スターバックス日本上陸30周年記念コーヒーの舞台裏。スマトラ島のワハナ農園が育む特別な1杯

東京ウォーカー(全国版)

北スマトラのトバ湖周辺に広がるシディカラン地区は、標高約1200メートルの高地にあり、赤道直下の気候と豊かな雨に恵まれた世界的なコーヒー産地だ。スターバックス ジャパンの30周年を記念する特別なコーヒー豆は、この地域の複数のサプライチェーンを通じて調達される。そのなかで中心的な役割を担うのが、園内で250世帯が暮らし、多くの人が収穫や工場での作業に携わる大規模農園「ワハナ エステート」だ。

日本上陸30周年記念コーヒーの「SUMATRA Masa Depan(スマトラ マサ デパン)」が生産されている、ワハナ エステート(農園)


今回は、農園のオーナーであるアンドゥリさんと、2010年頃から取引を続けてきた地元の生産者の人々に直接インタビューを行い、記念豆の誕生に込められた取り組みや彼らが歩んできた道のりをじっくり聞いてきた。

電気も水道もない土地から。情熱で切り拓いたコーヒー農園の始まり

ワハナ エステートは、スマトラ島唯一の大規模農園(エステート)だ。自社農園の管理だけでなく、最新設備を備えた加工場(ウェットミル)として、近隣の小規模農園から持ち込まれるコーヒーチェリーの買い取りと加工も一括して行う複合的な施設である。農園内には250世帯が暮らし、多くの人々がここでの作業に従事する1つのコミュニティを形成する。

ワハナ エステート(農園)のオーナー、アンドゥリさん


この農園のオーナー・アンドゥリさんは、2007年にこの土地にやってきた。当時の様子をこのように振り返った。

「2007年にこの土地に来た当時は、全くここには水道や電気設備など何もない状態で、ここで開発をいろいろ始めていきました」

水道も電気もない状態から、2008年前半にかけて施設を少しずつ整備し、最初に作ったのが加工場(ウェットミル)だった。品質の一貫性を保つためには、収穫されたばかりのコーヒーチェリーの段階から買い取り、すべての加工工程を1つの施設で一貫して管理することが第一の目標だったそう。

良質なコーヒーチェリーだけが、スターバックスコーヒーの生豆となる


「それぞれの農園で加工してもらうとやり方が変わってきますので、適切なコーヒーができない場合があります。チームでコーヒーチェリーを買って、きちんとコントロールして、スターバックスの要件に合わせた加工をしていったほうが、一貫性のある品質ができるんです」

この判断と実行が、今日のワハナ エステートの品質を支える土台となった。アンドゥリさんにとって、この農園は幼い頃からのなじみ深い場所でもある。

「子どもの頃の休みには、いつも母と工場に行っていました。コーヒーの木の間を飛び跳ねながら、別の区画へ移動して遊んでいました。工場の中でもです。あの場所は私にとって遊び場でした」

大学卒業後にコーヒービジネスの道を選び、自身のショップを経営した経験もあるアンドゥリさんは、「コーヒーは今の私の人生そのもの。新しい課題に向き合いながら、学びが一生尽きないのがコーヒーのおもしろいところ」だと語る。

30周年記念コーヒーだけの特別な加工。変化する気候と品質へのこだわり

通常、スターバックス向けに出荷されるスマトラコーヒーの多くは、現地特有の半水洗式(ウェットハル)で加工される。スマトラの土壌や気候条件がもたらす、複雑で重厚な味わいを引き出すための伝統的な手法だ。

しかし、今回の30周年記念コーヒーには、通常のスマトラ産コーヒーとは異なる特別な加工法が用いられた。それが水洗式(ウォッシュド)と乾燥式(ナチュラル)だ。同じ土地で収穫されたコーヒー豆でありながら、異なる加工を施すコーヒーをブレンドすることで、スマトラ産コーヒーの新しい味わいと魅力を引き出す試みが行われた。

農園内の加工場では、徹底した品質管理を実施する。運び込まれたコーヒーチェリーは、コレクターと呼ばれる仲介業者や地域ごとに別々のタンクに分けられて管理される。30周年記念コーヒーの加工に使われる水洗式用のもの、通常のスターバックス向けの半水洗式用のもの、そして乾燥式には間接的な蒸気を使った温風ドライヤーなども用いながら、同じ施設の中で目的や用途に応じて工程を細かく管理している。

