豪華絢爛、江戸城奥の世界へ。特別展『江戸☆大奥』で華やかな御殿に触れる!東京国立博物館で9月21日まで開催中

東京ウォーカー(全国版)

江戸城本丸の奥深く、将軍とその家族、そして数百人の女性だけが暮らした閉ざされた世界、大奥。その姿をひもとく特別展「江戸☆大奥」が、東京国立博物館 平成館で2025年9月21日(日)まで開催されている。会場には婚礼調度や装飾品、暮らしの道具など約180点の資料が集まり、江戸時代の奥向きの日常から格式高い儀礼までを一望できる。艶やかな色彩、緻密な意匠、時代を超えて残された品々の存在感が、訪れる者を静かに包み込む。

『搔取 萌黄縮緬地松紅葉牡丹流水孔雀模様』、『掛下帯 萌黄繻子地源氏車花束模様』 19世紀 江戸時代 東京国立博物館蔵、『間着 紅縮緬地藤棚模様』 江戸時代 19世紀 個人蔵


見どころ満載!大奥のドラマをのぞく4つの章

第1章 あこがれの大奥

まず第1章では、庶民にとっての大奥がどのような存在だったのかをひもとく。江戸城の奥深くにひっそりと隠れ、手の届かない華やかな別世界として存在した大奥。その様子は芝居や読本、錦絵といった娯楽を通じて広まり、江戸庶民のあこがれと好奇心をさらにかき立てていった。

「第1章 あこがれの大奥」展示風景


江戸後期の錦絵師・楊洲周延による『千代田の大奥』は、節句や婚礼、花見、夕涼みなど四季の行事を40場面に描き、人物の所作や衣装の文様、室内装飾まできらきらと緻密に表現した大作だ。全場面を一堂に並べる機会はめったになく、本展を担当した主任専門職の髙木結美さんも「大奥の理想像を映す貴重な資料ですね」と太鼓判を押す。

『千代田の大奥』楊洲周延筆 1894~96年(明治27~29年) 東京国立博物館蔵

『千代田の大奥』より「千代田大奥 御花見」 楊洲周延筆 1894年(明治27年) 東京国立博物館蔵


今回の展示では、2023年NHKドラマ10『大奥』で主要キャストが実際に身に着けた衣装も特別公開。瀧山(古川雄大)、徳川家定(愛希れいか)、天璋院(福士蒼汰)、徳川吉宗(冨永愛)、徳川綱吉(仲里依紗)、徳川家光(堀田真由)らの衣装は、糸一本のきらめきや布の手触りまで感じられる距離感で鑑賞できる。撮影で使われた御鈴廊下の一部セットも再現され、パシャっと記念撮影すれば、まるで物語の一員になったような気分に。さらに、漫画『大奥』(白泉社)や猫と人間のやりとりを描いた『猫奥』(講談社)も展示に登場。それぞれの作品が切り取る大奥像を見比べられるほか、歌舞伎の役者絵、草双紙も並び、外部からは決して見えなかった世界が物語や舞台でどう彩られてきたかが伝わる。

NHKの大河ドラマ『大奥』で使われたセットや衣装も展示。御鈴廊下とは、将軍が入退する際に鈴を鳴らして合図したとされる、江戸城の大奥と中奥の間を結ぶ廊下


章の最後で来場者が足を止めるのは、『奥奉公出世双六』。大奥での出世をテーマにしたこの双六は、下働きの「お目見え」「御はした」から始まり、「御仲居」「御末」などの役職を経て、将軍の子を産む「御部屋様」や、女中たちを束ねる「老女」「御側」などの高位へと進む道のりが描かれる。人生ゲームのようなマス目には、それぞれの役職が描かれ、遊びながらも大奥の階層社会が学べる仕組みだ。髙木さんいわく「なかなか上がれない高難度。ゴール目前で御小姓に戻されることも。人生の厳しさと運が試されるようなところがあるんですよ」。将軍になれるのは徳川家の男子に限られていた江戸時代にあって、女性が奉公から頂点を目指すという夢を託した双六。そこには、大奥という世界へのあこがれとともに、現実にある種の希望を見出していた当時の空気が色濃くにじむ。

『奥奉公出世双六』 万亭応賀作、歌川国貞(三代豊国)筆 江戸時代 19世紀 東京都江戸東京博物館蔵(展示終了)は、子ども用に配布されているジュニアガイドの中面の双六と一緒に見るとわかりやすい

『奥奉公出世双六』の展示空間の頭上には、本展のキャッチコピー“ーーそろそろお話しましょうか。わたくしたちの、真実を”が。ここからディープな大奥の世界が広がる


そして、いよいよ本格的な展示へ。“ーーそろそろお話しましょうか。わたくしたちの、真実を”というメッセージが掲げられたバナーをくぐると、その先には江戸時代の大奥の世界が広がっている。時をさかのぼる感覚とともに、ゆっくりとあの空間へと足を踏み入れる。

