「ピエール&リリーのコンビを使えるのは僕だけ」 白石和彌監督が最新作「サニー/32」を語る

関西ウォーカー

サニーポーズでキメてくれた白石和彌監督


2013年公開の映画「凶悪」のスタッフとキャストが仕掛ける最新作「サニー/32」は、ネットで神格化された「犯罪史上、最も可愛い殺人犯」サニーを崇拝する男たちに拉致・監禁された女性教師の壮絶な運命を描くオリジナル作品。今春にNGT48の卒業が決定している北原里英が映画初主演を務め、ピエール瀧&リリー・フランキーの「凶悪」コンビが誘拐犯を熱演している。本作でメガホンをとった白石和彌監督にインタビューを行った。

24歳の誕生日を迎えた中学校教師・藤井赤理が何者かに拉致されるところから物語がスタート。犯人の柏原と小田は赤理のことをサニーと呼び、監禁。サニーとは14年前に起きた「犯罪史上、最も可愛い殺人犯」とネット上で神格化された当時11歳の少女の愛称。14年後に起こったサニーをめぐる新たなる事件の結末とは。サニーとして崇められる中学教師の赤理を北原が、犯人の柏原と小田をピエール瀧とリリー・フランキーがそれぞれ演じる。「凶悪」も手掛けた高橋泉が脚本を担当し、オリジナルストーリーで展開する。

『サニー/32』©2018『サニー/32』製作委員会


あらすじを読んだだけでは想像できないような展開が繰り広げられる本作。インタビュー時にあらすじを確認した白石監督も、始まって30分ぐらいまでの内容だと笑う。本作は原作モノが続いてた白石監督にとって久しぶりのオリジナル作品。だからこそ、監督自身のクリエイティビティが遺憾無く発揮されている。久しぶりのオリジナル作品を手掛けた感想を聞いてみた。「面白かったです。現場でもある程度は自由にできますから。今回は脚本の高橋泉さんと一緒に考えた話なので、制約が一切ない(笑)。現場でそこまで変更することはなかったですが、脚本は撮影直前まで練り直していました」

本作は2004年に長崎・佐世保で実際に起きた「NEVADA事件」がモチーフになっている。センセーショナルな事件だったが、ネットで異常な盛り上がりをみせた。この事件について、白石監督と脚本の高橋氏はよく話をしていたそうで、興味をもった理由を白石監督は明かす。「事件発生が2004年で、この10数年でネットのあり方が想像できなかった流れになっていると思います。学校裏サイトとか自分の半径数メートルの人のことを書いていたけど、今やトランプがTwitterで金正恩の悪口をツイートしていて、そんな暇あったら話し合ったら?と(笑)結局人間ってネットを上手く使いこなせていないんです。それがこのNEVADA事件に象徴されているような気がして。どっかで総括したいなって思いはずっとありました」

本作の着想についてを明かす白石監督


本作で映画初主演を果たした北原。サニーとして拉致・監禁され、正気を失っていくが、ある瞬間から覚醒。その様子は、北原自身の女優としての成長を見ているようだ。白石監督は、ほぼ順撮りだった撮影が功を奏したと話す。「北原さんの成長ぶりは順撮りだったことが大きく影響していると思います。今回はたまたまこういう脚本になったから、山小屋に登場人物がある程度揃っていないといけない。だから、よく見たら「あれ、みんないるぞ?」って(笑)じゃあ順番に撮ろうってことになりました。撮影日数が多くはなかったけれど、北原さんにとっても良かったと思います」

北原が演じる主人公・赤理を拉致・監禁する実行犯を演じるのが、ピエール瀧&リリー・フランキーの「凶悪」コンビ。2人の起用は脚本の完成後、監督自らの発案で決定した。白石監督からのオファーを受けた2人は断る理由がないと快諾した。「最初、瀧さんの役は20代だったんですが、いざキャスティングしようと思ったとき、北原さん演じる赤理が拉致されて異世界に入ってくる感じをどうやって出したらいいのかなと考えました。瀧さんとリリーさんなら絶対異物感が出るだろうなと。あとは動物園みたいにしたいなと思ったんで2人にお願いしました(笑)」

『サニー/32』©2018『サニー/32』製作委員会


しかし、ピエール瀧&リリー・フランキーのコンビだと、観客は「凶悪」を連想するはず。2人の起用にリスクを感じなかったのか。監督に聞いてみると、納得する答えが返ってきた。「例えば、瀧さんとリリーさんにコンビ組ませて刑事モノとかやっても『凶悪』のイメージが強すぎてできない。容易に使えないんです、このコンビは。他の人には申し訳ないですが、ほぼ僕のせいです(笑)このコンビを使えるのは多分俺だけだと思います。これは新しい発見でした」

凶悪コンビの起用について話す白石監督


北原演じる赤理の「サニー」の前に「本物のサニー」として名乗りをあげる女性を演じるのが門脇麦。アイドルとして活躍してきた北原が女優として花咲かせる前に、実力派の門脇が立ちはだかる。この大胆な起用にも白石監督の狙いがあった。「技量や女優としての経験は門脇さんの方が上だから、むしろそれぐらいの人を北原さんに当てた方が、作品にとってもいいはず。真っ向勝負させることで、北原さんが今後女優としてやっていくのに最高のはなむけになるだろうなと。細かい演出より、そういうハッパのかけ方をすることが多いです」

撮影は2017年2月、新潟で行われた。極寒での撮影にキャスト陣からは悲鳴があがったそうだが、監督は楽しかったと振り返る。猛吹雪の中、撮影されたあるシーンでは、その過酷さが観客にも伝わってくるぐらいだ。「日本海側で撮っていたんですが、冬だから北風がすごいんです。黒い雲がすごいスピードで見えてきて、そしたらあられが降ってくるんです。痛い!痛い!って言いながらも撮影してましたね。あれは本当にヤバかった。(クリストファー・)ノーランよりいい画撮るな、俺って(笑)」

白石監督は過酷ともいえる状況での撮影を「楽しかった」と振り返る


業界では今一番一緒に仕事をしたい監督とも言われている白石監督。本作も北原が「凶悪」のファンだったことでコラボレーションが実現した。業界内からのラブコールについて、監督自身はどう思っているのか。「素直にありがたいなと思いますし、監督冥利につきます。今回は脚本も北原さんをイメージしたものでもないし、常に物語ありきでそこにどういう人がハマるかを考えています。もしトム・ハーディが俺と仕事をしたいと言ったら、トム・ハーディ用の脚本を書くかもしれないですが(笑)北原さんも今後女優として成功してほしいと思っていますし、チャンスがあればまたやりたいです」

2017年は2本の作品が公開。2018年は本作を含む2本の公開が予定されている白石監督。休む暇もないほどに精力的に作品づくりを行っているが、その製作意欲はどこからくるのか。モチベーションの秘密を語ってくれた。「『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(白石監督の長編デビュー作)を34歳のときに撮ったんですが、20代に映画を撮れなかったという悔しさがあります。今の日本映画の中心にいる熊切和嘉監督、李相日監督、西川美和監督と同い年で、皆さん先にデビューして結果も残してる。僕は遅れてきた映画監督なんで、20代30代を取り戻すつもりで、今できるだけ仕事してやろうと、必死になってやっています」

映画「サニー/32」は梅田ブルク7ほかにて全国公開中。

山根翼

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