100年ぶりの新種と期待される“クマノザクラ”ってどんな桜?発見者に聞いた

東京ウォーカー(全国版)

100年ぶりに新種の桜発見か――。日本を代表する花木の大ニュースをもたらしたのが、紀伊半島南部で発見されたクマノザクラだ。

高尾駅(東京都八王子市)から徒歩10分。都会の喧騒から離れたこの場所に、「森林総合研究所 多摩森林科学園」がある。サクラの研究や森林環境教育の研究などを行なう、森林・林業・木材産業に関する試験研究機関だ。

「森林総合研究所多摩森林科学園」内、サクラ保存林


園内には、8ヘクタールの広さを持つサクラ保存林があり、日本全国の主要なサクラの栽培品種や名木の接ぎ木クローンなどが約1400本植えられている。3月から4月にかけての開花シーズンは、「桜めぐり」を楽しむ多くの来場者で賑わう。

森林総合研究所多摩森林科学園チーム長として活躍される勝木俊雄氏


この森林総合研究所多摩森林科学園でチーム長を務めるのが勝木俊雄氏だ。樹木学、植物分類学を専門とする研究者で、クマノザクラの発見者でもある勝木氏に、クマノザクラについて話をうかがった。

【写真を見る】新種発見と期待が高まる「クマノザクラ」写真提供 森林総合研究所


「まだ新種と決まったわけではないんですよ。日本ではサクラは特別な花ですから、多くの期待が集まっているのですが」と笑顔で話す勝木氏。

クマノザクラは、勝木氏が紀伊半島南部での調査により発見した野生のサクラだ。沖縄などで見られるカンヒザクラを除くと、日本国内に自生する野生の桜は9種。クマノザクラが新種として発表されると、1910年代のオオシマザクラの発表以来、約100年ぶりの新種発表となり、野生種の10種目となるそうだ。

「分布範囲は、熊野川流域を中心に和歌山、奈良、三重の3県にまたがる南北90キロ、東西60キロのあたりです。紀伊半島南部にはヤマザクラとカスミザクラの2種が自生しています」

勝木氏は、数年前より紀伊半島南部で調査をおこない、クマノザクラを発見した。和歌山県の関係者からも「この地域のヤマザクラが2度咲く」と話を聞き、2016年から和歌山県林業試験場などと共同で、和歌山県古座川町や三重県熊野市を中心に本格的な調査を開始した。

「クマノザクラは、ヤマザクラやカスミザクラに近い特徴はありますが、葉っぱや花柄を見ていくと、別種の可能性が高いです。クマノザクラの葉は、他のサクラと比べても細長いですよね」

ヤマザクラとカスミザクラの葉は幅が広いが、クマノザクラの葉は根元側が膨らんだ細長い形をしている。花の根元にある「花序柄(かじょへい)」は、ヤマザクラとカスミザクラは長く、クマノザクラは短い。さらにクマノザクラは、ヤマザクラ・カスミザクラと開花時期が異なる。

「調査をおこなった2017年の古座川では、ヤマザクラが4月中旬、カスミザクラは4月下旬に咲きます。クマノザクラは、3月下旬から4月上旬と早い時期に咲くことが調査によってわかりました」と勝木氏は話す。

「クマノザクラ」の保全活動に関して熱心に訴える勝木氏


勝木氏は、クマノザクラの学名を発表するための論文を2017年に学会誌に投稿。学術的にも貴重な発見であり、また花としての観賞価値が高いクマノザクラ。一方で、今後重要となるのが保全活動だ。

「クマノザクラの一番の脅威は、実は栽培品種の‘染井吉野’なんです。クマノザクラと交雑して、雑種が増える可能性があると危惧しています」

‘染井吉野’は各地で植栽されており、クマノザクラが分布するエリアにも多く植えられている。今後は、和歌山県などでクマノザクラを新たな観光資源としても活用していくことを視野に、ダムや道沿いなどに植えられた‘染井吉野’をクマノザクラに植え替え、保護していく取り組みも考えているそうだ。

森林総合研究所 多摩森林科学園内の風景


サクラを愛でる季節が近づく中、日本では100年ぶりのサクラの新種発見に期待が高まる。

矢野詩織

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