生産地の挑戦を最高の一杯へ。スターバックスのマスターロースターが届ける30周年の物語

東京ウォーカー(全国版)

焙煎機からふわりと立ち上る、甘くフルーティーな香り。スターバックス リザーブ(R) ロースタリー 東京では、お客さまから見える低いガラス張りの仕切りの向こう側で、マスターロースターの木戸田さんが、とてもうれしそうな笑顔で真新しいコーヒー豆を見つめていた。

スターバックス リザーブ ロースタリー 東京で、マスターロースターとして活躍する木戸田さん


スターバックスの日本上陸30周年を記念する特別なコーヒー豆「スマトラ マサ デパン」。その開発プロジェクトは、2年前の冬から密かに動き出していた。遠く離れたインドネシア・スマトラ島の農園による果敢な挑戦と、日本の焙煎チームの情熱が静かに重なり合って生まれた一杯である。

焙煎とは、産地の人々が積み重ねてきた仕事の延長線上にある仕上げ工程だ。生産者の努力を裏切らず、全国のパートナーの手を窓口にしてお客さまへ届けるために。一杯のコーヒーが出来上がるまでの、あたたかな共創のストーリーをのぞいてみた。

生産地の「挑戦」に、焙煎の技術で応える

「今回の記念コーヒーは、30年の歴史のなかで初めて、私たちが焙煎のプロファイル(レシピ)と色を決めることに関わることができた、本当に特別なコーヒーなんです」と、木戸田さんは教えてくれた。

選ばれたのは、インドネシア・スマトラ島にあるワハナ農園のコーヒー豆だ。水洗式と乾燥式という、2つの異なる加工法で作られた豆がブレンドされている。雨が多いスマトラにおいて、水分を多く含む状態でコーヒー豆を乾燥させる加工法を取り入れるのは非常にリスクが高い。それでもワハナ エステート(農園)は10年以上にわたって試行錯誤を重ね、天候リスクの高いこの加工法で、今では日本全国のスターバックスで安定した味わいを届けられるだけの品質を確立している。

「彼らの難しいチャレンジが1番引き立つように、甘味が1番引き出せる焙煎を選びました。彼らの努力を知っているからこそ、手に取った瞬間にリスペクトの気持ちが湧いてきます。ものすごい豆を焙煎させてもらえるんだ、と胸が熱くなりました」

その日のコンディションによって焙煎具合が変わるので、定期的に豆の具合をチェックする


しかし、水洗式と乾燥式のコーヒー豆をブレンドした状態で同時に焙煎するのは、ロースターチームにとっても高い壁だった。火の入り方が全く違うため、同じ窯に入れると、片方が焦げてしまったり風味が引き出せなかったりする。

これまで積み重ねてきた経験を活かせる、無難な道を選ぶか。前例のない、難しいけれどさらにおいしい道を選ぶか。チームが選んだのは後者だった。

国境を越えてつながる、作り手たちの約束

この特別なコーヒーが商品化に向けて動き出していた頃、木戸田さんはタイのバンコクに出張した。そこには、忘れられない出会いが待っていた。

現地のスタッフが「紹介したい人がいるんだ」と連れてきてくれたのは、ほかでもないワハナ エステート(農園)のオーナーであるアンドゥリさん本人だった。

ワハナ エステート(農園)のオーナー、アンドゥリさん


実は前年にも一度出会っていた2人。けれど当時はプロジェクトが動き出す前で、木戸田さんは「あなたたちのコーヒーを私たちが日本で焙煎します」と伝えることすらできなかった。あのとき、目の前にいるアンドゥリさんのひたむきな決意を感じながら、木戸田さんは心の中で「この素晴らしいコーヒーを、いつか必ず日本で最高のコーヒーに仕上げてみせます」と静かに強く誓っていたという。

豆は焙煎具合によって、色や香りが変わってくる


1年越しの約束が、思いがけない形で実を結んだ瞬間だった。これまでの敬意を伝え、試作豆を手渡したとき、自分でも想像していた以上に号泣してしまったのは木戸田さん自身だった。

「あなたたちのあきらめないチャレンジは、コーヒー豆を触った瞬間にしっかりと伝わってきました。だからこそ、私たちもチームみんなで成長したいと思って、この難しい焙煎に挑戦したんですよ」

あふれる涙とともにそう伝えると、アンドゥリさんと強く握手を交わした。

「自分たちがもっと知識をつけて努力し、さらにおいしいコーヒーを作るから。そう力強く約束してくれた彼の姿を見て、言葉は違っても、おいしいコーヒーを届けるという情熱は同じなんだと、あらためて胸がいっぱいになりました」

