女優・吉永小百合の出演120本目の映画『北の桜守』(3月10日公開)は、北海道を舞台に太平洋戦争下の1945年から約30年間にわたる親子の絆を描いた作品。今回、吉永と初のタッグを組んだ滝田洋二郎監督にインタビューを行い、吉永との撮影秘話や作品の見どころなど詳しく話を伺った。
『北の零年』(05)『北のカナリアたち』(12)に続く「北の三部作」の最終章となる本作。太平洋戦争下の1945年、ソ連軍の侵攻から逃れるため、息子と樺太から北海道・網走へと渡った江蓮てつは、戦後の苦難を乗り越えながら息子を育てる。時は流れ1971年、成長した次男・修二郎は15年ぶりに網走に戻り、母であるてつと再会。長い隔たりを経て再会した母と息子は家族の記憶をたどる旅に出る。主人公てつを吉永、修二郎を堺雅人が演じ、親子役を熱演。他にも篠原涼子、岸部一徳、阿部寛、佐藤浩市ら豪華キャストが集結。『おくりびと』の滝田洋二郎監督がメガホンをとった。
──撮影の1年以上前から滝田監督と吉永さんが樺太へのシナハンを行い、脚本についても意見を出し合ったと伺いました。
まずはそこに行ってみようと。例えば流氷のある地方に育ったのなら、流氷をちゃんと目で見て空気を吸って体感して、どんな風に生きてきた人なんだろうって想像して人格形成をしていきました。樺太には廃線になってますが鉄道とか家屋とか当時の日本を思わせるものが残っていたんですよね。
──肌で感じたものをシナリオにフィードバックさせたと?
そうですね。匂いやその場の空気を吸うってことが大事だなって。そこで感じたことを意見として出し合って、方向付けをしました。シナリオは1年ぐらいかかりましたね。
──吉永さんとはシナリオについて、どのようなお話をされたんですか?
吉永さんが演じたてつを母親として、また女性として、そして妻としてどんな人物にすべきか意見を出してくれました。生きていく中でいろんな男性の助けもあったし、優しいと思えばそうじゃないって人もいて。それでも精一杯生きていて、今があるんだと。てつの人物像は吉永さんのアイデアが反映されています。
──本作では劇中に演劇を挟む演出をされていますね。長年の吉永さんファンにも新鮮に受け止められ、また画期的なアイデアだと感じました。このアイデアはどこから生まれたのですか?
ラストで小椋佳さんの歌とコーラスを使ってみたいなと思っていて、映画の企画として舞台と結びつけることはできないかという話から始まったんです。舞台では戦時中のシーンを描いていますが、戦争のシーンは実写でやってもリアルにしか映りませんから。
──悲惨なイメージが色濃くなるだけだと?
そうですね。戦争のシーンをたくさん撮っても同じものを見ている印象にしかならないし、そこを協調しても悲惨なイメージだけが残るので、あまり意味がないなと。むしろ、てつの記憶の風景として舞台を活かすことを考えました。抽象的に描くほうが、内容が入りやすいかもしれないという狙いがありましたね。
──その演劇パートを演出するのがケラリーノ・サンドロヴィッチさんですが、若者に絶大な人気を誇るケラさんにオファーした理由は?
今をときめく演出家のケラさんが戦争をどう解釈してくれるか期待を込めてオファーしました。古い考えだと歴史のリアリティだけを求めようとするので、それを踏まえてもっと若い世代に戦争を解釈して表現してほしい。それなら彼しかいないと。
──意外にも吉永さんは舞台演劇が初挑戦だったそうですね。
違和感なかったですよね。吉永さんとしては、ひとつの映画の中に2つの作品があるわけですよ。吉永さんは映画と演劇、それぞれどのくらいのテンションで演じるべきなのか、そのあたりはケラさんと僕も含めて時間をかけて話し合いをしました。
──本作で吉永さんとは初タッグということで、実際に吉永さんとお仕事をされてみての印象を教えてください。
やっぱり映画の人なんだなって。すべての仕事がスクリーンを介してどう映るかを頭の中で考える。まるで枠が映画なんですよね、行動も考え方もすべて。映るものだけじゃなくて、映らないものも含めて映画的サイズで考えて役へアプローチする姿勢も素敵でした。
──吉永さんがおにぎりを食べるシーンが印象的でした。また、吉永さんの握るおにぎりも美味しそうで。おにぎりは三角ではなく、少しいびつな丸いおにぎりでしたね。おにぎりにはこだわりがあったのでしょうか?
手でキュッキュッって音がする感じがいいですよね。形は地方や家によって違うから、丸くていいかなって思ったんですが、最近おにぎり論になってて、観た人から三角じゃないのかって言われるんです(笑)映画のおにぎりは丸いですが、手の平に入るサイズで愛情たっぷりな感じが良くでてたと思います。
──吉永さんの息子を演じた堺さんですが、吉永さんと並ぶと本当の親子のように見えますね。
不思議と親子に見えますよね。堺さんとは『壬生義士伝』(03)以来だったんですけど、いろんな作品を背負ってこられたのもあってますます線が太くなってきたと思いました。今回は屈折感をどうやって表現するのか、難しい役だったと思いますが、うまく演じてくれました。
──堺さんの演技を見て監督はどう感じましたか?
最初は嫌味な奴で弱者の弱みとか嫉みを含んだ屈折感が難しかったと思います。彼が演じるとなぜか説得力が出るんですよね。修二郎というキャラクターをうまく作ってくれたと思っています。
──撮影中の吉永さんと堺さんはどんな雰囲気でしたか?
堺さんはあまり人に媚びないというか、相手が誰でもマイペースなんです。みんなが吉永さんだけを見ているんじゃなくて、堺さんのような人がまた違う視点から全体を見てくれるのも面白いなと思いましたね。
──タイトルにもある「桜守」ですが、この作品を通じて始めて桜を守る人「桜守」を知りました。滝田監督は桜守のことはご存知でしたか?
知ってはいましたが、何をやるのかを詳しくは知りませんでした。桜って寿命がないと思っていましたが、寿命があるんですよ。ソメイヨシノは接ぎ木で増やしていくので、ある種人口的な桜なんです。普通の寿命が60〜80年ぐらいで、人の手が入って100年ぐらいもつのかな。だから誰かが手を加えてあげないと廃れてしまう。それが人生と似ているなって思いましたね。
──最後に本作の見どころをお聞かせください。
どんな風に生きていても老いは誰にもやってくることなので、自分に置き換えて観ることができる作品だと思います。また若い人には親を見守る子供の目線で観てほしい。共感できるキャラクターの方がたくさんいらっしゃるので、幅広い人に観てほしいですね。
【関西ウォーカー編集部/ライター山根 翼】
山根翼