AI時代、変わる子どもの遊び。安全にも配慮された新時代の知育アプリ「AIぬりえ」が子どもの創造性を育む

東京ウォーカー(全国版)

「AIぬりえ」は、キーワードを入力するだけで、世界にひとつだけのオリジナルぬりえが生成される、iPhone/iPad向けの知育アプリだ。これまでは輪郭に合わせて色を塗るだけだったぬりえ遊びが、「AIぬりえ」なら「何を塗りたいか」と考えることから始まり、創造力が育まれるという。投稿型のWEB図鑑「ズカンドットコム」などを運営する、株式会社ズカンドットコムが開発を手がけた。アプリ開発の背景やこだわりについて、取締役CTOの直江憲一さんに話を聞いた。

株式会社ズカンドットコム取締役CTOの直江憲一さん【撮影=三佐和隆士】


文字が読めない子どもも遊べる設計

「おどってる」「フラミンゴ」「新幹線」など、思いつくままにキーワードを入力すると、すべてが盛り込まれた線画のイラストが短時間でできあがる。「AIぬりえ」は子どもたちの自由な発想を形にしたぬりえを作ることに重きを置くアプリだ。

「トリケラトプス」や「ティラノサウルス」など、恐竜の種類を細かく指定することもできる【撮影=三佐和隆士】


主なターゲットは4〜14歳。ひらがなが読めない子どもでもひとりで遊べるよう、アプリの設計にもこだわった。恐竜や動物、食べ物などのアイコン付きのボタンが画面に並び、それらを選択するだけで絵のテーマを決めることができる。また、安全性にも配慮し、不適切な言葉が含まれていないかAIによってチェックされるので、不適切な画像や、権利を侵害する恐れのある画像の生成を防げるという。

AIの発展、遊びの転換に

開発のきっかけは、2児の父でもある直江さんが、画像生成AIの普及によって「遊びの転換期」を迎えていると感じたことだった。AIぬりえの体験会では、「宇宙で寝ているトラ猫」や「泥棒に連れ去られる赤ちゃん」など、子どもたちの自由な発想が次々と形になる様子を見ることができた。

体験会などで子どもたちが作ったぬりえを紹介する直江さん【撮影=三佐和隆士】


「子どもたちは、ぬりえを見て『今、何塗りたいんだろう』と考えるんです。これは、すごく新しい体験なんですよね。『どうしても水中でハンマーヘッドシャークが新幹線に乗ってる絵を塗りたい』って言った子がいて、実際にAIぬりえで生成してあげると、すごく喜んでくれたことが印象的でした」

また、リリース後には、「AIとふれあう第一歩としていい」という声もあった。

「AIはメガネに例えることができると思っています。メガネをかけると視力が上がるように、AIもまた、使うことで創造の幅を広げるものとして、バディのような存在として私たちの生活に溶け込んでいくと想像しています。だからこそ今後は、『いつからAIに触れさせるべきか』という議論が活発になるでしょう。そんななかで『4歳からでも使える子ども向けAI』として、この『AIぬりえ』がいいのではないかという声をいただき、とてもうれしかったです」

期間限定で全機能を無料で提供

同社が最初に手がけたのは、「画像版のWikipedia」を目指した「ズカンドットコム」。誰でも図鑑を作成したり、写真を投稿したりでき、「野鳥」「マンホール」「バラ」「韓国料理」「玄関先の守り神」など、多様な図鑑が並ぶ。なかでも「魚」の図鑑は4043種、6万4941件(2025年7月現在)と、多くの写真が投稿されている。その後、写真判定AIなどを活用して、魚の名前の候補を教えてくれる「魚みっけ」を2014年に開発した。

「『魚みっけ』は、開発当時としてはとても先進的な取り組みで、挑戦的な姿勢で事業を展開してきました。10年以上AIと向き合ってきたなかで、AIの普及により「遊びの転換期」を迎えていると感じ、注目したのがぬりえです。ぬりえは、「こんなぬりえが欲しい」と思って探すことは少なくて、いろいろな絵がまとめてあって、そこから好きなものを探しますよね。だから、ぬりえは図鑑と相性がいいのではないかと考え、『AIぬりえ』の開発に着手しました。今後は生成されたぬりえを体系的にまとめて、図鑑としても見られるようにしたいと考えています」

2013年にみんなで作るWEB大図鑑サービス「ズカンドットコム」をスタート。2014年にお魚判定アプリ「魚みっけ」、2015年に4文字コミュニケーションプラットフォーム「Ping」(株式会社オモロキとの共同開発)などをリリースした【撮影=三佐和隆士】


画像生成AIのビジネスにおいて難しいのが、生成コストの高さだという。今回はマイクロソフト社が展開するスタートアップ支援プログラム「Microsoft for Startups Founders Hub」に採択されたことで、コスト面などで支援が受けられ、高品質な画像生成が可能になった。また、2025年4月のリリースから当面の間は、すべての機能を無料で提供している。

生成された塗り絵は、プリンターで印刷することで、色塗りを楽しめる【撮影=三佐和隆士】


「プロ向けの画像生成サービスは、ビジネスとしては成立しているものの、AIぬりえのようなコンシューマー向けはまだまだ模索段階です。ポイントになるのは、領域に特化して生成されたコンテンツを再利用できるかどうかだと考えています」

今後は新たに生成する機能はサブスク化する予定だが、過去に生成されたテーマのぬりえであれば、一部を引き続き無料で利用できるモデルを検討しているという。

ぬりえが創造的な遊びに転換する未来を見たい

利用シーンは、家庭や学校、保育園、幼稚園、学童でのぬりえ遊びや、高齢者施設でのレクリエーション、大人のリラックス時間など。

「子どもが通っていた英語教室では、授業中の集中力維持にぬりえが活用されていました。『AIぬりえ』を取り入れれば、ネイティブ講師と英語で会話しながらぬりえを作るという体験ができます。実際、展示会でも英語教室を運営されている方からも興味を持っていただけましたし、今後アプローチしていきたいと考えています」

英語などさまざまな言語で入力でき、「グローバルでも通用しそう」と直江さん。現在はiPhone/iPad向けのみだが、Android版アプリも開発中という【撮影=三佐和隆士】


今後はキャラクターとのコラボや、写真をもとにしたぬりえの作成、アプリ内での色塗り機能の追加なども行い、より幅広いぬりえ体験の提供を目指すという。AIが発展し、文章や音楽、イラストも手軽に生成できるなか、そもそも人間に「創造性」は必要なのか、尋ねてみた。

「AIが出すものは、よくも悪くも平均値。私としては、引き続きどこに注意を払っていくのかが、人間の仕事になるだろうと思います。これまでは全体に気を配っていたのが、AIによって、より重要な部分に集中して、自身の創造力を発揮できるようになりました。今後は、『AIぬりえ』を通じて、ぬりえが創造的な遊びに転換する未来を見たいと思っています。『AIぬりえ』を使って遊んだ人は、そうじゃない子と比べて創造力が何パーセント高いといった研究結果が出せるのではないかと、期待しています」

取材・文=伊藤めぐみ、撮影=三佐和隆士

注目情報