「お金を払う客だぞ!」寿司店で怒鳴る父が恥ずかしい…現代の常識とズレた価値観を描いた家族の物語【作者に聞く】

東京ウォーカー(全国版)

店内で喚き散らす父に店員はある行動に出た。それがさらに父を怒らせることに…。画像提供:(C)西野みや子/KADOKAWA

混雑した寿司店で20分ほど待った時、店員が少人数の客を先にカウンター席へ案内した。その光景を見た瞬間、父の苛立ちが一気に噴き出した。「俺たちよりあとに来ただろ。順番を抜かすな、非常識だぞ」。順番が回ってきても怒りは収まらず、「俺たちのほうが早く並んだ」「お金を払うお客様に失礼だろ」と声を荒らげる父。周囲の冷たい視線が突き刺さる中、立っていたのは自分の父親だった――。西野みや子さんの漫画『わたしの親が老害なんて』は、そんな逃げ場のない体験から始まる。

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ありがたかったはずの親が、いつしか謝り役を押し付ける存在になっていく

【漫画】外に出ればクレーマー!!自分の親が老害?画像提供:(C)西野みや子/KADOKAWA

『わたしの親が老害なんて』02画像提供:(C)西野みや子/KADOKAWA

『わたしの親が老害なんて』03画像提供:(C)西野みや子/KADOKAWA

高齢となった両親は近所に住み、子育て中は何かと支えてくれる心強い存在だった。しかし子どもが独立し、夫婦2人の生活が当たり前になると、親との距離は別の意味で縮まっていく。

頻繁にかかってくる電話、買い物への強いこだわり、外出先で始まる店へのクレーム。世間とのズレに気づかない親の代わりに、娘の栄子が頭を下げる場面が増えていった。「老害」という言葉が、まさか自分の親に重なる日が来るとは思ってもいなかった。

「老害」は特別な誰かの話ではないと伝えたかった

西野さんは、本作で極端な人物像を描くことを避けたという。話を聞いてくれない祖父母や、心配性で世話焼きな母など、どこにでもいそうな存在として親世代を描いた。

元教員の父は自分の正しさを疑わず、母は逆らわないまま古い価値観を押し付けてくる。主人公の栄子は夫と2人暮らしで、娘の美咲は結婚し、現在はスーパーでパートとして働いている。ごくありふれた家族構成だからこそ、違和感はより現実味を帯びて迫ってくる。

妊娠も仕事も「こうあるべき」で縛られていく苦しさ

物語の中で、親の価値観は日常の何気ない言葉として突き刺さる。栄子が妊娠した際には「最低2人産むのが母親の務めだ」と悪気なく言われ、仕事についても「男の人が外で稼ぐのだから」と家庭に入るよう促される。

帰省した美咲がつわりで食事を制限していると伝えても聞き入れられず、「お祝いだから」と寿司の出前を取る場面も描かれる。さらに、髪を染めていることにまで口出しし、善意のつもりで生き方を否定してしまう姿が浮かび上がる。

作者自身が感じてきた「違和感」が、そのまま物語の芯になった

西野さん自身も、妊娠や出産、子育ての過程で古い価値観に何度も直面してきた。つわりが重く食事ができないときに「2人分食べないと」と言われたこと、無痛分娩を考えた際に「出産の痛みは皆が通る道だ」と反対されたこと、漫画家として活動を始めても「母親が家事育児をすべきだ」と言われた経験。それらが積み重なり、本作の細部にリアルな息苦しさを与えている。

娘の味方でいるつもりでも、無意識に受け継いでしまうもの

作中で印象的なのは、栄子自身もまた価値観の連鎖から自由ではない点だ。美咲の味方でいたいと思いながらも、長年両親から浴びせられてきた言葉が無意識に体に染み込み、同じような反応をしてしまう。その揺らぎは、「老害」が他人事ではなく、自分自身の問題でもあることを静かに突きつけてくる。

強い言葉の奥にある背景を知ることが、次の一歩になる

「老害」という言葉は刺激が強く、軽々しく使うべきではない。しかし本作が描くのは、年齢ではなく、価値観を更新できないことが生む摩擦である。身近な人の背景を知り、自分自身も同じ道を歩まないように立ち止まる。そのきっかけを、この物語は静かに、しかし確かな熱量で投げかけている。

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取材協力:西野みや子さん(@miyakokko61)

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