統計開始以来、6~8月の平均気温が史上5番目の高さになるなど、猛烈な暑さとなった2026年の夏。酷暑のなかで注目された新商品が、「凍らせて食べるめんつゆ」だ。なかでも味の素が今年2月に発売したそうめん用の調味料「氷みぞれつゆ」は、発売から6カ月で累計出荷数量100万食突破のヒットを記録した。
単なるシーズン商品の枠を超え、酷暑という社会課題にアプローチしたという新カテゴリーの「氷みぞれつゆ」はどのように生まれたのか。味の素株式会社コンシューマーフーズ事業部の上丸茉莉花さんに、商品開発の舞台裏を取材した。
「真夏にここまで冷たいんだ!」を目指した商品開発
――「凍らせて食べるそうめんつゆ」という製品のアイデアはどんなところから生まれたのでしょうか?
【上丸さん】社会課題として年々深刻になっている酷暑化に対して、味の素としてお客様に喜んでいただける製品を作ろうというところが始まりです。「凍らせるつゆ」をはじめから目標にしていたわけではなく、さまざまな商品アイデアの中から選ばれた形です。
――社会課題を切り口に食品を作るというのがユニークです。
私が籍を置く新領域グループは、味の素としての新しい領域にものを投じていく、ゼロベースで製品を考えるという部署です。その企画を立てるうえで、生活者にどんなニーズがあるか、高齢化や少子化、少人数世帯といった多くの社会課題まで視野を広げて、今回の新商品は酷暑化へのアプローチを切り口に選びました。
――そうめんつゆで酷暑対策商品を作ろうと思ったのは?
【上丸さん】まず、冷たい麺類で何かできそうだ、と考えました。その中で、じゃあ夏場の麺類は何が食べられているかを見ると、やはりそうめんの需要が抜群に高い。そうめんという料理に付加価値を高められるものはなんだろうと考えを進めて、つゆを工夫する発想が生まれました。
――ちなみに、酷暑にアプローチする商品アイデアはどのぐらい出たのでしょうか?
【上丸さん】今回は氷みぞれつゆを含めて40ぐらいのアイデアが出ました。その中で本当にお客様のニーズがあるのか、市場性はありそうかといった軸で推し量り、最後まで残ったのが氷みぞれつゆでした。
――氷みぞれつゆのアイデアに、社内ではまずどんな反応でしたか?
【上丸さん】「おもしろいアイデアだよね」という反応でしたが、商品として完成させるところは難易度が高いかな、といった感じでした。その後アイデアをコンセプトに落として調査にかけたところ、お客様の反応がよさそうだというところが見えてきたので、具体的な開発時には自信を持ってものづくりをしてきました。
――「酷暑向けの商品」は「夏の季節商品」とは異なる視点で作られているのですか?
【上丸さん】 大きな違いは、冷たさの考え方です。パスタやスープなど、冷製の食品はたくさんあります。そこで、ただ冷たいだけだったら、あまり生活の驚きをお届けできない。「真夏にここまで冷たいんだ!」ぐらいの驚きを与えよう、“圧倒的に冷たい”と思うような領域にまで行こうと考えていました。
冷やすと風味が出ない!ただ凍らせるだけではない味のこだわり
――かつおだしと鶏だしゆず風味の2種になったのはなぜでしょうか?
【上丸さん】先ほどお話ししたコンセプトの調査の段階で、味についてのアンケートも実施しました。1番多かった声がかつおで、鶏だしとゆずだしが次点で並ぶような結果でした。ただ、レシピを作る中で、鶏だしが冷たい状態だと、うま味やだし感が感じにくいことがわかったんです。そこで、グループ会社のシェフにレシピを相談した際、鶏だしにゆずを重ねることで、清涼感や味のメリハリがつくのではというアドバイスをもらい、次点の2つを掛け合わせた鶏だしゆず風味が誕生しました。
――凍らせることでの味わいの変化は難しそうなポイントですね。
【上丸さん】2種とも、味づくりにはけっこう苦労しました。凍らせるとだしの風味、香りが鈍くなるところがありました。かつおで言えば、かつおのだし感みたいなものも感じ方としては弱くなるという傾向もあって。その解決のために、実はかつお味にはかつおだけじゃなく、原材料にサバやウルメも使用しています。かつお節以外のいわゆる雑節と呼ばれるようなだしをかつおに合わせることで、しっかりと香りと風味を感じられるような工夫をしています。
鶏だしについては、鶏だけでは補いきれないコクやうま味をホタテや昆布で補い、味のボディ感を強めました。試行錯誤を重ねる中で、メインの材料だけでは足りない味わいをほかの素材で補い、全体としておいしく食べられるように設計しました。
――開発期間はどのくらいかかりましたか?