スターバックス リザーブ ロースタリー 東京に到着した、「スマトラ マサ デパン」の生豆が入った麻袋。到着後、トラックから荷下ろしされる

麻袋は、パートナーの手で一袋ずつ開けられ、異物が混入していないか、異臭がしないか、入念なチェックが行われる

焙煎が終わった「スマトラ マサ デパン」は、1階の焙煎機から3階へ運ばれ袋詰め。そして、カウンター前のコンベアを移動していく

最後にパートナーの手で最終チェックして箱詰めされる

箱詰めされた「スマトラ マサ デパン」は、ここから全国のスターバックスの店舗に届けられる


そう振り返る木戸田さん。カップの向こう側には、数え切れないほどたくさんの人たちがいる。サプライチェーンを途切れさせず、大切に育てられた豆を届ける。そこには、ビジネスの枠を超えた、人と人との深い絆が結ばれていた。

いつもの日常にそっと溶け込む一杯と、未来へのバトン

木戸田さんは、今年でスターバックスに勤めて18年目を迎える。キャリアのスタートは2009年、店舗で緑のエプロンを身に着けたアルバイトのバリスタだった。

焙煎を終え、コーヒー豆を冷ます工程に進む


当時は、周囲の優れたパートナーたちに比べてラテアートをきれいに描くことができず、自分の技術の未熟さに落ち込む毎日を過ごしていた。周囲と比較しては「自分は下手だ、恥ずかしい」と思い悩んでいたという。

そんな彼女の意識を大きく変えたのは、ある静岡のコーヒー店主との出会いだった。その店主から「スターバックスのサイレンのマークには、それだけの誇りがある」という言葉をかけられた木戸田さん。その語らいをきっかけに、世界中に広がるサイレンマークが持つ重みや、地域のお客さまにコーヒーを提供し続けることの価値に気づかされた。

「バリスタとして目の前のお客さまに一杯を届けることの重さ、企業理念を体現し地域の一員としてそこにあるスターバックスの誇りを知ることができました」と、木戸田さんは当時を振り返る。

それからというもの、コーヒーの奥深い科学と魅力に強く引き込まれていった。知識を貪欲に吸収し、7つの店舗でたくさんの出会いと経験を重ねるなかで、店舗からロースタリーへと活動の場を移す。そして今では、世界に十数人しかいないマスターロースターという責任ある立場に立っている。

木戸田さんにとって大切な役割の1つが、ロースタリーの仲間へ、学んできた技術を継承していくこと


18年前、緑のエプロンを身に着けたばかりのアルバイトだった自分自身が、まさか日本上陸30周年の特別な豆を自らの手で焙煎し、プロファイルを決める未来が訪れるとは想像もしていなかった。だからこそ、ここまでの歩みを支えてくれた人々への感謝は今も尽きない。

「私たちは魔法使いではないので、何もないところから新しい味わいを生み出すことはできません。素材が持っているいいところを見極めて、それを最大限に活かす。それこそが、私たちの役割なんです」

日本上陸30周年記念コーヒーとして発売された、「スマトラ マサ デパン」は、全国のスターバックス コーヒーの店舗で購入することができる


30周年記念豆のパッケージには、インドネシア語で「Masa Depan(未来)」という言葉が記されている。店舗に納品されるパッケージは、有名なアーティストが手がけた3種類のカードがついており、選べる楽しみも用意されているという。

生産者、ロースター、飾らない店舗に立つパートナーが共創しながら、コーヒーの未来をさらに明るくしていこうという願いが込められている。

「特別な日だけでなく、いつもの通りの日常のなかで気兼ねなく飲んでいただきたいです。ただ、お客さまが笑顔になってくれたらそれだけでうれしいですから」

ロースタリーから全国の店舗へ、30周年の思いと一緒に「スマトラ マサ デパン」が届けられる


ロースタリーで働く仲間たちも、現地の人々も、みんなが楽しそうに笑いながら作っている姿こそが、国境を越えた「笑顔のリレー」だと木戸田さんは語る。日本のロースタリーから熱い気持ちとともに送り出されたそのバトンは、全国のパートナーの優しい手から手へと渡り、今日も誰かのあたたかな日常を優しく温めている。

スターバックスのコーヒー生産地を訪ねて【前編】スマトラの豆ができるまで

スターバックスのコーヒー生産地を訪ねて【後編】海を渡り、特別な一杯へと結ぶ旅

スターバックス日本上陸30周年記念コーヒーの舞台裏。スマトラ島のワハナ農園が育む特別な1杯

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