創業当初カルタや花札を製造していた任天堂の元本社ビルが、リノベーションしてホテルになっているのをご存じだろうか。名前は任天堂が株式会社として設立された際の商号「丸福株式会社」にちなんで「丸福樓(まるふくろう)」。「聖地巡礼」の感覚で泊まりに来る人もいれば、1900年代初期のアール・デコを目当てに訪れる建築ファンもおり、利用客は幅広い。その魅力を探るべく、見学できるのは宿泊客のみというホテルの内部に入らせてもらった。
当時の内装を残したまま本社ビルがホテルに
任天堂の創業は1889年。京都市下京区の鴨川にかかる正面橋すぐ近くに店舗を構え、1930年、同じ場所に本社ビルを建てた。かつてこの一帯には五条楽園と呼ばれる花街があったが、2010年の一斉摘発で遊郭は廃業。今では、リノベーションしたおしゃれなカフェや宿があちこちにオープンしていて、京都で最もおもしろい地域のひとつとなっている。
そのなかでも注目したいのが、2022年にオープンした丸福樓だ。内装や建築様式は従来の姿を可能な限り残してほしいという創業家・山内家の要望のもと、リノベーションと運営を任されたのは株式会社プラン ドゥ シー。これまでにもさまざまな歴史的建造物をリノベーションしてきた同社の手によって、任天堂の元本社ビルは1930年代からあった3棟に新築棟を加えた計4棟18室のラグジュアリーなホテルに生まれ変わった。
歴史のなかに革新的な技術を取り入れた事務棟
まず案内してもらったのがホテルの入口がある事務棟。「山内任天堂」の表札がかかる玄関から中に入ると、当時のままのタイル張りの廊下が続く。大理石の壁のデザインが美しい。左手には当時の温度計や請求書受が飾られているレセプションがあり、レトロな調度品は眺めているだけでも楽しくなる。その向かいにあるゲストラウンジは、もともとは応接室として使われており、現在も当時のソファが残っている。
2階に上がるとデジタルアートがお出迎え。スクリーンの前に立つと、世界中の建造物が次々と映し出されるのだが、これらの映像はすべてAIがデザインした架空のものだ。そのほか、2階にあるのはセルフのバーカウンターとライブラリー。基本的に丸福樓での宿泊は、朝食、夕食だけでなく、軽食やドリンクが自由に楽しめるオールインクルーシブとなっており、こちらのバーカウンターもいつでも利用可能だ。
ライブラリーは、任天堂を有数の国際企業にまで成長させた創業家・山内家の理念を表現したこだわりの空間で、その名も「dNa」。壁面に広がる棚には、歴代のゲーム機とともに、二代目社長の本棚にあった片目のだるまが置いてあったり、三代目社長の創業理念に基づく「独創」の二文字が描かれた鏡のオブジェが飾られていたり。創業地ならではの歴史のなかに革新的な技術を取り入れた丸福樓らしいスペースとなっている。