映画『Vision(ビジョン)』の初日舞台挨拶が6月8日(金)大阪市内で行われ、ダブル主演となるジュリエット・ビノシュ、永瀬正敏と河瀬直美監督が登壇した。
『Vision(ビジョン)』は世界中で高い評価を受ける河瀬直美監督の長編劇映画第10作め、河瀬監督の生まれ故郷である奈良・吉野の山深い森を舞台とし、世界三大女優賞すべてを獲得したフランスの名女優 ジュリエット・ビノシュと河瀬作品で過去2回主演を務めている、日本を代表する俳優 永瀬正敏のダブル主演となる作品だ。共演者として夏木マリ、岩田剛典、美波、森山未來、田中泯などの実力派キャストが集結した。
MCに「主演2人の意外な一面は?」と質問された河瀬監督は「映画を見る前に親近感を持ってもらうために」とビノシュの「爆買い」のエピソードを披露。職人の細やかな作業に共感し、吉野漉き和紙を爆買いしたことや、醤油工場で醤油が出来上がっていく過程に感動し醤油を、河瀬監督愛用の奈良のオーガニックコットンの下着なども爆買いしていたことを挙げ「(ビノシュは)チャーミングで親しみやすい女性。でも仕事はプロフェッショナルで研ぎ澄まされて、一流。女性としても尊敬します。」と語った。
一方、永瀬については「本作で3作めの出演となる永瀬君、前作では河瀬組の洗礼を受け、共演者に挨拶できないストレスもあったのでは。」とし「(今作の)吉野では河瀬組の顔として、色々な人にアドバイスしていた。(鈴役の)岩田君に薪割りを教えたりしている姿を見てこの2人は大丈夫、と思った。」と自身の作品へ3度目の出演となる永瀬への信頼の思いを語った。
撮影時、吉野の宿坊で生活していたというビノシュはMCの「吉野町での暮らしはいかがでしたか。」という質問に対し「吉野での生活は静けさの中で、友情をとても感じながら、自然と自分が繋がったという気持ちで過ごした。宿坊の夫婦もとても良くしてくれ、吉野の雰囲気、大きな木、空間、光を堪能した。」と答えた。
また河瀬監督が披露した自身の爆買いエピソードについては「手漉き和紙は絵を描くために自分用に買った。他は友達や家族とシェアするために買った。」とし「吉野には伝統の文化が残っていて感動的だった。吉野にいるとホームにいるような家族的な雰囲気で、また戻って来たいなという、守られている、愛されている、そんな気持ちでした。まさにVisionという映画をとても象徴している場所だと思った。」と語った。
河瀬監督に関しては「彼女は預言者です。」とし「撮影方法がとても精密であることと、彼女の物の言い方や存在のしかたがそう思わせた。とても素晴らしい出会いでした。」と結んだ。共演者の永瀬については「おもてなしの心があり、デリケートで少しシャイ。暖かく私を迎えてくれた。」とコメント。それを受けて永瀬は「役者同士が素に戻ってしまうので、私語は控えてほしい」という河瀬監督の要望を挙げ「僕は前に経験しているのですが、もしかしてジュリエットさんは何でこいつ何もしゃべらないんだと思われたかもしれない。今日明日でいっぱいしゃべらせていただこうと燃えているんです。」と答えた。
さらに舞台挨拶を会場で見守っていた、河瀬監督とビノシュを引き合わせたプロデューサーのマリアン・スロットを観客に紹介。「彼女がいてくれたから、この作品は出来上がった。」と話し、最前列に座っていたマリアンが立ち上がり客席に向かって会釈する一幕もあった。
観客からキャストと監督への花束贈呈の後、サプライズとして劇中で鈴(赤ちゃん)を演じた赤ちゃんが登場。河瀬監督が撮影の前日に講演会のために訪れた山形空港で「オーラが出ていた。」として直々にスカウトしたという。大勢の観客の前でも堂々としたその様子に、会場は一気に和やかな雰囲気に包まれた。さらにキャストと河瀬監督から観客5名に吉野杉の苗木がプレゼントされた。
最後に河瀬監督が「映画の初日の舞台挨拶といえば、この規模では東京が普通なんですけど、今日は特別に関西から舞台挨拶をさせていただくことができ、しかもジュリエット・ビノシュさんは初めての関西の舞台挨拶です。このように思いを寄せてくれているジュリエットは、本当にこの作品に心から入り込んでくださったそしてパリから飛んで来てくれた。その思いはこのフィルムに刻まれている。永瀬君は山の男 智を魂ごと演じてくれ、山の様子を見守る所作の中で愛犬のコウとの時間を育んでくれた。今でも私たちは家族のようにこうして映画の初日に立つことができて本当に幸せだなと思います。」と語り
「明後日にはフランスに戻ってしまうジャンヌ(ビノシュ)、智(永瀬)も新作の現場に戻ってしまう、私たちはいつでもこの疑似家族を持って※火産霊(ほむすび)さんのもとにいつでも現れる、そんな存在でいたい。」と結び、ビノシュと笑顔でキスを交わした。
※映画のクライマックスシーンとなった火の神様を祀った神社跡
二木繁美