アイヌ工芸の今昔に触れる 平取町二風谷の匠の道へ(後編)

北海道ウォーカー

北海道・平取町にある二風谷。場所が奥まっていること、また文化を伝える神であるオキクルミカムイが沙流(さる)川に降り立ったという伝説からも、アイヌ文化の神秘性を今に伝える土地柄と言えます。「萱野茂二風谷アイヌ資料館」と「沙流川歴史館」を結ぶ「匠の道」では職人との触れ合いを通じて、その魅力の一端に触れることができます。匠の道をぶらりと歩いてみたの後編です。

国道237号から、二風谷湖方面に見えるアイヌの伝統的なチセ(家)群の中に工芸のチセが2棟。5月~10月まで二風谷民芸組合の工芸家が木彫りや刺繍などを行っており、無料で見学可能(10:00~12:00と13:00~16:00)です。さっそく一番近くのチセに入ってみると、民族衣装の刺繍の作業中でした。

チセのなかでは、伝統工芸の実演が……


刺繍の様子を見ていると「着てみる?」と勧めてくれます。遠慮なく横にあった完成品とマタンプシ(はちまき)を身に付けてみると我ながらなかなか似合っているではないか。「そう、アイヌの服はね、誰にでも似合うようにできているのよ」と言われ記念にパチリ。

アイヌの伝統衣装とマタンプシ(はちまき)を身に付けてみる


お礼を言い、平取町立二風谷アイヌ文化博物館を目指してチセの間の道を歩いていると、敷地内に植えられている木にこんな説明書きが。

二風谷アイヌ文化博物館を目指して歩いていると、敷地内に植えられている木にこんな説明書きが


敷地内には約100種の木がありますが、アイヌの人たちがどうやってそれらを生活の中で役立てていたのかがわかります。

敷地内にはさまざまな木が植えられている


そうしてたどり着いた平取町立二風谷アイヌ文化博物館。ちょっと変わった外観は大きな木の洞を表現したもの。その下に宝=アイヌの民具があるというイメージだそう。

平取町立二風谷アイヌ文化博物館の外観


約半世紀をかけてアイヌ民具を集め続けた故・萱野茂さんが収集したものを中心に、「アイヌ」(人々の暮らし)、「カムイ」(神々のロマン)、「モシリ」(大地のめぐみ)、「モレウ」(造形の伝統)の4つにテーマを分け展示しています。匠の道で名前を見かけた工芸家の作品も展示されており、アイヌの文化が過去だけのものではなく、現代にも息づいていることがわかります。

展示室への入り口。見事な木彫の作品が飾られている


町民は無料で入館でき、地元の子どもたちが熊を仕留める仕掛け罠の展示で遊んでいたのが印象的でした。

博物館の向かいにある二風谷工芸館はミュージアムショップのような役割も兼ねており、工房をもたない職人さんの作品にも出会えます。伝統的工芸品に指定されている二風谷イタや二風谷アットウシなど、伝統の技術を取り入れたおみやげにぴったりな商品が多数そろっています。値段も数百円と手ごろなものから10万円以上するものまでさまざま。

二風谷工芸館はミュージアムショップのよう


アットウシをアレンジした名刺入れ(5400円)やくるみボタン(1296円)は日常生活でも使いやすそう。

アットウシをアレンジした名刺入れ


ノリウツギの木で作られたチシポ(針入れ)風の携帯ストラップ(5400円)は小指の先ほどの大きさなのに、この精巧な彫り!

チシポ(針入れ)風の携帯ストラップ


おみやげもゲットできたところで、最後に二風谷湖へ。対岸に見える森は、オヒョウなどアイヌ民族の暮らしに欠かせない木々が植えられたイオル(伝統的生活空間)の森です。アイヌ民族に必要な自然物を手に入れられるようにしようというイオル再生事業は平取町で9年前から始まっています。

沙流川対岸に見える森は、オアイヌ民族の暮らしに欠かせない木々が植えられたイオル(伝統的生活空間)の森


二風谷はアイヌ語で「木の生い茂るところ」を意味する「ニプタイ」を由来とする説があり、濃い緑を見ていると、その名前が本当にしっくりきます。豊かな自然を糧にして生まれたアイヌの工芸品の数々。芸術性の高さについ目が行ってしまいますが、職人さんと話してみると、作品に親しみがわき、日常的に使う民具としての側面をより感じるようになりました。普通に歩けば5分強で通り過ぎてしまう450mにアイヌ文化の魅力がギュッと詰まっています。

※文中のオキクルミカムイの「ル」、マタンプシの「シ」、アットウシの「ウシ」、チシポの「シ」はアイヌ語表記では小文字となります。

平取町立二風谷アイヌ文化博物館 ■住所:平取町二風谷55 ■電話:01457・2・2892 ■時間:9:00~16:30 ■料金:高校生以上400円 小・中学生150円 ■休み:4/16~11/15はなし。11/16~12/15、1/16~4/15は月曜、12/16~1/15は休館 

二風谷工芸館 ■住所:平取町二風谷61-6 ■電話:01457・2・3299 ■時間:9:00~17:00 ■休み:12/30~1/5

市村雅代

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