病気や障害のある兄弟・姉妹がいる子どものことを「きょうだい児」という。主人公の手塚ナミは、体の弱い妹がいる。「お姉ちゃんだからいい子にしてて」と言われ、妹の欲しいものを譲ったり、面倒を見る日々が続いた。ある日、大人になっても妹の面倒をみることが前提のような母親の口ぶりに、ナミは家族と距離をとろうとするが…。今回は「きょうだい児」を描く漫画家のまりさんの『きょうだい、だけどいや ケアをさせられたきょうだい児だった、けど』を紹介するとともに話を聞いた。
親がいなくなったら、面倒をみなきゃいけないの?きょうだい児に課せられる重圧
近年「きょうだい児」という言葉がクローズアップされるようになった。「きょうだい児」とは、病気や障害のある兄弟・姉妹がいる子どものことをいう。きょうだいが病気や障害であることを受けいれている人もいるが、「親に構ってもらえなかった」「親からの評価や接し方が平等ではなかった」と感じている人も少なくない。
また、「いつか親が死んだら自分が面倒を見なければいけない」と考えたり、実際、親に言葉にして言われたことがある人もいるという。一方に病気や障害があり、手がかかってしまうため、子どもながらに「仕方ない」と我慢を強いられることも多い「きょうだい児」。本作では、そのきょうだい児からの視点で物語が描かれる。
主人公の手塚ナミは、病気がちの妹がいる「きょうだい児」。親は小さいころから妹の世話が優先。ナミは我慢を強いられてきた。親は体が弱い妹を「かわいそう」といい、ナミは「お姉ちゃんだから」といって欲しいものも妹に譲らなければならなかった。
ナミが小さいときは「お姉ちゃんだから、いい子にしてて」と言われ、一人で本を読んで過ごした。小学生になると、妹の面倒を見ることが増えた。そうして、自然と「優しくてしっかり者」でいるのが当たり前になったけれど、心のなかでは不満がたまっていた。そして、大学進学を期にナミは親元を離れる決意をする。
――「きょうだい児」とはどのようなものか簡単に教えてください。
「きょうだい児」とは、病気や障害のある兄弟・姉妹がいる子どものことです。近年※ヤングケアラー(※本来大人が担うと想定されている家事・家族の世話などを日常的に行っている子ども)という言葉が知られるようになりましたが、きょうだい児の中にもヤングケアラーの役割を担っている子どもたちもいます。
――「きょうだい児」について描こうと思ったきっかけを教えてください。
私自身の親の言動・態度で、私が成人してから矛盾や違和感を感じる部分があり、そのルーツを辿ってみると、私の幼少期にきょうだいが身体的な病気で長期入院していた頃だったな、と思い出したのがきっかけでした。その体験がいわゆる「きょうだい児」としての体験だったかもしれないと思い、漫画として感情を描きとめておきたいと思ったからです。
――描くうえで大変だったところ、こだわっているところがあれば教えてください。
「きょうだい児として生きている」ことを美談にした作品にはしたくないと思っていました。ドキュメンタリー番組等で、きょうだい児の当事者の方が「共に生きていくことを受け入れていく」過程をクローズアップしたものをいくつか見かけ、そこに疑問を感じていたからです。
――「きょうだい児」がいる方に取材をされて、どのような部分を漫画に落とし込みましたか?
きょうだい児当事者である※対人援助職の方が、ご自身が病気や障害のある方々の支援を一生懸命されながらも、きょうだい児だということに関連した自身の悩みを周囲(職場の人・友人)になかなか相談できずにいることです。また、ご自身がきょうだい児だったことがきっかけで、対人援助職に就かれた方もいらっしゃいます。
※対人援助職…援助を必要とする人に実際に関わって活動をしている人。医療・保健・教育・福祉等の分野の専門職や、警察官・裁判官・弁護士・消防士等も含まれる。
――読者のみなさんにメッセージがあればお願いいたします。
親やきょうだいの存在・関係性に何か思うことがあったり、悩まれていたりする方々にはもちろんのこと、きょうだい児という言葉に馴染みのない方にも、読んでいただければうれしいです。
取材協力:のまり(@nmr_psco)
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