サッカーのロシア・ワールドカップ(W杯)の準決勝、クロアチア代表がイングランド代表と対戦し、延長戦の末に2-1と競り勝ち、初の決勝進出を決めた。
今大会のクロアチアは、とにかく話題に事欠かない。
大会序盤には、途中出場を拒否したニコラ・カリニッチを追放し、ベスト4進出直後には、ドマゴイ・ヴィダがSNSで政治的発言をして、FIFAに厳重注意される事態に発展。ともにメッセージを発したコーチは解任された。
ところが、ピッチ外の騒動が逆にチームの結束を強めているかのように、ピッチ内に限ればポジティブな話題が続く。グループステージではリオネル・メッシ擁するアルゼンチン相手に3発を叩き込む完勝劇。決勝トーナメントに入ってもデンマークとの熱きPK戦を制し、勢いに乗る開催国のロシアもこちらもPKで下した。
準決勝のイングランド戦では、さすがに疲労もあってか序盤からミスが目立ち、得意の連携もどこかチグハグ。5分に見事な直接FKを叩き込まれ、早々にビハインドまで背負ってしまった。
後半に入っても攻撃が跳ね返されてばかりだったが、68分に右サイドからクロスが上がると、相手の死角に忍び込んだイバン・ペリシッチが大外から飛び出して左足を合わせて追いついた。
3試合連続で戦うことになった延長戦でも、ヘトヘトなはずなのに必死にゴールを奪いにいく。109分には、どこにそんなエネルギーが残っていたのかと思うほど鮮やかな、マリオ・マンジュキッチのボレーシュートがさく裂する。
コーナーフラッグ付近で雄叫びを上げるマンジュキッチ。祝福するために選手は殺到。マンジュキッチもろとも押しつぶされたカメラマンにヴィダが熱いせっぷんを“見舞う”など、ほとんどお祭り騒ぎである。
史上初の決勝進出を決めた直後の会見に、代表ユニフォームを着込んでやってきたのはクロアチアのズラトコ・ダリッチ監督。「チームが示した強さやスタミナ、エナジーのレベルは凄まじかったね」と選手たちを笑顔で称える。
先発した11人で90分を戦い抜き、1人目の交代カードを切ったのは延長前半になってから。
「交代枠を使いたかったが、出場している選手は誰もそれを求めないんだ。みんな揃って、『いけます。まだ走れます』と言っていたからね」
レアル・マドリードに所属するキャプテンのルカ・モドリッチを筆頭に、どの選手も技に覚えのある一流どころ。技術に自信を持つ選手ほど運動量が少なく守備はサボりがちだが、「小さな負傷を抱えている選手もいて、2人は片足だけでプレーしているような状態だった。しかし、それを感じさせなかったね」とダリッチ監督は明かしたように、すべての選手がエネルギーが尽きるまで、根性でゴールに迫っていった。
馬車馬のように走り回り、1ゴール1アシストの活躍で、試合のMVPであるマン・オブ・ザ・マッチに輝いたイバン・ペリシッチは、「クロアチアのような小さな国にとって、W杯のセミファイナルがどれだけ重要なのか、みんな知っているんだ」と口にした。
決勝で激突するのは、試合までの間隔が1日長いフランス。しかも、決勝トーナメント3試合はすべて90分で決着してきて、120分を3試合戦ったクロアチアはちょうど1試合分多くプレーしていることになった。
ところが、もはやそんな話題を出すことすらどこか無粋に思えてくる。
うまくて、タフで熱い。その上、持てる力のすべてを最後の一滴まで振り絞る。
観る者の胸を強く打つ何かがあるのであれば、それは彼らが今というときを、夢中に生きているからという気がしてならない。
小谷紘友