第2章 大奥の誕生と構造

第2章で迫るのは、大奥という組織が生まれ、形を成していく過程。三代将軍・徳川家光の時代、正室である御台所や側室、そして仕える女中たちの間に、厳格な序列が整えられた。礎を築いたのは、乳母であった春日局(斎藤福)。家光との深い信頼関係を背景に、その統制の仕組みをつくり上げたとされる。さらに、草創期を支えた天樹院(千姫)の功績にも光が当てられる。権力を握り、やがてその盛衰を見届けた女中たちの姿が浮かび上がる。

「第2章 大奥の誕生と構造」展示風景


千姫が江戸城に戻ってから用いた調度品、春日局の肖像やゆかりの品々が並び、草創期の息遣いがじわりと感じられる空間だ。女中の心得や決まり事が記された『諸家奥女中袖鏡』や十三代将軍家定などに仕えた瀧山が使用した品々も展示。さらに瀧山が、江戸城を去る際に使用したとされる『女乗物』も初公開されている。将軍家の女性たちが果たした政治的・文化的な役割が、具体的な姿を伴って目の前に立ち現れる。

『春日局坐像』 江戸時代 17世紀 京都・麟祥院(京都市)蔵

『天樹院(千姫)復元衣装』 2021年(令和3年) 兵庫・姫路城蔵

『女乗物』瀧山所用 江戸時代 19世紀 埼玉・錫杖寺(川口市)蔵


そして会場では、その全体像を示す『江戸城本丸大奥総地図』が来場者を迎える。御殿向や長局向、広敷向といったエリアの配置が細密に描かれ、女中たちがどのような動線で将軍や御台所に仕えていたのかが一目でわかる。厳しい序列の中で動く日常や、規律正しい組織運営の様子が、図面の上からひしひしと伝わってくる。

『江戸城本丸大奥総地図 』江戸時代 19世紀 東京国立博物館蔵


第3章 ゆかりの品は語る

第3章で追うのは、世継ぎを生み育てるという重い使命を背負った将軍の正室である御台所や側室たちの姿。大奥での日々は、常に重圧と隣り合わせだった。世継ぎの生母と正室の確執や、利害の異なる女中同士の争いなどもあったという。閉ざされた空間の中で、気丈に生き抜いた歴代のヒロインたちがここに並ぶ。

「第3章 ゆかりの品は語る」展示風景

『振袖 黒綸子地梅樹竹模様』桂昌院(お玉の方)所用 江戸時代 17世紀 東京・護国寺(文京区)蔵※展示終了

『桂昌院像』 江戸時代 1804年(文化元年) 奈良・長谷寺(桜井市)蔵


五代将軍・綱吉が側室の瑞春院に贈った、興福院所蔵の刺繡掛袱紗31枚(重要文化財)は、ひときわ目を引く存在だ。松竹梅や宝尽くし、波や雲といった吉祥文様が、金銀糸で一針一針ていねいに縫い上げられている。もともとは贈答や儀礼の場で品物を包むために使われたもので、使用後も大切に保管されてきたため、当時の姿をほぼ完全にとどめている。髙木さんも「間近で見ると、刺繍の立体感や光沢がふわりと浮かび上がってきて、本当に息をのむほど。これほどの状態で残っているのは奇跡的で、元禄文化の爛熟ぶりと職人技の高さが一度に味わえますよ」と熱を込める。

『刺繡掛袱紗』展示風景

『刺繡掛袱紗』 瑞春院(お伝の方)所用 江戸時代 17~18世紀 奈良・興福院(奈良市)蔵※会期中、展示替えあり

『黄繻子地梅に献上物「楽寿」字模様』を拡大。繊細で立体的に刺繍されているのがよくわかる


千代姫が光友に嫁ぐ際に持参した、重要文化財『純金葵紋蜀江文沈箱』もまた見逃せない。香木を納めるための箱で、内側には懸子と6つの小箱が収められている。それぞれの小箱には、『源氏物語』の「桐壺」「帚木」「若紫」「紅葉賀」「花宴」「葵」にちなんだ図様が描かれ、文学と美術の融合を感じさせる趣向となっている。小ぶりな見た目に反して、総重量は約2.6キログラムとずっしり重く、純金による華やかな意匠が圧倒的な存在感を放っている。

さらに、天璋院(篤姫)と和宮の往復書簡も並ぶ。篤姫の字は繊細で品があり、和宮の字は力強く、人物の人柄が筆跡から立ち上がってくる。書き方は「散らし書き」という美しい配列で、見た目の美しさも重んじた書き方だと髙木さんは説明する。

『天璋院篤姫像』川村清雄筆 1884年(明治17年) 東京・公益財団法人 德川記念財団蔵


第4章 大奥のくらし

第4章で迫るのは、大奥に暮らした女性たちの日常。壮麗な婚礼調度とともに輿入れした将軍の息女や、迎え入れられた御台所たちが過ごした日々が、ここに息づく。四季折々の衣装、かるたや楽器といった遊び道具、舞台に立った女性歌舞伎役者の衣装を通して、その暮らしぶりをひもとく。

