放送作家として人気の鈴木おさむが、映画「ラブ×ドック」(5月11日公開)で監督デビュー。キャストに映画初単独主演となる吉田羊を迎え、大人のためのラブコメディを誕生させた。女性なら誰しもが共感できる感情を、笑って泣ける作品に昇華させた鈴木おさむ監督に本作の見どころを伺った。
映画「ラブ×ドック」は、遺伝子レベルで恋愛を操作するクリニック「ラブドック」を舞台に、アラフォー女性が恋に仕事に友情に奮闘する姿を描くラブコメディ。主役・飛鳥を吉田羊が演じ、飛鳥の恋の相手役には野村周平、玉木宏、吉田鋼太郎がキャスティング。ほかにも大久保佳代子や広末涼子などバラエティに富んだキャストが集結した。
ーーまず、本作の着想について教えてください。
35歳から40歳ぐらいの間に起こる3つの恋を経て、何か変わっていく女性の物語を作ろうと思いました。それで相手の男性は年上、同世代、年下がいいなと思って、年上は不倫、同世代は友達が好きな人など細かい設定を考えていきました。
ーー3つの恋がそれぞれ違うので、女性なら誰もが共感できるポイントがありますね。
よく「女心がわかりますね」って言われるんですけど、実は逆で。今まで描かれてこなかった男性のパンドラの箱のような部分をリアルに描いているんです。
ーーたしかに男性からすると、ヒヤッとするシーンもありますね(笑)
吉田鋼太郎さんが演じる年上の男性との不倫デートで、写真を撮ろうとするとSNS経由でバレるかもしれないから顔を隠すっていうのはリアルな話で。あと不倫している人はスマホの予測変換までも消去するっていうのも、知り合いから聞いた話なんです(笑)。一見コミカルなんですけど、実は毒っぽいんですよね。
ーーそういう意味でも日本ではあまりなかったラブコメディですよね。
僕、ハリウッドのラブコメディがすごく好きなんです。なかでも「ブリジット・ジョーンズの日記」が好きなんですけど、脚本家や監督って意外に男性なんです。女性が作るとリアルすぎたり淡白だったり距離ができそうな気がしますけど、男性が作るともう少しファンタジーに寄せることができる。今回は広末さんが演じたぶっとんだキャラクターを加えたことで、ファンタジー要素を入れることができました。
ーーなぜ、今回監督にもチャレンジしようと思ったんですか?
今までは、脚本を書いてから監督を誰にするかというパターンが多かったんですが、その場合、僕が脚本を書いても監督の哲学が入るじゃないですか。本作は僕の恋愛観や哲学が脚本に詰め込まれているので、監督の恋愛の哲学とぶつかってしまうんじゃないかって。だから監督もやろうと決めました。
ーーたしかに鈴木監督の恋愛観が垣間見える感じがしました。
コンプレックスを抱いている女性の目線は絶対に入れたかったんです。大久保さんが演じる女性が吉田羊さん演じる飛鳥に「私のこと、ずっと下に見てたんでしょ?」っていうセリフがありますが、そう思っている女性も、そう言われることを恐れている女性も結構いるじゃないかなって思います。「私は大久保さん側で観ました」という女性の声も多くいただきました。
ーーバラエティに富んだキャスト陣ですが、鈴木監督と接点がなさそうな人も多いですよね?
今回初めて監督業をさせていただくということで、一緒にお仕事をしたかった方に声をかけたんです。大久保さん以外のほとんどの方が、今回初めてご一緒にお仕事をしました。
ーークールなイメージが強い吉田羊さんですが、見事なコメディエンヌっぷりを発揮されています。吉田羊さんの起用理由は?
まず独身であること。例えば、芸能人と結婚している人だと、作品を観ていてもその背景を思い浮かべるだろうと。この役はその背景が見えない人であることが大事でした。あとは、コメディのセンスがある人。コメディができる人って、セリフを面白く言うよりクスッと笑える細かい仕草が自然にできるんです。それってすごく難しいはずなんですが、吉田羊さんはそれができる。コメディのセンスがある人は、泣きの演技もできるはずなので。
ーー相手役の3人の男性、吉田鋼太郎さん、玉木宏さん、野村周平さんのキャスティングも絶妙ですね。
吉田鋼太郎さんはお仕事をしたいと思っていて、年上で不倫の役ならってこの人だってことで。野村君には普段とは違う真逆の年下の男の子を演じてほしいなと。女性ならキュンとするシーンが多いと思いますが、本人も演じながら「俺、こういうのアリだな」って言ってました(笑)玉木さんは、僕が育休のときに観ていた「あさが来た」がきっかけで面白い人だなって思っていて、ダメもとでオファーしたらやってくれることになって。玉木さんが一番想像つかなかったですが、役をしっかり掴んでくれました。
ーー劇中に歌唱シーンや実況など遊び心のある演出を多用しているのも本作の魅力のひとつですね。
観ていて飽きないようにという狙いが大きいです。恋愛映画を2時間って、意外と大変じゃないですか。だから、こういうちょっとしたくすぐりとかギミックを入れることで飽きさせないようにしました。
ーーあと、本作にはたくさんのクリエイターの方々が関わっていますね。
アートディレクターにはずっと一緒にやっている飯田かずなさんに入ってもらいました。アートアクアリウムは、テレビの仕事で何度かご一緒した木村英智さんにお願いしたところ、アートアクアリウムが映画の一部として世に残るのならと、二つ返事でOKをいただいて。水槽の貸し出しから金魚の手配、搬送まで全面協力してくれました。タイトルバックは、知り合いから聞いたインスタグラマーでもあるShogoSekineさんにお願いしました。
ーーミュージックディレクターとして加藤ミリヤさんも参加されていますね。
音楽もいろいろ考えたんですけど、10年前にキラキラした音楽を聴いていた世代が大人になるっていうテーマがあったので、加藤ミリヤさんがちょうどハマるなって。今回、ミュージックディレクターとして入ってくれて、僕より脚本に詳しくなっていましたね(笑)
ーー鈴木監督もクリエイターでもありますし、たくさんのクリエイターと力を合わせてひとつの作品をつくりあげるスタイルが、鈴木監督の個性だと感じました。
クリエイターは作品づくりに熱くて、楽しんでくれるんですよね。自分が監督としてやるなら、そういう人を集めて作れたらいいなと思って。自分の映画がどんな風でありたいかって考えたら、ポップで可愛くて気楽に観れるような作品だと思ったので、さまざまなクリエイターの力を借りました。
ーー本作で注目してほしいポイントはありますか?
3つのキスシーンにも注目してほしいです。あんなのアリ、ナシとか思いながら観てもらえたら。自分ではコメディを抑えていたつもりなんですけど、コメディ度がすごく高いってことに最近ようやく気付きました(笑)
山根翼