「勝つために寝ろ!」ハーバード大医学博士が語る「睡眠とパフォーマンス向上」の具体的なヒント

東京ウォーカー(全国版)

誰しもが「よい睡眠」をとりたいと思うもの。睡眠不足やうまく寝つけないといった眠りの悩みを抱える人も少なくないだろう。

Sports Doctors Networkが今年6月に東京大学安田講堂で開催した、世界的なスポーツチームのヘッドドクターや医療・スポーツ・食の専門家を集めたカンファレンス「Sports Doctors Network Conference 2025 in TOKYO -最先端スポーツ医療を、すべての人へ-」。同カンファレンスで、ハーバード大学医学部で神経科学と睡眠を研究するアレン・ジュギノビッチ博士が「睡眠とパフォーマンス」と題して講演を行った。

(左から)滝川クリステルさん、Dr. Alen Juginovicさん


「勝つために寝ろ」本当は能動的な“睡眠”


ジュギノビッチさんははじめに、「我々は生涯の3分の1を寝て過ごしますが、これは受動的な状態ではなく、本当に活動的・能動的なものです」と、睡眠の基本を説明する。

「睡眠中は目を閉ざして何も起きていないと思っても、実際には脳は非常に活動していて、健康、そしてパフォーマンスに重要なことが活発に脳の中で起こっているんです」

睡眠時間の不足や質の悪い睡眠は、神経学的な障害や精神疾患、高血圧、そして免疫系にも影響を与えることから感染症のリスクも高くなるというジュギノビッチさん。そして選手のパフォーマンスについては「睡眠をとっていなければ集中力は下がります。また、いい意思決定ができる可能性も下がります」と話すのに加えて、「怪我のリスクも上がるんです」と見落としがちなポイントを指摘する。

「睡眠が悪いと、コーディネーション能力が下がります。また、論理的思考や意思決定能力が低下します。そうすると間違った動きをしがちです。ダイナミックなスポーツでは、1ミリ秒でもちょっと間違った動きをしただけで、ひどい怪我になりえます。また、回復にも悪影響があります。調査によりますと、7時間から9時間寝る選手の場合、負傷の回復にかかる時間が(そうでない場合に比べて)短縮されることがわかっています。私は、選手が負傷した時には『最低でも7~8時間の睡眠が必要ですよ』と言います」。さらに「キャリアの後半になって重要になってきます」と、目先の回復のみならず長期的な健康にも関わってくることを付け加えた。

仕事や勉強の時間のために、ついついおろそかにしがちな睡眠。「『勝つために寝ろ』と言いたいです。よりよく寝ることによって、より多くの試合に勝つことができます」というジュギノビッチさんの言葉は、アスリート以外のさまざまな活動にも通じる。“寝る時間がもったいない”という気持ちを振り払うきっかけになりそうだ。

“たった1日の寝不足”が重いツケに


ナビゲーターの滝川クリステルさんからは、睡眠不足を別の日の長時間睡眠で補う、いわゆる「寝溜め」の効果について質問が出た。ジュギノビッチさんは週末の寝溜めでは、その週の睡眠不足は解消できないと話す。

【写真】睡眠負債について語るハーバード大医学博士とナビゲーターの滝川クリステルさん


「私も含めほとんどの人にとって、よく眠れない日はあります。成人の場合、7時間未満の睡眠、あるいは睡眠の質が悪い場合には、“1日睡眠が悪かっただけで”体が回復するのにだいたい数日かかります。何週間、何カ月もそれが続けば蓄積していきます。いわゆる睡眠負債と言われるものです。これは金銭的な負債と同じで、支払わなければならないわけです。睡眠の場合には睡眠をもってしか支払いはできません。慢性的に睡眠不足の人は、睡眠負債はなかなかなくなりません。エネルギーも低い、そして集中力も低い状態が続きます。週の中で悪い睡眠の日があった場合に、週末の寝溜めではおそらく即座には返済ができません」

また、「多くの学生やアスリートが睡眠について誤解していること」という質問に対しては、「短時間睡眠」と「寝る前のアルコール」の2つを取り上げた。

「99%の人は7時間から9時間の睡眠が必要です。詳細は話しませんが、特定の遺伝子の変異があるごく少数の人たちだけが4、5時間の睡眠で済みます。4、5時間で十分、眠れないという人はほとんどの場合、コルチゾールやアドレナリンが高く“生物学的な疲労を感じてはいないだけ”です」

「もう1つの誤解はアルコールに関係することです。人によっては『飲めば1秒で寝られる』という人もいます。しかし、アルコールでは早く入眠はできても深い睡眠にはいたらず、睡眠の質は悪いです。なのでいいトレードオフではありません」

「深呼吸」と「ストレッチ」でよい眠りを

大切だとわかっていても、自分ではなかなかコントロールしきれないのが睡眠の難しさ。ジュギノビッチさんは、アスリートでない人もできるという、よい睡眠へのヒントを語る。

「Sleep hygiene(スリープ・ハイジーン:睡眠衛生)というものがあります。一般的な衛生では、トイレのあとは清潔にするために手を洗いますよね。それと同じように、寝る前に一定のシンプルなことをやるんです」

ジュギノビッチさんが患者にも教えている、睡眠衛生としての2つの行動は「深呼吸」と「筋肉を弛緩させてのストレッチ」だという。

「ベッドに入る前に、まずルールを作るんです。“4秒間息を吸って、7秒止めて、8秒間を使って吐く”。この深呼吸をするとよく眠れます」

「ストレッチはパジャマのままで構いません。ベッドに寝て、爪先から頭まで順番にいろいろな筋肉を収縮させて、これ以上我慢できないというところでリリースすることを繰り返す。そうすると疲れが出て入眠できます。5分しかかかりません」

また、昼寝の理想的な条件についても語られた。

「昼寝は理想的には午後2時から午後4時の間にすべきです。さらに最大でも30分、もしかすると25分ぐらいが最大かもしれません。なぜかと言いますと、体が午後3時、昼食のあとを『睡眠の時だ』と思ってはいけないからです。『30分じゃ休まらない、2時間は必要』だという人がいるかもしれませんが、長い昼寝をすると夜の入眠の問題につながります」

「また、特に昼寝によって力を得たいという場合には『ナプチーノ』という方法があります。コーヒーを昼寝の前に摂るんです。カフェインによるブーストと、睡眠によるブースト、その両方を得られます」

トップアスリートの世界でも、普段の生活でも、睡眠の意義は共通のもの。眠りをあらためて見つめ直す知見が詰まった講演だ。

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