「第4章 大奥のくらし」展示風景

「第4章 大奥のくらし」展示風景


マネキンに着付けられた3体の着物も見どころ。帯結びや髪型、かんざしの意匠まで丁寧に再現され、打掛の上半身を脱いで腰に巻き、帯で固定する腰巻き姿は、TVドラマではなかなか見られない貴重なスタイル。火事装束には力強い鯉の刺繍があしらわれ、火除けの願いと守りの心を込めた意匠が際立つ。

『帷子 白麻地花束紗綾形源氏車模様』と『腰巻 黒紅練緯地梅椿亀甲花菱模様』、『提帯 萌黄白段格子源氏車藤牡丹模様錦』 江戸時代 19世紀 東京国立博物館蔵

胸に鯉の刺繍が施された『火事装束 猩々緋羅紗地波鯉千鳥模様』 部分、江戸時代 19世紀 東京国立博物館蔵


篤姫が愛用した薩摩切子のガラス器のミニチュアも展示されており、嫁ぎ先でも故郷を思う姫の気持ちを静かに映し出している。髙木さんは「衣装や道具を見ると、その時代の日常にどれほどの彩りや遊び心があったのかが伝わってきます。細部まで作り込まれたものが、今もこうして残っていること自体、とても貴重なんです」と、柔らかな笑顔で語ってくれた。

『薩摩切子雛道具(部分)』天璋院(篤姫)所用 江戸時代 19世紀 東京・公益財団法人 德川記念財団蔵

『和宮手廻り小物(部分)』静寛院宮(和宮)所用 江戸時代 19世紀 東京・公益財団法人 德川記念財団蔵

『松唐草牡丹紋散蒔絵雛道具』天璋院(篤姫)所用 江戸時代 18~19世紀 東京・公益財団法人 德川記念財団蔵


舞台で活躍した女歌舞伎やお狂言師の衣装からは、色彩や刺繍、布地の質感を通じて、芸能がもたらした華やぎが伝わってくる。

『打掛 黒繻子地注連縄海老模様』坂東三津江所用 江戸時代 19世紀 東京国立博物館蔵 高木キヨウ氏寄贈

『小忌衣 浅葱天鵞絨地菊水模様』と『白綸子地重小袖』ともに坂東三津江所用 江戸時代 19世紀 東京国立博物館蔵 高木キヨウ氏寄贈


もっと特別展「江戸☆大奥」を楽しむために

冨永愛さんによる音声ガイドで、もっと大奥を詳しく!

音声ガイドナビゲーターは、NHKのドラマ10『大奥』で徳川吉宗役を務め、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』では大奥総取締高岳役で出演中の冨永愛さん。ナレーションはアナウンサーの渡邊あゆみさんが担当する。冨永さんは収録を終えて「きっと今の時代にはもうなくなってしまった技術もたくさん使われていて、それを間近で見られることは貴重なことだと思います。例えば和宮が着ていた服が時代を超えて、実際に自分の目の前にあるということは非常に興味深いことだと思います。彼女たちの生き様に寄り添うことができる、そして、より深く思いを馳せることもできると思います」とコメント。

さらに、脚本家の森下佳子さんと本展担当研究員・小山弓弦葉さんによるスペシャルトラック対談も収録され、「なぜ大奥はフィクションの題材とされてきたのか」について語り合っている。

会場限定グッズをお土産に!

会場限定グッズは、サンリオキャラクターズの雅な衣装をまとったマスコットキーホルダー(各3300円)、マグカップ(各1980円)、ダイカットステッカー(各660円)など多彩にそろう。

和装姿がかわいいサンリオキャラクターズのダイカットステッカー(各660円)

サンリオキャラクターズとのコラボグッズは超人気!


漫画『猫奥』コラボでは、主役の“吉野ちゃん”の愛らしさを詰めたアクリルキーホルダー(990円)、ポーチ(2860円)、フレークシール(880円)も登場。

吉野ちゃんグッズも勢揃い!


イラストレーター中村杏子さんの御鈴廊下をデザインしたカラフルなトートバッグ(2200円)も人気を呼びそうだ。甘党にはUHA味覚糖「コグミ」限定パッケージ(300円)がおすすめ!

カラフルで雅なデザインのイラストレーター中村杏子さんとのコラボグッズも充実


VRで大奥の華やかさ、凄さをリアルに体験

平成館1階のガイダンスルームでは、NHK『歴史探偵』によるVRを楽しめる。御鈴廊下、御対面所、御小座敷を高精細CGで巡ってみよう。わずか4分ながら豪奢な空間の広がりを全身で感じられる内容だ。片山千恵子アナのナレーションと専門家の解説を通して、背景や構造を理解しながら視覚と聴覚で臨場感を味わえる贅沢なひとときとなる。


特別展『江戸☆大奥』は、史実とドラマ、そして現代の創作までが一堂に集う贅沢な空間。豪奢な調度や衣装、緻密な図面やゆかりの品々を通して、閉ざされた奥の世界が鮮やかによみがえる。VRや撮影スポット、限定グッズも充実し、歴史好きはもちろん、初めて大奥に触れる人もワクワクが止まらない。江戸城の奥に広がる華やぎと人々の息づかいを、全身で感じに出かけてみよう。

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取材・文・撮影=北村康行

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