コーヒーで旅する日本/関東編|メルボルンの朝を、茅ヶ崎の日常へ。「SESSION COFFEE BASE」が“再構築”するコーヒーの形

東京ウォーカー(全国版)

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも関東エリアは、伝統的な喫茶店から最先端のカフェまで、さまざまなスタイルの店が共存する、まさに日本のコーヒー文化の中心地。

東京をはじめ、関東近郊にある注目店を紹介する当連載。焙煎士や店主たちが教える“今、注目すべき”ショップをつなぐ、コーヒーリレーの旅へ。

週末を中心にキッチンカーでの営業を実施中(詳細は公式Instagramを要確認)

第28回は神奈川県茅ヶ崎市にある「SESSION COFFEE BASE(セッション コーヒー ベース)」。店主は日本のカフェに勤めていたときにコーヒーの魅力に惹かれ、後にオーストラリア・メルボルンにわたり、バリスタとして腕を磨いた人物だ。帰国後、地元・茅ヶ崎に小さなコーヒーショップを開業。メルボルンで見た文化や概念を茅ヶ崎の街になじむように作り直す。そんな“再構築”された店の魅力を、彼のコーヒー人生とともに見てみよう。

【写真】店主のRicky(リッキー)さん

Profile|Ricky(リッキー)
1994年生まれ。神奈川県出身。日本でカフェに勤めたあと、オーストラリア・メルボルンに渡航。現地でバリスタとしての経験を積み、ヘッドバリスタ、マネージャーに昇進するなど確かな実力を身につけた。帰国後の2023年に「SESSION COFFEE BASE」を開業し、キッチンカーでの営業をスタート。茅ヶ崎の街などを巡りながら知名度を上げ、2025年に一中通り(いっちゅうどおり)沿いに実店舗をオープンさせた。メルボルンで見た文化や概念を茅ヶ崎の人たちに向けて再解釈した「再構築」を、店のコンセプトに掲げている。

聖地・メルボルンの“現場”で感じたコーヒー文化

コーヒーと会話を楽しむ、何気ない時間が満喫できる

Rickyさんがコーヒーの世界に足を踏み入れたのは、日本のカフェで働きはじめたことがきっかけ。日々コーヒーに触れることで、次第に興味を引かれていった。

「カフェに勤めているとコーヒーに興味が湧いて、次第に『もっと深く知りたい』という気持ちが芽生えたんです。そんなとき、コーヒーの聖地として知られるオーストラリア・メルボルンの存在を知りました。日本で働きながら耳にしていた現地の話も、渡航の決断をあと押ししましたね」

香りをテイスティングして、好みの一杯を見つけよう

「メルボルンでは『Code Black Coffee(コード ブラック コーヒー)』や『Crimson Coffee(クリムゾン コーヒー)』をはじめ、いくつかのお店に勤めました。それぞれで焙煎、抽出の仕方は違いますけど、基本はいかに早く安定しておいしい商品を出せるか、そのなかでもお客様とのコミュニケーションを大切に。そこはどこも共通していました。コーヒーの技術や知識はもちろんのこと、最も鍛えられたのは現場での対応力でした」

「とにかくお客様が多くて、細かいオーダーや、ときには変わった注文も次々に飛んできます。日本のように丁寧に教えてもらえる環境ではなかったので、基本は自分から聞いて、学びにいくスタイル。接客のマニュアルがないので、人との距離感も自分で探っていくしかない。でも、そのスタイルが自分には合っていましたね」

メルボルン直伝の技術も見ものだ

マニュアルに頼らず、自分で考えて動く。そんな働き方を身につけ、後にヘッドバリスタやマネージャーという役職にまで上り詰めたRickyさん。

「自分では特別な技術があるとは思っていませんが、お客様から『おいしい』と言ってもらえたときは素直に自信になる。特定の分野に特化したスペシャリストではなく、幅広く対応できるオールラウンダーだと思っています。豆やマシンの知識だけではなく、忙しい現場でも考えて動ける力は、お店をやるうえでもかなり役立っています」

一中通りの一角で「再構築」を形にする

開放感に満ちた快適な店内。犬同伴OKのテラスもある

その後、2023年に帰国。「SESSION COFFEE BASE」を開業するのだが、Rickyさんが選んだのは、すぐに店舗を構えることではなく、キッチンカーで“街を走る”ことだった。

「何より好きな街に根差したいという思いがあって地元・茅ヶ崎に決めていました。最初にキッチンカーをはじめたのは、いきなりお店に来てもらうのもハードルが高いと思って、まずは自ら出向いてお店の存在を知ってもらおうと思ったから。茅ヶ崎市内を中心に各所を巡りながらスペシャルティコーヒーを提供すること約2年。徐々に街の人たちからも知ってもらえるようになって、そんなときに現在店舗を構えている場所が空いたんです。2025年、このタイミングで実店舗の営業を開始しました」

