タイハーブの知恵を日本へ。民を思う国王家の気持ちから生まれたハーブブランド「アバイブーベ」とは?

東京ウォーカー(全国版)

2000種以上のハーブが存在するといわれるタイでは、医療や食生活、セルフケアなど、日常の暮らしにハーブが深く根付き、人々の健康を支える存在として親しまれている。「アバイブーベ」は、そんなタイで生まれたプレミアムオーガニックハーブブランドだ。無化学肥料・無農薬のオーガニック農場で栽培されたハーブを扱う同ブランドは、タイ国王家が民を思う気持ちから生まれたという。

日本の企業で唯一、アバイブーベ製品の販売を許可されたアバイブーベジャパン株式会社(以下、アバイブーベジャパン)の代表取締役CEOの川上隆弘さんと、東京・新宿にオープンしたタイハーブティー専門カフェ「アバイブーベハーブティーカフェ」店長の立岩啓子さんに、ブランドの歴史や日本での展開、カフェのおすすめのメニューなどについて話を聞いた。

アバイブーベジャパン株式会社代表取締役CEOの川上隆弘さん(写真左)と、「アバイブーベハーブティーカフェ」店長の立岩啓子さん(同右)【撮影=三佐和隆士】


病院を設立してタイ国民の健康に貢献

アバイブーベの起源は、約115年前にまでさかのぼる。タイ国王家の一員であり、バンコクから約120キロ離れたプラチンブリ県の領主だったチャオプラヤ・アバイブーベが、医療センターとして現在のチャオプラヤアバイブーベ国立病院(以下、アバイブーベ国立病院)を設立した。

タイ王家のチャオプラヤ・アバイブーベ【撮影=三佐和隆士】


「タイでは、『国王家は国民のために何をするのか』という考え方が根付いています。そこでチャオプラヤ・アバイブーベは、タイの国民の健康に貢献しようと考え、自身の別荘を医療施設にしたのです」(川上)

アバイブーベ国立病院はハーブの研究機関という役割も担い、医療品のほか、ハーブティーやスキンケア、ヘアケア製品など、さまざまなハーバルアイテムを「アバイブーベ」ブランドとして展開。現在では病院を中心に、約40ヘクタールにおよぶ3カ所の完全無農薬農園に加えて、製薬工場、製品工場などを擁する医療複合施設となっている。特徴的なのは、西洋医療、伝統医療、あるいはそれらを組み合わせた治療法を患者が選べる医療体制だ。

「タイでは伝統医療の医師が国家資格として認められている珍しい国です。伝統医療は、タイのハーブを取り入れた食生活などに深く根ざしていて、日頃から自己免疫力を大切にした生活を心がけていても、病気やケガは避けられません。そのようなときには、西洋医療へと移行しますが、西洋医療と伝統医療の切り替えを指示するディレクターも育成されているのです」(川上)

ブランドの理念に共感、日本での展開が実現

日本国内唯一の正規代理店であるアバイブーベジャパン。川上さんがアバイブーベを知ったときには、すでに120種類もの製品が展開されていた。世界的な大手ブランドにも匹敵する規模で、これらの製品を日本で展開すれば、おもしろい事業になるのではないかと感じた。また、マンゴスチンの果皮エキスがニキビ薬や消毒液などに使われ、国民の間で広く使われていることを知った。

「人工的な薬とは違い、傷口に塗るだけで乾燥しても抗菌・殺菌効果が持続し、添加物もはるかに少ない。植物は優れた力を持っていることに驚きました」(川上)

「この国をちゃんと知りたい」と思い、タイに3カ月間滞在していた川上さん。「タイの人たちの心の豊かさに触れ、それが事業を続ける原動力になっています」【撮影=三佐和隆士】


過去には日本の企業が、アバイブーベと事業を進めようと、交渉に来たこともあったという。だが、どの企業とも提携を結ぶことはなかった。

「当時、アバイブーベの博士は『国の財産であるハーブを製品化し、人々の命を守る仕事をしているのに、一度だけ交渉に来た人たちと何ができるのか』と言ってた。私が初めてアバイブーベ国立病院を訪れた際は、ただどのような場所なのかを、自分の目で確かめに行きました」(川上)

