演劇賞を総なめにした伝説の舞台を映画化した「焼肉ドラゴン」(現在公開中)は、四季の移ろいとともに明日に向かって生きる小さな家族を描いた感動の物語。真木よう子、井上真央、桜庭ななみが3姉妹を演じていることでも話題になっている。今回、三女を演じた桜庭とメガホンをとった鄭義信監督に話を伺った。
関西地方のとある集落にある小さな焼肉屋を舞台に、時代の波に翻弄されながらもたくましく生きる家族を描いた本作。長女・静花を真木、次女・梨花を井上、三女・美花を桜庭がそれぞれ演じ、静花の幼なじみ・哲男を大泉洋が演じている。映画「愛を乞うひと」「血と骨」の脚本でも知られる鄭義信が、自身の人気戯曲の映画化に伴い、初メガホンをとった。
ーー「焼肉ドラゴン」は鄭監督自身の人気戯曲ですが、今回なぜ映画として残そうと思ったのですか?
鄭監督「周りから『この作品は映画にして多くの人に観てもらうべき』と言ってもらったのがきっかけです。舞台が再演になったときに映画化の話が持ち上がんですが、一回ポシャって。再々演のときにまた話が持ち上がって、そこからはトントンと。それで、監督?ってなったときに、この作品の世界観を一番知っているのは私が監督をやるべきだと周りが盛り上げてくれて、今回初めて監督に挑戦しました」
ーー演劇界では演出家、映画界では脚本家として活躍されている鄭監督ですが、監督業は本作が初めてだったんですね。
鄭監督「僕自身、映画監督の器じゃないと思ってたんです。映画監督は特別の才能をもってる人たちだし、しんどいし大変だろうなと思ってたんで尻込みしてたんです。でも、周りが応援してくれたので今回はやるぞって」
ーー映画にすることで難しさを感じることはありましたか?
鄭監督「難しさはあまり感じませんでしたが、何度も繰り返しながら練り上げる舞台に対して、映画は一瞬を切り取るスタイルなので、エモーショナルな部分はリテイクしないで撮り続けることが多かったです」
ーー舞台版ではステージ上で肉を焼くなど演出面でのこだわりがありましたが、映画版でこだわったポイントはありますか?
鄭監督「セットにはこだわりました。小さい頃、近所のくず鉄屋にはこんな道具があったとか思い出しながら、記憶の中にある街並みとこの作品のモデルになった伊丹の街並みをミックスして作りました。予算が限られていたので、撮影現場の近くの家が取り壊されると聞けば、廃材を取りに行きました。すごくいい美術セットになりましたね」
ーー舞台を観ている感覚にもなりますね。
鄭監督「舞台を観てくれている人から、舞台とは別の感動があったと言っていただいています。知り合いからは『美花が美人すぎる!』と言われました。『美花はやっぱりブスでないとあかんやろ!』って(笑)」
桜庭「嬉しいですけど、喜んでいいのかな?(笑)」
ーー桜庭さんは舞台版を観て、どう感じましたか?
桜庭「すべての役に個性や強さがあって、1人でも欠けたらこの家族は成立しないだろうって思います。私が演じた美花も、この家族をつくる上で欠けてはいけない存在だと感じました」
ーー桜庭さんは今回初めて鄭監督とご一緒にお仕事をされたそうですね。
桜庭「鄭監督は表現の細かい部分まで見てくださっていて、自分にはなかった発想や演出で、監督に新しい自分を引き出していただけた気がして撮影が楽しかったです」
ーーおしとやかなイメージがある桜庭さんですが、美花との共通点はありますか?
桜庭「自分の意見を貫いてしまうことや自分がやりたいことに熱中してしまう部分は似ていますね。お母さんと喧嘩するシーンで思ったんですが、私もお母さんに対して理解してくれていると甘えてしまい、強く言ってしまうのですが、その部分は共感できました。」
ーーキャストの皆さんの関西弁が魅力ですが、桜庭さんも関西弁が上手でびっくりしました。
桜庭「撮影の1ヶ月前からセリフの音源をもらって覚えました。関西の人は関西弁を大切にされているので、うまく話さなきゃってキャスト全員が思ってて。関西の方がどんな反応をするのか、公開されるまでドキドキでした」
鄭監督「メインの4人(真木、井上、桜庭、大泉)は全員関西出身じゃないので、みんな必死でしたね。でも、大泉さんは自慢気に話していたよね?『俺、関西弁喋れてるやん』って(笑)」
桜庭「大泉さん、関西弁指導の先生におっしゃっていました(笑)」
ーー笑いも随所に散りばめられていますが、美花は笑いのシーンには欠かせない存在でしたね。扇風機の前で大股を開いて涼む姿や好きな男性の奥さんと取っ組み合いの喧嘩をするところはまさに「大阪のオバチャン」のようでした。
桜庭「美花の一生懸命に気持ちはわかります。喧嘩のシーンもカツラが取れるぐらい入り乱れるので、そんなにテイクを重ねることができないから、思いっきり感情をぶつけました。扇風機の前を独占するのはまさに私が幼い頃にやっていました(笑)」
ーー真木さん、井上さん、2人のお姉さんとの共演はいかがでしたか?
桜庭「真木さんは優しくてあたたかい方で大きく包み込んでくれる存在で、井上さんはお芝居での相談も聞いてもらっていて、お2人とも妹の私を支えてくださるお姉さんたちでしたね。家族のお話なので、撮影が終わっても本当の妹みたいに可愛がってくださいます」
ーーこの作品を今、映画として残す意義について、どう考えていますか?
鄭監督「今は在日5世や6世の時代なので、50年、100年先になれば在日という言葉自体もなくなるだろうと思います。万博が開催された1970年代という誰もが未来を信じた時代に、笑ったり泣いたりしながら生きてる人たちがいた。その姿を絆が薄くなってきた現代の人が見たら、勇気づけられるんじゃないかって。この作品を観て、明日はきっといい日になるって思ってくれれば一番嬉しいですね」
ーー最後に桜庭さんに関西弁でPRをお願いします!
桜庭「関西弁、本当にイントネーションが難しいんですけど、えっと、たくさんの人に愛される作品になってほしいです。みなさん、観てなー!(笑)」
山根翼