第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した映画『万引き家族』の是枝裕和監督が、劇中で父親役を演じた福岡出身のリリー・フランキーと一緒に来福。是枝監督は、なんとパルムドールの記念の盾を持参。この盾を前に、制作に至った過程から撮影秘話などを語ってくれた。
会場に登場した是枝監督が、記念の盾を見ながら「これ4kgあるんですよ。ずっと持ってたら疲れちゃうので、ここに置かせていただきます」と言うと、記者陣は初めて見るパルムドールの盾に興味津々。美しい水晶に、ゴールドで作られたパルムの葉が施された盾を前に、インタビューが始まった。
『万引き家族』は、おばあちゃんの年金を目当てに転がり込んだ人々が、万引きをしながら暮らしている一家の物語。是枝監督はこれまでも、育児放棄をテーマにした『誰も知らない』や、家族のつながりのあり方を問う『そして父になる』など、社会とのつながりが深い作品を発表してきた。
「『そして父になる』では、家族が繋ぐものは“血(血縁)”なのか“共に過ごした時間”なのか、という二者択一を、福山雅治さんが演じた男に背負わせ、葛藤させるという物語でしたから、その先にどんな問いがあるのだろう?と考えていました。加えて当時、カンヌで取材していただいた方の中に、養子縁組をされている方が多かったんです。その時に、血縁を超えて繋がっていく家族の話をやってみたい。次は、血縁はないけど母親になろうとする、父親になろうとする物語にしようと思いました。他に、僕自身が『コウノトリのゆりかご』にもとても関心があり、養子縁組や里子制度などは、この国だとなかなか広がっていかない。そういう血を超えた共同体での家族を作ろうとした人たちの話を作りたいと思ったのが始まりでした。」
そうした家族のつながりを描こうとした時に、是枝監督の目に飛び込んで来た1つのニュースが、作品の行方を大きく示唆することになる。
「ただの優しさで繋がっているものではない方がいいなと考えている時に、年金詐欺、年金不正受給のニュースを見てしまった。それは亡くなった母親の死亡通知を出さずに、それで生計を立てているというものでした。それに触れた時に、見ず知らずのおばあちゃん、おじいちゃんの年金を頼りに人が集まっていて、それはお金目当てなんだけど、結果的に家族に見えるみたいな、そういう発想で作ってみようかと思っていた時にはもう、樹木希林さんとリリー・フランキーさんの顔が浮かんでいました。」
この作品では、祥太を演じた城桧吏くんの演技がカンヌでも大きく注目された。演技指導について「たいしたアドバイスはしてないんです。感情の説明とかはほとんどしてないけど、あの子はそれを捕まえてくるから、何にも言ってないですね。」と監督が語ると、リリー・フランキーも「撮影の後半になってくると、桧吏くん自体がすごく成長していて。周りの人たちの芝居を見ていて、自分はどう受けるべきかって解っているんでしょうね。あの歳で、あの感覚の受けの芝居ができるってスゴいですよ。」と、共演した際の驚きと賞賛を語ってくれた。
今回の“ダメなお父さん”を演じたリリー・フランキーは、演じるにあたって、「クランクインする前に、是枝さんからお手紙を頂いて、『このお父さんは、ただの木偶の坊で、最後までまったく成長しません』と書かれていました。だからどうやったら木偶の坊になるのか色々考えたんですけど、自分の“まんま”でいいんだと(笑)。子供と万引きする時も、遊んでるように万引きするし、いつも“ごっこ”の人。そのくせ仕事場に行ったら一言も喋らないみたいな人。気持ちをだせる場所が、家族がいる場所しかないんでしょうね。」と語った。
同作品で、是枝監督が大事にしたことは“言葉にならない言葉”だという。「今回は、例えば見上げている花火は映っていなくて音だけが聞こえているとか、マジックミラー越しに相手が見えないとか、見えないけどちゃんとそこにある、ということは随所に表現しています。それは言葉にしても同じです。言葉にしていないけど、信代(安藤サクラ)も母親だと感じているし、治(リリー・フランキー)も父親だと思っている。思っていることで、家族が成立しているということも、僕が描きたかったひとつではありますね。」
『万引き家族』は、万引きという犯罪がモチーフにはなっているが、その奥には、「家族とは」「絆とは」「愛とは」「幸せとは」など、日常の中に潜んでいる、言葉にならない想いがたくさん描かれた作品となった。
最後に、この日福岡凱旋となったリリー・フランキーが、「結果こういう賞(パルムドール)をいただきましたけど、是枝監督も賞をもらうために作っていたわけではないと思うんです。ただパルムドールを頂いたことで、映画の上映館数がすごく増えたんですよ。僕は小倉の出身なんですけど、もとのスケジュールだと小倉では上映館がなかったんですけど、パルムドールを獲った瞬間に小倉だけで3館も開いたんです。賞を獲るというのは、たくさんの人に見てもらう機会を作ってもらえることだなと思って、すごくうれしいです。よい作品というのは、本でも映画でもそうだと思うんですけど、映画を観終わった後に、1分でも2分でもいいから、自分の家族を省みたとか、映画館以外のところでも、観た人がそれについて何かを考える時間を作品によってもらえたということがうれしいですね。映画館以外の生活の中で少しでも思ってもらえれば。」と、作品への想いを語って締めくくってくれた。
文乃