群馬県の北端に位置し利根川源流域である、みなかみ町に、2025年5月のある日、スターバックス コーヒーの群馬県にある店舗からストアマネージャー(店長)やアシスタントマネージャー(副店長)たちが集まり、町の人たちと共に森林整備を行った。これは4月にスターバックスとみなかみ町との間で締結された「利根川源流から始める豊かな森林と人を育む連携協定」の活動の一環だ。この協定には、みなかみ町の間伐材をスターバックスの家具や店舗などに活用することが盛り込まれている。今回は、パートナー(従業員)たちがみなかみの森で学び森林整備を体験した一日の様子をレポートする。
自然を守るために、人の作業も循環させる
この日はグリーンエプロンの代わりに、ヘルメットや作業手袋を身に着けたパートナーたち。みなかみ町にある森に、町の人たちと共に訪れた。広葉樹、針葉樹、竹林などで構成された約2万平方メートルある森を、みなかみ町役場の小池さんの案内で歩いていく。すると、まっすぐに伸びた木々の間には、ところどころ倒木や枯れ木があることに気づく。
「手入れをしている森は、木々の間隔がもう少し開いていて光が差し込みます。でもここは、光が届かないから足元に緑が育っていないですよね。雨や雪が降っても、茂る木々に遮られて土壌にたどり着く水が少なくなるんです」と小池さん。
森林には水源を蓄えて河川へと注いだり、木々がCO2を吸収して地球温暖化を防止したりと、多面的な機能がある。しかし、木々が密集しすぎてしまうと、光が遮られて草や低木の成長が妨げられたり、木々が水分を多く受け止めることで土壌が乾燥したりする。本来の機能が低下してしまうのだ。森の機能を回復し持続可能にするために大切なのが、定期的な間伐などの森林整備。
「森を管理することが、木々を育て森の機能の回復につながります。そのために、間伐が必要になってくる。人間が手を加えたものだから、人間がきちんと管理していかなければならないんですね」
「クマも出ますよ」というひと言にパートナーたちに一瞬息をのむような雰囲気が漂いますが、小池さんはこう続けます。
「イノシシ、シカやサルも出ますよ。以前は里山に人が入っていましたが、今は里山がこういう状態なので動物が来てしまうんですね。だから人の手が入ることで獣害も減るといわれています」
パートナーたちが歩いている道は、奈良県の林業家であり、作業道アドバイザーの野村さんにより今回の森林整備のために新たにつくられた道。途中、炭焼窯の跡などがあり、以前はここに人が入り、管理され、森林資源が活用されていたことがうかがい知れる。
野村さんはできるだけ木を切らずに作業道を通すプロ。森にはよく育つ優勢木と、育ちが弱い劣勢木があるそうで「木々には種子によってそれぞれの生命があり、森は優勢木と劣勢木のしのぎあいです」と言う。
「1本1本の個体の状態を見ながら切り、雨が降っても土砂が下流域に被害を及ぼさないような作業道を作ることが大事です。山の所有者、山に入る人、伐採する人…それぞれの責任もまた循環型です」と野村さん。
森は適切な伐採と再生を繰り返すことで、水、木材、竹など循環する資源として活用することができる。持続可能な形で50年、100年先に引き継ぐために、その恵みを利用する私たちも含めそれぞれが責任を持たなければいけないのだと、あらためて考えさせられる言葉だ。
野村さんが作った作業道をぐるりと巡った後は、ノコギリで竹を切る体験をし、ランチ休憩に。みんなでワイワイと群馬のソウルフード・鳥めしを食べ、アイスコーヒーでひと息つきながら交流を深めていた。
オーナーシップをもって参加したい
午後は森の一角にある竹林で、みなかみ町の自伐型林業グループ「Linkers(以下、リンカーズ)」のメンバーにレクチャーを受けながら作業道づくりが行われた。
町の約90%を山林が占めるみなかみ町では、地域住民が主体的に森林・里山を整備する自伐型林業を推進し、自然の保全に力を入れる。みなかみ町役場の大川さんも、リンカーズに所属するひとり。その理由を、「この土地にいるからこその生業を大切にしなければいけない」と思ったからだそうで、みなかみ町とスターバックスとの活動に期待を寄せている。
「森を活かさないと、地域が成り立たちません。間伐でただ木を切ってきれいにするだけだと、木材のその先の流れが詰まってしまいます。その中でスターバックスが店舗で使用してくれることは、木を切る側から使う側への流れができる。大きなエネルギーを秘めていると思います」
作業は、リンカーズが竹を伐採し、パートナーたちが運んで大型のチッパーシュレッダーに入れていくという流れ。チッパーシュレッダーは、木材や枝を粉砕する機械。2台のチッパーシュレッダーが竹を粉砕する轟音の中、パートナーたちはヘルメットについたイヤーマフを当て、竹をどんどん運んでいく。チップはそのまま地面に敷き詰めていき、2時間ほどの作業で、道路から竹藪にふかふかとした歩きやすい道が通った。
完成した道を見て、充実感に笑顔いっぱいのパートナーたち。実はこの日、リンカーズのメンバーと初対面ではないという一人のパートナーがいた。パワーモール前橋みなみ店のストアマネージャー・山嵜さんだ。みなかみ町とスターバックスで何かが始まる…そう知った時に、「群馬の店に携わるひとりとして、受け身ではなく、オーナーシップをもって参加したいと思ったんです。まずは町のことを知ろうと調べたら、自伐型林業に出合いました」と熱い思いを語る。そこでみなかみ町でチェーンソーの講習を受けたり、リンカーズの活動を見学したりしてきたそうだ。
「森には、まだ見つけられていない、活用されていない資源がたくさんあるんだなと思いました。今回のプロジェクトでスターバックスは間伐材の活用を試みますが、そういうところに価値を見出していくのは、日本ならではのことなのかなって思いながら作業しました。群馬県からのアクションが世の中にポジティブな循環を生み出す一歩に関われるのがうれしいです」
人と自然が共生するための先進的な取り組みを、コミュニティレベルで進めているみなかみ町。その人たちとともに一日学び、体を動かしたパートナーたち。「未来のために“今できること”に携われたことがうれしい」「自然を整備することの大変さを肌で感じました」「森林整備はチームワークが大切ですね」と、一人ひとりがこの日感じたことを大切に心に刻んでいた。
森林資源を持続可能なものにする、スターバックスとみなかみ町との取り組みはまだ始まったばかりだ。どのような未来が広がっていくのか、これからも注目したい。
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