フィリップ モリス ジャパン合同会社は4月24日に都内で「加熱式たばこ「IQOS(アイコス)」の受動曝露(ばくろ)における臨床試験結果 発表会」を開催。
フィリップ モリス インターナショナル(PMI)が実生活環境下をイメージして行った臨床試験では、IQOSエアロゾルによるニコチンや発がん性物質として知られるたばこ特異的ニトロソアミン(TSNAs)の曝露量増加は確認されず、周囲への悪影響は認められなかったと発表した。
健康志向の高まりとともに、意図しない受動喫煙による健康被害が問題視され、規制が進むたばこ。
愛煙家にとっては肩身の狭い時代といえるが、紙巻きたばこに使用されるたばこ葉は、600度以上の温度で燃焼させることで有害な成分をふくむ煙が発生する。そのため、非喫煙者は喫煙者から発せられる煙によって、知らない間に健康リスクを抱えていることになる。
そのなかでリスク低減の可能性のある製品“RRP(Reduced-Risk Products)”として着実にシェアを伸ばしているのが、2014年11月に登場した加熱式たばこ「IQOS」。
専用にブレンドされたたばこ葉をふくむカートリッジ(専用たばこ)を350度以下の温度で加熱して使用する「IQOS」は、紙巻きたばこと比べて有害物質の含有量が少なく、かつ、排出されるのはニコチンを含むベイパー(蒸気)というスモークフリーなアイテムだ。
PMIではこれまでにも多岐にわたる臨床試験を実施してきたが、これまでのデータはコントロールされた環境下いわば実験室でのデータであった。そのため、たばこ製品およびニコチン製品のほか、人の呼気や汗、香水や飲食物などの要因で変化する日常生活での屋内空気環境(IAQ)では、「IQOS」の受動曝露がどのような影響を与えるのかはわかっていなかった。
そこで今回、実生活環境に近い状況でIQOSエアロゾルの受動曝露が人の体内と室内に与える影響を調査する目的で臨床試験が行われたのだ。
臨床試験は、2017年11月30日から12月13日にかけて、非喫煙者、紙巻きたばこ喫煙者、IQOSユーザーの3属性から合計397人が参加し東京のレストランで実施。すべてのたばこ製品およびニコチン製品を使用しない非曝露イベントとIQOSのみを使用が許可された曝露イベントという2つの形式が用いられた。
非曝露イベントは2回、曝露イベントは4回開催され、各イベント開始前にはあらかじめ被験者からベースラインとなる尿サンプルを採取し、イベント中はさまざま料理やドリンクが提供された。また、すべての被験者が入室した1時間後から屋内空気環境を測定した。そしてイベントの終了後、再度、被験者から尿サンプルを採取し、イベントの前後で体内や屋内にどのような影響があるのかを検証した。
結果は、まず屋内空気環境から発表された。非曝露イベントの1度目はニコチンが検出されず、2度目はごくわずかなニコチンが空気中で検出されたが、これまでのコントロール下の試験でも見られていたように予想された結果であった。
曝露イベントでは最大1.5μg/m3(マイクログラム立方メートル)のニコチン濃度が検出されたが、これは米国労働安全衛生局が定める室内空気質ガイドラインで示している500μg/m3よりもはるかに低い数値となる。
さらにより重要な点としてあげたのが、発がん性物質であるたばこ特異的ニトロソアミン(TSNAs)の濃度がいずれも検出限界濃度を下回っていること。これは受動曝露で一番懸念されることでもあり、PMIでも非常に重要なメッセージとして捉えている。
次にニコチンへの曝露が周囲の人体に与える影響について発表された。曝露前後の尿サンプルを測定した結果、被験者の尿1g中に占めるニコチンの割合は、ベースラインの数値(曝露前)で約0.04mgに対して、イベント終了時(曝露後)では約0.07mgと上昇している。
しかし、この数値変化は非曝露イベントと曝露イベントのいずれにおいても同程度の割合で見られた。このことから、実生活においてIQOSを能動的に使用しているいないにかかわらず非常に低いレベルでの曝露は日常的に行われており、ニコチンの曝露という点ではIQOSの影響はなかったと考えられる。
同様に喫煙者の尿サンプルを測定したところ、ベースラインで約4mg、イベント終了時では約8mgと非喫煙者の尿中濃度と比べると100倍程度の違いが表れている。そして、驚くべきことにたばこ特異的ニトロソアミンはどちらのイベントにおいても、非喫煙者・喫煙者にかかわらず検出されなかった。
また、喫煙関連の疾患物質としてフォーカスされる空気中の粒子状物質(PM1/PM2.5)の濃度についても、曝露前・曝露後で濃度に変化は見られなかった。とくに最も濃度が濃かったのが第2回の非曝露イベントであったことから、空気中の粒子物質は被験者がイベント前にどこにいたのかという人的要因の影響が大きく、「IQOS」が粒子状物質に影響を与えることはないと考えることができる。
このことから医師であり、PMIのサイエンス&イノベーション、R&Dサイエンティフィック・メディカル・アフェアーズ、ディレクターのパトリック・ピカベット氏は「〈IQOS〉による周囲への悪影響は認められない」と結論付けた。
今後はさらにニコチンとたばこ特異的ニトロソアミン以外についても分析を進めるとともに「最終的な分析結果が出たら改めて公表し、学会などへの発表も行いたい」と意欲を示した。
臨床試験の責任医師を務めた東京慈恵会医科大学医学部 大木隆生血管外科教授は「データがより多く蓄積されることが、みなさん、あるいは社会の判断材料になる。そうした科学的なデータは多ければ多いほどいい」と今回の臨床試験の意義を述べた。
“煙のない社会を、ここ日本で”を企業ビジョンとするフィリップ モリス ジャパンの井上副社長は「今後、紙巻きたばことの健康リスクの違いを明らかにし、たばこ税など行政のアシストも受けながらすべての喫煙者に〈IQOS〉への切り替えを促進し、いずれは紙巻きたばこからの撤退を図る」と展望を見据える。
今回の発表により、健康リスク低減の可能性を示した「IQOS」。今後、喫煙者・非喫煙者ともにwin-winとなる社会実現に向けて、さらなる検証が期待される。
安藤康之