メルボルンではよく見られる、オーストラリアの茶葉を使った紅茶も

店があるのは、茅ヶ崎駅から相模湾へと続く道「一中通り」沿い。通りを見ると、小・中学生や海へと向かうサーファーなど地元の人たち。そこは、まさに茅ヶ崎の日常だ。そのなかに、ごく自然に溶け込むコーヒーショップであり、連日多くの人々が集い、コミュニティスペースのような存在となっている。

「地元の人や近隣の街の人々、なかには犬を連れた人だったり、メルボルン移住を考えている人が訪ねて来てくれたり、いろんな人が来てくれます。そして皆さん本当に社交的。この店で知り合って友達になった、なんて話もよく聞きます」

抽出などをしながらも、コミュニケーションを通した細やかな配慮を欠かさない

店のコンセプトは「再構築」。自身がメルボルンで触れてきたコーヒーのおいしさ、文化、店の雰囲気を伝えたいという思いがある。だが、それをそのまま表現するのではなく、茅ヶ崎の人たちに向けて、Rickyさんなりの解釈をして組み直すことでより快適な店づくりを行っている。店にはそのこだわりが随所にあるが、そのひとつが朝の営業。

「メルボルンでは朝のスタートがとにかく早いんです。早朝から街が動き始めて、それに合わせてカフェも朝早くから開いていて、出勤前に気軽に立ち寄る人も多い。茅ヶ崎もまた朝が早くメルボルンと重なる部分があると感じたので、その文化を持ってきたらどうなるだろう、と考えたんです。だからお店のオープンも朝7時。『朝にコーヒーを飲む』という文化を、この街にも提案してみたかったんです」

「店内は色味はあえて暗く、アイアンインテリアを使ったり、メルボルンで勤めたリノベーションカフェをイメージして過ごしやすい雰囲気に。コミュニケーションを重視しているのも“聖地”の文化を取り入れた部分です。私とお客様、お客様同士でも自然に会話が生まれる、にぎやかな場所になればと思っています。テラスは犬連れOKですし、子どもたちが店内を走り回ることもありますね。まあ、けがさえしなければいいかなと(笑)。みんなで見守るような雰囲気でいいなと思っています」

「好みの淹れ方を試すのも楽しさ」と、コーヒーに対する自由な考え方も教えてくれた

再構築という言葉は、コーヒーの味にもそのまま当てはまる。まず聞いたのは豆のこと。

「豆は、定番の中深煎りのハウスブレンド『Daydreamer(デイ ドリーマー)』をはじめ、シーズナルブレンド、シングルオリジンで常時3〜4種類ほど。それぞれの好みがあるので焙煎度は浅煎りから中深煎りまで、時季ごとにバランスをみてそろえるようにしています。味についてはメルボルンで飲んだ味をそのまま再現するのではなく、あのおいしさを自分なりに表現して伝えたい。飲み疲れしなくて、価格も比較的手ごろ、毎日飲んでも飽きのこない、いわゆる『日常的に飲みやすいコーヒー』を目指しています」

エスプレッソは定番の「ロングブラック」(550円)など8種類ある

今回いただいた「フラットホワイト」は、そんなエスプレッソ技術がまっすぐに出る一杯だ。ミルクの温度、注ぐ速さ、カップを渡すまでの数秒。細かい部分に、メルボルンで培った技術が集結している。

焼き菓子は常時6種類ほど(350円〜)

コーヒーとともに自家製の焼き菓子を楽しむのも、同店の定番スタイル。

「主役はあくまでコーヒーなので、お菓子はそれを引き立てる脇役的な感じです。バナナブレッドやクッキーに加え、オーストラリアの伝統菓子など、すべてが手づくり。コーヒーとの相性を第一に考え、どれも甘さは控えめ。添加物はなるべく使わず、“体に優しい”を心がけてつくっています」

メルボルンから学んだのはコーヒーの味や技術だけではなく、文化や空気感だ。それを一度自身の手でほどき、茅ヶ崎の人々の日常になじむように組み直している。日常を彩る居心地のよさは、コーヒーからも、焼き菓子からも、そして店内の空気からも、十分に感じ取れる一店だった。

「フラットホワイト」(600円)、オーストラリアの伝統菓子「ラミントン」(550円)

【Rickyさんレコメンドのコーヒーショップは「SAZANAMI COFFEE」】

「神奈川県藤沢市にある『SAZANAMI COFFEE(サザナミ コーヒー)』。店主の沢田さんはアメリカでコーヒーを学んだ人。コーヒーはもちろんのこと、コミュニケーションを大事にした店づくりがすてきだなと思えるお店です。連日多くの人たちを魅了する、コーヒーのおいしさと楽しい雰囲気を体感してみてください」(Rickyさん)

【「SESSION COFFEE BASE」のコーヒーデータ】
●抽出/ハンドドリップ(オリガミ)、エスプレッソマシン(エルロシオ)
●焙煎度合い/浅〜中深煎り
●テイクアウト/あり(600円〜)
●豆の販売/100グラム1200円〜

取材・文/GAKU(のららいと)
撮影/大野博之(FAKE.)

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