【上丸さん】全体では約1年で、味作りの部分は約9カ月です。弊社の標準的な商品開発は1年半ほどなので、通常よりもやや短期間でした。春夏に向けた商品ということもあり、今年の夏を逃してはならないと、急ぎの開発となりました。
――開発の中で特にこだわったポイントは?
【上丸さん】凍らせた状態でおいしく食べていただくという知見は少なく、新しい温度域への挑戦でした。一番のこだわりは、氷の硬さや溶けにくさですね。できる限り溶けづらく、シャリシャリとした食感があって、なおかつ氷がほぐれて食べやすい設計を目指したのですが、氷の割りほぐしやすさを重視しすぎると氷が溶けてしまうんです。反対に氷を長持ちさせようとすると、氷の粒が固く食べづらい食感になりがちなので、バランスのよい氷を作るのは難しかったですね。
――凍らせた食品はたくさんありますが、単体ではなくそうめんと合わせて食べるもの、という点でも難しそうです。
【上丸さん】水で冷ましたとしてもそうめんのほうがあたたかいので、氷の状態によってはそうめんの熱であっという間に溶けてしまうんです。そうめんに対して氷を維持したまま残せるよう、氷の量や氷の結晶の大きさなど、いろいろな点をこだわりました。
――その核となったのが「みぞれ凍結製法」なんですね。
【上丸さん】みぞれ凍結製法は、おもには氷の結晶の粒を大きくするように仕立てる独自技術です。マイナス1度〜マイナス5度ぐらいの温度域だけ水の結晶が大きく成長するので、温度が下がる過程でその温度域をゆっくりと通過するよう工夫し、溶けにくい氷になっています。
食感の部分でいうと、水分子を分散させて氷の結晶を作るのもこの製法のポイントです。めんつゆを普通に凍らせると、氷の結晶が手をつないだかのように一枚岩になってしまうところを、イメージとしては氷同士の手が離れた状態にして、割りやすくシャリシャリと噛みやすいようにしています。
――新たな温度域での製品開発だったとのことですが、味の素のこれまでのノウハウが活かされた点はありましたか?
【上丸さん】冷凍食品はみぞれ凍結製法とは逆で、品質を維持するために氷の粒を小さくしています。氷の結晶が大きいと、電子レンジで加熱したときに味を損なってしまうためです。グループ会社の商品も含め、これまで氷の結晶を小さく作ってきたからこそ、その逆となる大きな結晶をどう作るか、という発想は議論の中でありました。
――累計出荷数量100万食を突破し初年度からヒットを記録していますが、現在のところどんな反響が届いていますか?
【上丸さん】冷たさに関する声は想定していましたが、「おいしい」というお声も多いです。「また来年も食べたいです」「リピートしたいです」というお声から、冷たさだけでなく味もちゃんとご評価いただけているところはすごく自信になりました。
また、このパッケージがすごく印象的らしく、パッケージを見て買いたいと思う方が多そうな点は調査からも見えてきているところです。
――かわいらしいパッケージですよね。かき氷みたいな印象です。
【上丸さん】いろんなデザインを出してもらって、特に棚に並んだときにほかの商品に印象で負けないようこだわりました。配色もそうですし、文字も大きな筆文字で、パッと目に入るようにしたいねというところも含めてデザインを決めています。
定番になるか?凍らせるつゆの今後
――今年は他メーカーからも冷凍系つゆが発売されました。その中で氷みぞれつゆが支持された要因はどこにあると考えていますか?
【上丸さん】「凍らせる」というカテゴリーを盛り上げられたらという思いが一番にありまして、他社さんも含めて酷暑に向けた凍らせる商品が出ることは価値があると考えています。流通でも「各社出しているなら置こうかな」と思っていただいたシーンも多かったと思うので、そういう意味でみんな仲間ですね。その中で、氷みぞれつゆは氷の持続や食感、それに伴う冷たさみたいなところに自信があるので、ぜひ楽しんでもらいたいと思っています。
――氷みぞれつゆは「酷暑」にフォーカスした商品ですが、ほかに社会課題に着目して生まれた商品はありますか?
【上丸さん】「白米どうぞ」という商品がございまして、炊飯時に足して炊くと、玄米並みのGI値のご飯が炊けるというものです。糖尿病やその予備群の方も含め糖質を控えている方は、ご飯を思いきり食べられない、我慢していることがありますので、糖質をケアしながら白米をしっかりおいしく味わってもらえるという点で、お客様の課題を解決できるような商品の一例かなと思います。
――最後に、氷みぞれつゆをまだ試していない方に向けてメッセージはありますか?
【上丸さん】来年以降も間違いなく暑さは続くと思います。発売初年度でまだまだ認知されてない方もいらっしゃいますし、より多くの方にぜひ楽しんで夏を過ごしやすく、楽しくお食事を召し上がっていただきたいなと思っています。
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