榮倉奈々と安田顕がW主演する映画「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」は、Yahoo!知恵袋に投稿された質問を実写化した作品。毎日のように死んだふりをする妻とその奇行に戸惑う夫が、一風変わったコミュニケーションを通じて本当に夫婦になるまでを描いている。伝説の質問と呼ばれる投稿をハートフルコメディへと昇華させた李闘士男監督に話を伺った。
「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。どういうことなのでしょうか?」2010年にYahoo!知恵袋に投稿された質問が話題となり、楽曲やコミックエッセイ化を経て、今回まさかの映画化。結婚3年目のちえとじゅんの夫婦が、死んだふりを通じて互いの気持ちを確かめ合う姿を描くハートフルコメディに仕上がった。ちえとじゅんを榮倉奈々と安田顕が演じ、大谷亮平、野々すみ花、浅野和之、品川徹、螢雪次朗らが脇を固める。「デトロイト・メタル・シティ」や「神様はバリにいる」などでコメディに定評のある李闘士男監督がメガホンをとった。
ーー男性と女性で反応が違うような気がしますが、いかがですか?
男性の方から「泣きました」という声を聞きます。前半は笑えるけれど、後半は人生の機微を知っている人なら響くかもしれないですね。
ーー前半がコメディだからこそ、良い意味で敷居が低いのがいいですね。
それは作戦です(笑)僕が考えるエンターテイメント論は、入口と出口が違うこと。くだらないと思って見ていたら、いつの間にか感動してたみたいな。最初にしんみり、途中からコメディは難しいので、最初はアホな感じに見せて途中から伝えたいメッセージが届くように意識しました。
ーー確かに後半はメッセージ性が強いですね。
この作品では「好き」という言葉を使ってないんです。ドラマの場合だと「好き」って言ってしまうけど、映画は好きという気持ちを言葉にせずにどう伝えていくのかが大事で。僕は実生活で女性に「好き」って恥ずかしくて言えないので、ドラマだと違和感を感じてしまいます(笑)
ーー李監督は奥様とお子様がいらっしゃると伺いました。
ウチの奥さんは、レストランに行ったときに僕が食べられるものと食べられないものが全部わかるんです。そういうのは凄いって思うんですが、家での行動はわからないことばかりで。
ーー例えば?
子どもを叱るときに急に昔話をするとか、カーテンの好みが変わってくるとか。訳のわからないことが年々増えていくから、女の人って本当にミステリー。「大奥」ですよ(笑)
ーー本作のちえもかなりミステリーですよね。
ちえのミステリーさは物語を引っ張る鍵であって、テーマではないんですよね。榮倉さんが演じるちえの死んだふりに意味があるのかないのかを、安田さん演じるじゅんが考えていくところを観客に見せていくということを心がけました。
ーー男性なら安田さんが演じるじゅんに感情移入すると思います。
じゅんがちえに「死んだふりはもう飽きたよ」って言うシーンがあるんですけど、それを言われたちえは死んだふりをやめるのかなと思ったら、やり続けるんですよね。あれのちえは凄い(笑)
ーーちえの死んだふりをする行動は、一歩間違えたらシリアスですけど、榮倉さんが演じているからか、とてもチャーミングですよね。
ちえというキャラクターを実体化させることにおいて、実は「デトロイト・メタル・シティ」をやったことが大きくて。根岸君とクラウザーさんにはチャーミングっていう統一感があって、そのチャーミングの正体は許せるかということ。クラウザーさんと同じで、ちえの死んだふりも許せると思うんです。ちえはじゅんの反応を見て喜んでる。そのチャーミングさがあるから、前半と後半の人物がブレないんです。
ーー天真爛漫なちえは榮倉さんにぴったりでした。
榮倉さんは天才。あの役は本当に難しいから。榮倉さんは本能的に僕がやろうとしていることを掴んでくれました。これまでいろんな役者さんと一緒にやってきましたけど、ここまで絶賛する役者さんはいないです!彼女の前ではあんまり言わないけれど(笑)
ーーちえの死んだふりの中で、李監督はドラキュラがお気に入りだと伺いました。
ドラキュラの榮倉さんが一番格好いいなって。かわいいと思ったのは猫とロミオとジュリエットかな。
ーーもし李監督の奥様が死んだふりをしていたなら、本作の中でどれがいいですか?
頭に矢が刺さっているやつかな。一番ツッコミやすいし、後片付けも楽そう(笑)ファラオなんてどこに閉まっとくねん!って(笑)
ーーじゅんを演じた安田さんの起用について教えてください。
ちえとじゅんの関係性で大事なのは、SとM。振り回すちえがいてて、振り回されるじゅんがいる。だから、振り回されるのが面白い人がいいなと。例えば、高倉健さんならこの役はできないと思うんです。Mが似合う役者さんじゃないとダメ。安田さんは狙い通りだったので、やってもらってよかったです。
ーー劇中にはちえとじゅん以外にも様々な夫婦が登場します。この設定は?
ちえとじゅんが本当の夫婦になっていくためにはどうしたらいいかを考えたとき、2人に影響を与えるような様々なかたちの夫婦がいてくれたほうがいいなと思いました。キャラクターの設定はちえとじゅんの周りにこんな夫婦がいたらいいのにという望みから組み立てていきました。
ーーお気に入りのキャラクターはいますか?
ちえが働くクリーニング屋の常連客の「アレ」「ソレ」と言い合う熟年夫婦は僕のアイデアです。モチーフは高校の頃に電車の中で見た「あんた、ナニな、ナニしといたわ」みたいな会話をしていた「ナニ」おばさん(笑)本当に意味が通じているかわからないけど、会話として成立していて、あれが以心伝心なのかなって。あんな人がいれば、ストーリーに重しがついてリアルさが増す。その方が豊かになると考えました。
ーー本作を観ると結婚したくなる人が増えそうですね。とはいえ、結婚をポジティブに持ち上げすぎていないところもリアルです。
この作品は、相手のことを思いやる「優しさ」の話です。ちえもじゅんのことを思って死んだふりしていて、自分のためにやっているわけではありません。だから見ていて気持ちいいんです。振り回されることって面倒臭いけれど、素敵だねって思ってもらえたらいいなって。そももそ、僕は映画を高尚なものだと思っていません。日頃疲れた人が気分転換に楽しんでくれるのが一番いいかなって思っていて。泣くのと笑うのを同時にできるのって、映画しかないと思うんです。泣ける人がいるなら、その人はきっと心が豊かになっているはず。笑いながら泣けるって、最高の贅沢だと思うんですよね。だからこそ、クリーニング屋のシーンでもう一つギャグを入れておけばよかったなと(笑)
山根翼