ロシアへ向かう機内にはじまり、モスクワから9時間揺られた長距離列車、はたまた深夜12時に到着した宿まで。
行くトコ、行くトコ、とにもかくにもコロンビアンばかりである。
四六時中「バモス・コロンビア!」と気勢を上げているのを見ていると、もはやうんざりするのを通り越して、「行け、コロンビア!」とつられてしまいそうになる。
サッカーのロシア・ワールドカップ(W杯)で日本代表の初戦が行われる地サランスクは、相手国のサポーターが大挙して訪れている。
9:1、あるいはそれ以上か。サポーターの数では、どうやら日本は歯が立ちそうにない。
コロンビアからロシアの直線距離は、1万2664キロ。一方、日本からは3628キロ。もはや火傷しそうな熱狂である。とはいえ、その熱情は実際に触れてみると、一緒に浮かされそうな心地良いものだったりする。
4大会ぶりの出場となった前回のブラジル大会では、得点王に輝いたハメス・ロドリゲスの活躍もあって、同国史上最高のベスト8に進出した。今大会は、ハメスはもちろん健在。前回はけがで欠場していた点取り屋のラダメル・ファルカオもメンバー入りしている。
まだ見ぬ高みに連れていってくれそうな期待や高揚感を思えば、コロンビア国民の熱狂も頷ける。
試合前日の会見は、イングランドの名門チームであるアーセナルに所属するGKのダビド・オスピナが登場。「サポーターがたくさん来てくれて、とてもハッピーに感じるよ。母国から遠く離れているからね」と笑顔を見せる。
一方、我らが日本代表を包み込む雰囲気はどうか。開幕2か月前の監督交代もあってか、国内はどこかネガティブムードに包まれている。
代表チームに注がれるのも、どこか懐疑的な視線。「素直に応援できない」「負けてほしい」という声までチラホラ。個人的な感覚だが、そんな意見を受ける度に気分はどこかモヤっとする。
「国民の期待は力になるのか、重圧になるのか?」
いい機会だからと、ゴールの番人として国民の称賛、それから批判を浴びに浴びてきたであろうオスピナに聞いてみた。
答えは、「せっかくだから、前向きにとらえたい。サポートしてくれているわけだから、素晴らしいこと。ピッチでもぜひサポートしてもらいたいね」とのこと。
こちらの気分は、もはや武田信玄である。
批判の種を探すよりも、思いっきりポジティブに楽しんだ方がいいと言われた感覚。要は、“敵に塩を送られた”気分である。(まどろっこしい言い回しで恐縮だが、「敵に塩を送る」という言葉は、上杉謙信が今川・北条の塩止めで苦しんでいる武田信玄に塩を送ったという逸話からきている)
幸いにも、日本代表のキャプテンである長谷部誠は初戦を前に、「ここまでの準備は、トレーニング環境であったり移動であったり、さまざまな部分で素晴らしい環境を整えてくれて、選手として日本代表のスタッフに感謝しています」とコメント。
「さまざまな部分でコミュニケーションができたし、素晴らしい準備ができたと思っています」とネガティブ世論の影響は受けていないようだ。(まあ、たとえ受けていても口に出すわけないだろうけど)
もちろん、「勝負は時の運」である。どちらに転ぶかはわからない。
そもそも、「欠点はないと思います。全てに完成されたチームで隙がない」と長谷部がいうように、コロンビアは強豪国である。
もう、ここまで来たら日本代表には勝っても負けても構わない。誤解されては困るが、もちろん願うのは勝利が第一。
ただ、望むのは、勝敗はどうあれ悔いなく試合後に拍手で称えられるような戦いぶりである。
数ではコロンビアには負けたとしても、サランスクまで足を運ぶようなアツさなら負けない熱心なサポーターもついている。彼らは言うまでもなく、声をからして応援するはず。
「明日は楽しんで、いい試合にしような!」
試合を明日に控えて原稿を書いていたら、同宿のコロンビアサポーターがビールを片手に肩を揺らしてきた。
某テレビ局のキャッチコピーのように、「絶対に書かなければいけない原稿がそこにはある」と泣く泣く宴の誘いを断ったが、同宿のコロンビア人の言う通りである。
4年に1度の祭典。それに、せっかく自国の代表チームが出場しているのだ。批判の種を探すなんかより、やっぱりポジティブにいた方が得が多そうだ。
ロシアにいようが日本にいようが、楽しまなければもったいない。まさしく「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」、である。
小谷鉱友