「ブロッコリーは体にいい」「食物繊維を取るなら雑穀パン」。健康のために、そう意識して食べている人は多いかもしれないが、“一般的に体にいい”とされる食品が、必ずしも自分にも合っているとは限らないらしい。
江崎グリコは2026年9月9日、腸内細菌のmRNAを解析し、一人ひとりに合った食生活を提案する新サービス「mRNA HEALTH TRACKER(エムアールエヌエー ヘルス トラッカー)」の記者発表会を開いた。
会場では、「健康的」と思われがちな食材の意外な落とし穴や、担当者自身が毎朝食べていた食品が「NGフーズ」だったというエピソードも披露された。これまでの“腸活”と、一体どこが違うのだろうか。
「健康を可視化する時代へ」社長が語った新事業
発表会の冒頭に登壇したのは、江崎グリコ代表取締役社長の江崎悦朗さんだ。江崎社長は、同社の原点が「食品による国民の体位向上」にあり、創業から100年以上にわたって「おいしさと健康」を追求してきたと振り返る。
現代では、食生活やライフスタイルの変化に伴い、健康課題も複雑になり、その内容は人によって異なるようになった。
「体の状態や体質は一人ひとり異なります。毎日食べたものが自分の体の中でどのような影響を及ぼしているのかを把握することで、より自分に適した健康行動を選択できるようになると考えています」(江崎社長)
そこで同社が目指すのが、健康にまつわるデータを可視化・分析し、その結果から食を提案する仕組みだ。さらに実際に食べたあとの変化を確かめ、次の提案につなげていく。その第一歩として発表されたのが、「mRNA HEALTH TRACKER」である。
腸内細菌は「何がいるか」から「何をしているか」へ
続いて登壇した江崎グリコの長期経営構想推進担当・岡田浩昌さんが、サービスの仕組みを説明した。今回着目したのは、腸内にいる細菌の“活動”である。
これまで腸内細菌を調べる方法といえば、DNAを解析し、「どんな菌がいるか」を把握するものが一般的だった。一方、「mRNA HEALTH TRACKER」で活用するのは、mRNA(メッセンジャーRNA)の解析だ。
「菌がいるかどうか、どのような菌がいるかだけではなく、その菌たちが今、腸の中でどのような活動をしているのか。それを理解することで、一人ひとりに合った食の選択につながるのではないかと考えています」(岡田さん)
同じ腸内細菌がいても、食べたものや環境によってその活動は変わる。そこでmRNAから“今何をしているのか”を読み取り、その人に合う食品を探っていくという仕組みだ。
検査結果だけを伝えて終わるのではなく、その結果を実際の食生活につなげていくことも、このサービスの狙いだという。
毎日食べるブロッコリーが“合わない”ことも
続いて登壇したのが、腸内細菌のmRNA解析を活用したヘルスケア事業を手がける米Viome Life Sciencesの創業者兼CEO・ナヴィーン・ジェインさんだ。
ジェインさんのプレゼンで話題に挙がったのは、ホウレン草、アボカド、ブロッコリー。いずれも「健康的な食材」というイメージが強いものばかりである。だが、同じ食品でも人によって体との相性が異なる可能性があるという。
「皆さんは“健康的なものを食べなさい”と言われます。でも、何が自分にとって健康的なのかは、どうやってわかるのでしょうか」(ジェインさん)
ジェインさんによると、同社が解析してきた検査データは113カ国、150万件を超えるそうだ。そのうえで強調したのが、“すべての人に共通する健康食品があるわけではない”という考え方である。「ある人にとってよい食品でも、別の人には合わないことがあります」と話すジェインさん。
毎朝食べていた「雑穀パン」がまさかのNG?
では、実際にサービスを利用すると、どのようなことがわかるのか。江崎グリコ新規事業開発プロジェクト担当の田中理香子さんは、自身の検査結果を例に紹介した。田中さんは健康を意識し、以前から雑穀パンをよく食べていたという。
「食物繊維を取らなきゃいけないと、すごく思っていました。雑穀パンも大好きで、ずっと食べていたんです」(田中さん)
ところが実際に解析してみると、田中さんの「NGフーズ」にはライ麦や大麦、小麦が含まれていた。そこで朝食を白米に変え、「グッドフーズ」と判定された豆腐などの大豆製品を取り入れ、和食中心の食生活へ切り替えたそうだ。
「以前はおなかの張りやガスが気になっていたんですが、食生活を変えてから1カ月半くらいで、ほとんど気にならなくなりました」(田中さん)
ただし、これはあくまで田中さん自身の体感であり、サービスによる改善を示すものではない。田中さんも、食生活を変えたあとの個人的な感想であることを強調していた。体にいいと思って続けていた食習慣が、必ずしも自分に合っているとは限らない。そんなことを考えさせられるエピソードだ。
約300種類の食材を4段階で判定
「mRNA HEALTH TRACKER」では、まず腸内細菌の活動を26種類の「健康スコア」として表示する。ガス産生や腸管バリア、タンパク質消化、短鎖脂肪酸の産生、多様性など、腸内で起きている活動をスコア化する仕組みだ。
その結果をもとに、300種類以上の候補食材から、一人ひとりに合った食品を提案する。食品は「ベストフーズ」「グッドフーズ」「リミットフーズ」「NGフーズ」の4段階に分類され、何を食べればいいかだけでなく、なぜその食材がおすすめなのか、その理由も確認できるという。
ただ、自分に合った食材がわかっても、それを毎日の食生活に取り入れ、続けていくのは簡単ではない。
「検査結果をお伝えして終わりではなく、パーソナルアドバイザーがオンラインで結果を一緒に読み解き、その方が無理なく取り組める食生活や行動プランを考えていきます。日々の生活に取り入れ、続けていただくところまでサポートしていきたいと考えています」(田中さん)
加えて、解析結果に合わせて約50種類の品目から組み合わせるミールセットや、サプリメントも用意。江崎グリコでは、検査から食生活の実践までを一貫して支える一連の取り組みを「精密腸活」と呼んでいる。
初回は約7万9200円。“腸の健康診断”として使う
発表後の質疑応答では、料金や利用頻度についても質問が飛んだ。「mRNA HEALTH TRACKER」は9月14日からオンラインで販売を開始している。
「mRNA HEALTH TRACKER」は、腸内細菌叢の検査キットとパーソナルアドバイザーとの面談2回を含む1サイクルが7万9200円。解析結果に応じてミールセットやサプリメントも提案され、購入にはパーソナルアドバイザーとの面談が必要となる。
おもな対象として想定しているのは、自身の健康に課題を感じ、体質や腸内環境を詳しく把握したい人や、健康を「投資」と捉え、データに基づいた健康管理を行いたい人だという。
「年齢で明確に区切ってはいませんが、これまでの調査では40~60代の経営者や起業家の方から特に高く評価いただいています」と田中さん。一度検査して終わりではなく、4~6カ月に1回程度の利用を想定しているそうだ。
「健康診断に近いイメージです。腸内の状態を4〜6カ月に1回ほど定点観測し、3カ月くらい食生活を実践したあと、もう一度測定して状態がどう変わったかを見ていただく使い方を考えています」(田中さん)
なお、「mRNA HEALTH TRACKER」は病気の診断や治療を目的としたサービスではない。岡田さんも質疑応答で、医学的な効果や疾患との関連性を示すものではなく、現在の腸内活動を把握し、食生活の選択に役立てるサービスだと説明した。
自分の腸内活動を知ることが、毎日の“何を食べるか”を考える新たな材料になりそうだ。
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