「限りなく黒です」医師に乳がんを告知された誕生日!抗がん剤から手術にいたるまでを赤裸々に描く【インタビュー】

東京ウォーカー(全国版)

ちくりとした痛みを感じ、触るとしこりが…画像提供:(C)夢野かつき/ 廣済堂出版

日本人の女性の9人に1人がかかるといわれている乳がん。漫画家の夢野かつき(@yumenokatsuki)さんは、40歳で乳がんが発覚した。はじめはちくりとした痛みを感じ、触るとしこりがあったことから病院へ。マンモグラフィの結果「がん一歩手前のものがある」と大学病院を紹介された。今回は、検査から治療を経て手術、そして寛解するまでの内容を赤裸々に綴った『乳癌日記』を紹介するとともに夢野さんに話を聞いた。

【漫画】本編を読む


その日は誕生日…。結果が出るよりも早く「限りなく黒です」と医者に言われた

乳癌日記08画像提供:(C)夢野かつき/ 廣済堂出版

「がん一歩手前のものがある」と大学病院を紹介され、夢野さんは乳腺・甲状腺外科を受診。再びマンモグラフィ検査と細胞検査を受けたが、翌週の結果が出るよりも早く「限りなく黒です」と言われた。その日は、夢野さんの誕生日だった。

乳癌日記10画像提供:(C)夢野かつき/ 廣済堂出版

家族に連絡をすると、お金の話になった。がんは予想以上に医療費がかかる。通院代、薬代も高く、抗がん剤投与で仕事に支障をきたすこともあるため、経済的に悩むこともあるという。当時の夢野さんは、貯金なし、低所得者で転職・引っ越しをしたばかりだった。幸いにも生命保険とがん保険をかけていたこともあり、一時金で200万の保障が出たり、家族が親身になってくれたことが救いとなった。

乳癌日記12画像提供:(C)夢野かつき/ 廣済堂出版

夢野さんは、限度額適用認定証を申請。転職して1年も経っていない職場にも連絡、と身辺を整えた。その後、検査を数回繰り返し、そのたびにお会計におびえた。検査の結果は、骨への転移はなかったものの、右乳房と右リンパにも転移していて「ステージ2B」。抗がん剤投与で経過を見ていくことになった。

絵が描けなくなるなら手術したくないと思い、医師にプレゼンしたのが第1話

乳癌日記13画像提供:(C)夢野かつき/ 廣済堂出版

――本作を描こうと思ったきっかけを教えてください。

がんはステージ2Bで脇のリンパ節にも転移していました。脇のリンパ節を切除すると「リンパ浮腫」になると聞いて、「腕が浮腫みすぎて絵を描けなくなったらどうしよう」と心配になったんです。もしも絵が描けなくなるなら手術したくないと思い詰めて、「こういう漫画を描きたいんですけど、摘出しても手術する前と同じように描けますか?」と聞こうと思って、実物を見せようと描いたのが『乳癌日記』の第1話です。先生に見せるなら、先生が興味のあるものを描こうと思ったんです。

――制作するうえで大変だったことがあれば教えてください。

病気や治療の説明などを「わかりやすく!できれば図解などを交えて!」というのを意識していました。最初のあたりは担当医に見せることだけが目的だったので、そこまで考えていませんでしたが、作品をいろんな方に読んでもらうようになってくると、「わかるように描く」と言うのが大事になってきました。しかし、いかんせん、がんにはなったものの治療に関してはわからないことばかりなので、まず自分がちゃんと理解しないといけなくて、不慣れなことばかりでとても大変でした。

乳癌日記27画像提供:(C)夢野かつき/ 廣済堂出版

――治療で一番大変だったことがあれば教えてください。

これは個人差があるので仕方がないのかなと思うのですが、治療が始まる前に副作用の説明があるものの、具体的にどのくらいの痛みや不都合が出るのか前もってわからなかったのには困りました。

たとえば、胸の大きさにもよりますが、術後、全摘したあとの傷跡に、リンパ液などの水が溜まるようになったんです。それが、本当に痛くて、つらくて。そんな痛みがあるなんて全然知らなかったので、退院したらすぐ仕事に戻ろうと考えていたけど、大事を取って休んでて本当によかったです。そんな情報どこからも入らなかったし、先生からもリンパ液が溜まるということは術前に説明はありましたが、そこまで痛みがあることは、やはり個人差があるので伝えなかったのだと思います。

乳癌日記17画像提供:(C)夢野かつき/ 廣済堂出版

――仕事や金銭面、気持ちの面で大変だったことはありますか?

治療中も、そのとき携わっていた仕事が続けられるかどうかが心配でした。当時の書籍や新聞コラムなどでも「乳がんで仕事を辞めることになった。生活もままならない」という話で溢れてました。世間でのがんの話題はひたすら不安を煽るものばかりで…。でも私の場合は、多少の休みはもらいましたが、無事に仕事を続けることができました。

これは私の職場がそういった状況に優しいところだったということも大きいので一概には言えませんが、最初からむやみにあきらめないで検討してみる価値はあると思います。職場環境と同僚の人たちの助けがあれば、がんでも仕事を続けられるケースはちゃんとあります。気持ちの面で言うと、本書でも触れていますが、抗がん剤治療中に父が亡くなってしまい、お通夜の準備などが副作用が強すぎて動くことができず、何もできなかったことがつらく悲しかったです。

乳癌日記37画像提供:(C)夢野かつき/ 廣済堂出版

――読者の皆さんにメッセージをお願いいたします。

がんになっても治療が終わり、元気になっている人がいるということを身近に感じてほしいです。治療はつらく大変ではありますが、楽しいことや好きなことは続けていてほしいし、わからないことや不安なことは、本書を読むことによって少しでも解消されたらうれしいです。

友人・知人ががんになってしまわれた方にもぜひ読んでいただきたいです。がんは苦しいものですが、ただ苦しいばかりで日々が過ぎていくものではありません。そこにはきっと周囲が手助けできるところや、周囲の手助けを必要としているところがあります。

私も、周囲の手助けがなければ仕事を続けながら治療することは難しかったと思いますし、 何よりこんなに治療中の日々を笑って過ごすことはできなかっただろうと思います。ただ遠目に心配だけしているよりも、もっと具体的な手助けを何かできるかもしれない。そんな風に考えるための手助けに、本書がなれればうれしいと思います。

――そのほかにどのような漫画を描いていますか。

日本対がん協会の子ども向けのがん読本セルポートクリニック横浜 で医療漫画を描きました。また、年内に『続 乳癌日記~すい臓がんで乳がんでしかも末期だった件について~』が発売される予定です。こちらもよろしくお願いします。

【漫画】本編を読む


取材協力:夢野かつき(@yumenokatsuki)

※記事内に価格表示がある場合、特に注記等がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

注目情報