“こどもたちが選んだ本ベスト10”を決める「小学生がえらぶ!”こどもの本”総選挙」が、2017年で創業70周年を迎えた児童書出版社・ポプラ社主催で開催中だ。小学校や2000軒を超える書店店頭、公共図書館、twitterなどで、全国の小学生に幅広く投票を呼びかけたところ、10万通を超える投票の見込みとなり、その後も伸びている。さらに、アンバサダーに芥川賞作家でお笑いタレントの又吉直樹さんを迎え、盛り上がりを見せている。
企画チームのメンバーの半数以上は、20代の若手社員。そこで今回、企画に携わっている入社3年目の岡本大さん(児童書出版局)に、「”こどもの本”総選挙」にかけるさまざまな思いを聞いてみた。
――もともと、企画のきっかけは何だったのですか?
岡本:弊社が70周年を迎えるに当たって、記念事業を立ち上げるプロジェクトが始まりました。「児童書や出版全体を盛り上げる施策を考えよう」と若手中心でアイデアを出す中で、「大人向けの本を選ぶ本屋大賞はあるけど、こどもの本を選ぶ賞ってないよね」という話になり、そこから「こどもの本の1番を決めるイベント」というアイデアが生まれました。
――なぜ、”選挙”という形に注目したのでしょうか?「18歳選挙権」やアイドルの選抜総選挙などで、最近よく聞くキーワードの一つだと思います。
岡本:こどもが自分で選ぶ形式にしよう、というのがまずありました。本屋大賞は書店員さんが本を選ぶイベントなので、そことの違いのわかる言葉を使いたいと考えました。タイトルについては、「ナンバー1決定戦」など色々と案があったのですが、ひとことでいうとこどもが本を選ぶ「総選挙」であり、こどもにもなじみのある、知っている言葉かなと。イベントがわかりやすく伝わるだろうと選びました。
――アンバサダーに又吉直樹さんが就任。5月5日「こどもの日」の結果発表会に出演予定とのことですが、なぜ又吉さんを起用されたのですか?
岡本:「本との出会い」を大切にされている又吉さんにぜひお願いしたかったんです。又吉さん自身、中学時代に芥川龍之介や太宰治の作品を読んで本を好きになったとエピソードを語っており、”こども時代に本と出会い、有意義な時間を過ごされた方”の代表として、依頼しました。
――本との出会いというお話が出ましたが、岡本さん自身が小学生の時に読んで面白かった本を教えてください。
岡本:低学年の時に読んで面白かったのは「エルマーのぼうけん」ですね。自分とあまり年の変わらない男の子が、りゅうを助けに冒険に出る。りゅうは想像の生き物で、エルマーが1人で冒険に出て、自分では絶対にできないことをやってのける物語は胸がときめきました。大人になった今でもこんな冒険が出来たら楽しいだろうな、と思える本です。
それから、年齢があがってからは「シャーロック・ホームズ」が、はじめて大人向けの本を読むようになったきっかけでしたね。アガサ・クリスティーの著作など、その他のミステリーもよく読みました。
――ちなみに、編集者となった今はどんな本を読まれるのですか?
雑食で、ミステリーも読むし、恋愛もの、女流文学と、こだわりはなく何でも読みます。仕事に役立てるというより、趣味の領域として楽しんで読んでいますね。
――出版不況と言われる中での開催ですが、難しく感じられることはないですか?
岡本:読む読まないに関わらず、”本っていいもの”という感覚はまだ多くの人が持っていると思うんですよね。本当に要らないという人はあまりいないので、こういった企画も受け入れてもらえると思います。ただ、これからのこどもたちは、本以外のメディアにも多く囲まれて育っていくので、少しは本を読む機会を作らないと、”本はいいもの”という感覚すら持たないで育ってしまうのではと感じています。このイベントに限らず、社会で“本はいいもの”と思ってもらえることをやっていかなければと考えています。
――まだ応募の段階ですが、やりがいや手応えは感じていますか?
岡本:実は、投票数が10万通を優に超えそうなんです。こどもたちのコメントが投票用紙のハガキに手書きで書いてあり、一枚一枚にいちいち感激しています。当初は数千通集まれば形にはなるという感覚だったので、予想以上の反響です。
中には、「本を読んですごく心に残ったので、読んだ本をもとに友達と劇を上演した」というコメントがありました。「登場人物の気持ちが手にとるようにわかる描かれ方だったので、同じ気持ちになって演じることができた」と書いてあり、「劇までやりたくなるような本に出会ったんだ!」と印象に残りましたね。
投票は2月16日(金)まで受け付けている。最後に、岡本さんはこどもたちに向けてこんなメッセージを送ってくれた。
――本当に好きな本は誰にでもあると思います。自分が読むだけでなく、友達と読む本を教え合ったり、面白さを共有するのもまた、読書の楽しみです。友達同士で話題になったり、自分と同じ時代に生きている皆が好きな本を知るのは、ワクワクすること。このイベントを通じて、本を読む喜びを分かち合う楽しさを知ってほしい。そして、他の子が読んでいる本を次に読む本の選択肢に入れてみてほしいです。
セキノユリカ