2度目に訪問したとき、博士から「川上は何をしたいの?」と問われたという。

「アバイブーベの理念は、『ハーブの智慧(ちえ)とともに』。これは『ハーブが持っている力で、我々は命を健康に保っている』という考え方です。この理念を日本で広めたらおもしろいのではないかと答えると、博士から日本における販売権を与えると言われたのです。この国では、企業の大きさなどではなく、人を見て相手を信用するのだと思いました」(川上)

タイハーブを日本で広めるために

2008年にアバイブーベ商品のアンテナショップを東京・青山にオープンした。しかし日本では「ハーブといえば西洋」というイメージもあり、タイハーブはなかなか浸透しなかったという。風向きが変わったのがコロナ禍だった。

「免疫力を高めるには食生活が大切だと思う人が増え、ハーブが注目されるようになった。『ハーブって漢方とどう違うんですか?』『タイハーブは西洋ハーブと何が違うんですか?』といった問い合わせが増えました」(川上)

アバイブーベのハーブはワイルド農法。畑ではなく森で栽培することで、ハーブが太陽の光を求めて自力で伸びていくため、肥料をまく必要がない。雨季があるタイの豊かな大地と相まって、植物が本来持つ生命力を引き出すという【撮影=三佐和隆士】


さらに2025年には、タイハーブの知識を広めるため、一般社団法人日本タイハーブ協会を設立。タイ保健省との連携体制を築き、より多くのタイハーブ製品を日本に届けるための土台を整えてきた。

「日本人は『ハーブは体にいい』と、なんとなくわかっているけど、どうやって生活に取り入れればいいのか、情報が少ない。タイハーブを正しく広めることが私たちの役割です」(川上)

タイハーブティー専門カフェをオープン

2025年には、東京・新宿にタイハーブティー専門カフェ「アバイブーベハーブティーカフェ」をオープン。隣接したアバイブーベジャパン直営店ではハーブティーの試飲もでき、タイハーブを手軽に楽しむことができる。

カフェでは店員と話したり、試飲したりしながら、自分に合ったハーブティーを選ぶことができる【撮影=三佐和隆士】


カフェでは、ポリフェノールの一種であるアントシアニンが含まれ、“神秘の青いお茶” として注目を集める「バタフライピーティー」と、ビタミンCやクエン酸などを豊富に含む「ローゼル」の2種類をベースにしたドリンクを提供している。

定番メニューの「バタフライピー抹茶ラテ」は、海外からの観光客などから人気があり、リピーターも多い人気メニューのひとつ。抹茶のアクセントが効いたやわらかな味わいが特徴で、グラスの中で3層に分かれる鮮やかな見た目も人気の理由だ。コーヒーのカフェインが気になる人や、刺激の強い味が苦手な人にもおすすめという。

バタフライピーラテ、バタフライピー抹茶ラテ、ベールフルーツティーオレンジソーダ、ローゼル+ソーダ、バタフライピー+オレンジ(写真左から)【撮影=三佐和隆士】


夏季限定として登場したのが「ベールフルーツティーオレンジソーダ」だ。タイでは「体の熱を冷ますお茶」として飲まれている「ベールフルーツティー」を使用し、オレンジの酸味とソーダの爽快感を楽しめる。夏バテや食欲不振になりがちな時期にぴったりという。レモングラスを加えて香りも楽しめるようにした。

カフェで提供されるメニューは、アバイブーベ病院に併設されたカフェの担当者と話し合いをしながら開発する【撮影=三佐和隆士】


「タイハーブについて知らないけれど、ドリンクの見た目のインパクトに惹かれて来店されるお客様がほとんどです。ただ、実際に注文される際は、店員と話しながらメニューを選ばれています。例えば、『目が疲れているから青いバタフライピーにしようかな』『お腹の調子が悪いからベールフルーツにしよう』など、ハーブの効果を聞いてご自身の体調に合わせて選ばれる方が多いですね」(立岩)

カフェ隣接の直営店ではハーブティーを購入することもでき、自宅でも継続して楽しめる点も好評だという。

今後はタイハーブをさらに広めるために、利用者の体調を細かくチェックして、体のメンテナンスを行うメディカルスパの展開を考えている。川上さんは「タイ保健省が多くのハーブ企業を育成していて、私たちだけでなく、より多くの企業が日本に進出してほしいと思っています。タイと日本では、食品や医薬品に対する法律も違うので、さまざまなハードルがありますが、タイのハーブを日本で広めるために貢献していきたい」と展望を語った。

取材・文=伊藤めぐみ
撮影=三佐和隆士

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