすることで濃度を調整。焙煎によって引き出されたコーヒー豆本来の良さをそのまま味わえ、「一杯のおいしさ」がここに完成する。
店で提供するシングルオリジンのコーヒーやコーヒー豆は産地や品種のラインナップがほぼ2週間で入れ替わるため、時期によってはお気に入りのコーヒーがなくなるということもしばしば。ただこれは生産国によって豆の収穫時期が異なり、その時々で良質な豆をセレクトし、ラインナップしているから。そのような一期一会の出会いもまた「個性やポテンシャルを最大限に引き出した一杯を出す」というこだわりの表れだ。
店内のメニューも豆販売の商品と同じく、ブレンドとシングルオリジンがあり、加えてエスプレッソのアレンジメニューも用意。
コーヒーは豆の生産国だけでも数種類、そして品種・精製、焙煎度や淹れ方の違いでもさらに細分化され、初心者にはわからないのが正直なところ。しかし同店のブレンド「CLASSICシリーズ」は初めての人にも向け、豆の焙煎度と風味をチャート化し、味わいは“おいしい酸味”や“心地よい苦味”などわかりやすく表現してくれているのもうれしいポイント。「フルーティなものが好き」「程よい苦味とコクのあるものが飲みたい」といった感覚だったり、今日の気分だったりと気軽に選べるのも魅力のひとつ。コーヒーがより身近に感じられ、新たな世界への第一歩を踏み出せる、そんな一軒だ。
「堀口珈琲」レコメンドのコーヒーショップは「MUI」
「神奈川県川崎市にあるロースタリー兼カフェ『MUI』さん。店主の大沢さんは同店出身で、2013年に開業されたお店です。生豆についてや焙煎に関する知識がとても深く、自身の考えを持った“語れるロースター”であることがポイント。生豆の品質を第一に考えたコーヒーを味わい、店主独自のコーヒー論にぜひ触れてほしいです」(代表取締役社長 若林さん)
【堀口珈琲 世田谷店のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル直火式20キロ 2基
●抽出/ハンドドリップ(KONO)、エスプレッソマシン(SYNESSO Cyncra)
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/200グラム1890円〜
取材・文=GAKU
撮影=大野博之(FAKE.)
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