ワハナ エステート 工場内の風景


また、近年の気候変動への対応も重要な課題だ。かつては10月が収穫のピークだったが、現在は3から4月に前倒しになりつつあり、開花から結実までの期間も短くなった。雨が増え、日照時間が減少している対策として、最近では乾燥場に屋根を設けた。乾燥式のプロセスでは、温風ドライヤーを使用し、45から50度の温度で8日間かけてゆっくりと乾燥させるなど、環境の変化に応じた技術的な工夫を続ける。

地域の生産者を最優先に。コーヒーコミュニティとともに成長する農園

コーヒーの安定した品質と生産量を維持するためには、日頃の農園管理が欠かせない。ワハナ エステートでは、木の区画管理や年1回の土壌改良を継続的に実施する。木が成長し、生産性が落ちてきたタイミングで新しい苗木への植え替えを行うが、その際、自社農園よりも地域の小規模生産者への苗木提供を優先するというルールを設けた。地域社会とのパートナーシップを最優先にする姿勢が、ここには一貫して存在する。

ファーマーサポートセンターを通して、生産者へと渡るコーヒーの苗木


また、スターバックスのファーマーサポートセンター(FSC)との連携も、品質向上に大きな役割を果たしてきた。2015年のFSC設立以来、新品種の選定や農業技術の指導を共同で進行中。さらに、FSCのモデル農園で実証された新品種は収穫量が多く、生産者からの需要も高い。今後は加工場から直接、近隣の生産者に13万本の苗木を配布していく計画が進んでいるという。

スターバックスのファーマーサポートセンター(FSC)


生産者の生活を変えたスターバックスとの出合い

アンドゥリさんの案内で、2010年頃からワハナ エステートと取引を続けてきた生産者の人々に話を聞くことができた。長年コーヒー栽培に携わってきたある生産者は、自らの生活とコーヒーの結びつきについてこう語る。

地元の生産者さんにも話を聞くことができた


「私もずっと両親を見習ってコーヒーに携わってきました。学校に行けるのも、コーヒー生産者であることのおかげです」この地の人々にとってコーヒーは、家族の生活を支える大切な存在である。

スターバックスのFSCと取引を始めてから、栽培方法には大きな変化が生まれた。それまでは行われていなかった、強い日差しや病害虫から木を守る「シェードツリー」を導入し、定期的な剪定の方法を学んだ。その結果、生産性が向上し、収穫量と品質がともに高まったという。
「よい価格でコーヒーを買ってもらえるように、これからも品質を維持していきたい。私たちが作ったコーヒーを、ぜひ日本の多くの消費者に手にとって、楽しんでもらえたらうれしいです」

生産者の人々は、自分たちの手で育てたコーヒーが遠く離れた日本に届くことを楽しみに待つ。そして、次のように付け加えた。

「ここでどのようにコーヒーが育てられ、加工されているのかを、ぜひ見に来てほしい。私もいつか日本に行ってみたいです(笑)。日本のバリスタの皆さんにもぜひここへ来ていただき、コーヒーの技術を教えてほしい。一緒にコーヒーを楽しめる日を心待ちにしています」

スマトラから日本の店舗へ。1杯のコーヒーが結ぶ未来への架け橋

スターバックス コーヒー ジャパンの30周年という節目に届けられるこのコーヒーには、スマトラの自然の恵みだけでなく、水道も電気もない状態から農園を築いた人々の努力、気候変動に向き合う現場の知恵、そして日々農作業に励む人々の思いが込められる。

アンドゥリさん(中央)と地元の生産者さんたち


「私の情熱は、生産者と消費者、バイヤーなどをつなげることにあります。それによって、すべての人の生活がよくなると思っています」

日本とスマトラを結ぶ、ワハナ エステート(農園)で育つコーヒーの木


アンドゥリさんが語るこの言葉は、農園と日本の店舗、そしてお客様を結ぶあたたかなパートナーシップやサプライチェーンにおける多様なつながりを象徴する。スマトラの農園で丁寧に手摘みされ、大切に加工された1粒のコーヒー豆は、多くの人々の手を経て日本のスターバックスの店舗へと届けられた。

日本上陸30周年記念コーヒーの「SUMATRA Masa Depan(スマトラ マサ デパン)」


この30周年記念コーヒーを手にするときは、ぜひ現地の人々の思いとともに、この特別な1杯を楽しんでみてほしい。

スターバックスのコーヒー生産地を訪ねて【前編】スマトラの豆ができるまで

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