3度目の細田守監督作への出演となった女優・黒木華。演技派と称される彼女を悩ませたトリッキーなヒロインの役作りから、細田作品の魅力、さらには家族に対する思いまで語ってくれた。
優しい細田監督が時々みせるギラっとした目で芝居を修正
―初めて『未来のミライ』絵コンテや台本を見た時の感想をお聞かせください。
黒木:またワクワクするような物語を細田(守)さんが書かれたなと思って読み始めました。いつも家族の絆や愛情が深い作品を作られる細田さんなんですが、今回は4歳の男の子・くんちゃんが主役ということで、その年齢の子を主役にした作品をあまり見たことがないなという印象をもちました。
―過去2本の細田監督作品に出演されていますが、演じるうえで今までより難しかったところはありましたか?
黒木:最後のほうでおとうさんやおかあさんたちの過去を振り返るシーンがあるのですが、どのくらいの熱量で言えばいいのかを考えないといけなくて、そこがけっこう難しかったです。
くんちゃんを引っ張っていくのがミライちゃんの役目なので、それがちゃんと伝わるように意識しました。でも、そのシーンに漂っているSF感を出してほしい、と細田さんから言われていたので、それも悩みどころでした。
未来からやってきた女の子ということで、お兄ちゃんとしてくんちゃんを見ている、でもそのくんちゃんは自分より子供という、ちょっとトリッキーな関係性。そこをどう見せればいいかというのは、自分なりに考えて演じていました。今までの作品とは違うベクトルで難しかったところだと思います。
―普段のお芝居と比べて、声のお芝居にはどのような難しさがありますか?
黒木:声だけでお芝居をするというところが一番違いますね(笑)。演じている役者の顔が見えないというか、アニメのキャラクターの顔がメインですから。でも、細田さんは「黒木さんそのままを出してください」と言ってくださるので、余計なことを考えずに挑戦できました。
細田さんは優しいので「いいね、いいね」と言ってくださるんですけど、時々ギラッとした目をされるので、その時は「違ったんだな」と思いながら見直させてもらいました。
―声優としてのアフレコを数回経験されていますが、現場の空気感には慣れましたか?
黒木:いえいえ、毎回新鮮です。今回は上白石(萌歌)さんがすぐ隣でくんちゃんを演じられていたのもおもしろかったです。みなさんがアフレコしたあとの映像を観て「あ、こういうふうになっていくんだ」と思うのも楽しみのひとつでした。ちゃんと声が吹き込まれて物語になっていって、どんどん世界が広がっていく様子は観ていて楽しいんです。
―未来のミライちゃんを演じることで、意識されたことはありますか?
黒木:私も28歳なので、中学生の女の子の声がどういうものかと…(笑)。フレッシュさと言いますか、若さや爽やかさは意識して演じました。最初はなかなかそこにたどり着けなかったのですが、細田さんが導いてくださったんです。
―どうやって爽やかさを出されましたか?
黒木:声優さんではないので特別に何かをしたわけではありませんが、ミライちゃんと同じ気持ちになれるように意識しました。あとは単純にもう少し声を高くしてみたり、逆に低くしてみたり、そういうやり方でしたね。
―黒木さんはミライちゃんにどんな印象をお持ちですか?
黒木:明るくて元気で、素直なかわいい子だと思います。くんちゃんの妹ですが、少しお姉ちゃんっぽさもある子というか。やっぱり女の子のほうが大人なんだな、と考えながら演じていました。でも悩みがあってくんちゃんに会いに来たので、そこに幼い素直さや、中学生っぽさがありますよね。
―演じていて、画面の中のミライちゃんの動きや表情といった部分に影響を受けた、ということもありましたか?
黒木:細田さんの描かれる絵は、いきいきとしていて表情が豊かなので、すごくお芝居のヒントになるんです。くんちゃんとチクチクして遊ぶシーンも同じ動きをしてみたりしましたし(笑)。アフレコ時は完成映像ではないのでラフの部分もありましたが、「アニメってすごいな」と思うのはラフな絵でもヒントが多いところですね。
自分の人生でいちばん大事なもの それは家族という存在
―ミライちゃんとご自身が「似ているな」と思ったシーンや、演じやすかったシーンはありますか。
黒木:中学生の記憶がかなり昔なので、どうだったかな…(笑)。私は弟がいるので、ミライちゃん兄妹とは逆なんですが、子供のころのじゃれ合いだったり、未来のミライちゃんとくんちゃんのじゃれ合う姿は、親近感を持ちました。
特にグッときたのは、ミライちゃんとくんちゃんが過去に戻っていくなかで、高校生のくんちゃんと中学生のミライちゃんが話をしているシーンですね。4歳のくんちゃんとじゃれ合っている時のミライちゃんとは違って、信頼し合っている雰囲気があって。兄妹の絶妙な距離感がわかるんですよね。「あっ、こういう感じだな」と、弟がいる身としてもすごく納得できるんです。
だから私はくんちゃんの気持ちもわかるというか。下の子が生まれたことによって自分の天下じゃなくなるという経験をしていますからね(笑)。どちらかというと、くんちゃんに似ているところのほうが多いかもしれません。
―くんちゃんが「僕はお兄ちゃんだ!」と自分に告げたのと同じように、黒木さんにも「私はお姉ちゃんだ!」と思われたタイミングがあったのでしょうか?
黒木:多分あったと思います。「お姉ちゃんなんだから」とは言われなかったと思うんですが、やはり自分の中で姉だと自覚する瞬間というのがあるんですよね。
―この作品では子育てというのも大きなテーマのひとつにありますが、黒木さんも子育てについて何か考えたことはあるのでしょうか?
黒木:私は今28歳なんですが、母親役が最近すごく多くて(笑)。演じていると、あらためて子育ての大変さを感じます。そういう視点でこの映画を観ると、この後くんちゃんやミライちゃんがどういうふうに成長して、どういうことを経験していくのかも気になります。
くんちゃんやミライちゃんに子供ができたら、その時に過去の2人も出てくると思うんです。こう考えると、未来と子育てというテーマは親和性があるというか、リンクするんですね。
―今回収録を終えて、あらためて感じた細田監督作品の魅力はどこですか?
黒木:少しSFっぽいお話の中で、家族の問題や成長が描かれていて、だからこそくんちゃんの大きな成長がキラッと見えてくるんですよね。私は家族という存在が自分の人生でいちばん大事なので、とても魅力的でした。そういう描き方ができているのは、やはり細田さんならではなのかなと思っています。
もちろん映像も素晴らしくて、特に私はくんちゃんが東京駅で迷子になったシーンがすごく壮大で好きですね。それ以外にもひかれる描写がたくさんあって。リアルさと、どんどん広がっていくくんちゃんの想像の世界を融合させて、こんなに観る人をひきつける映画にできるのは本当にすごいことだと思います。
『おおかみこどもの雨と雪』(2012)の時もそう思いました。アニメーションだからできることを存分にやって、観ている人の心に何の違和感もなく何かを残せるというのは、細田さんだからこそできることなのだと思います。
過去を振り返るのではなくこれからを考えていきたい
―黒木さんにとって、ご自身の未来、もしくは理想の家族像というものはありますか?
黒木:私は自分の両親のような家庭が理想ですね。いろんなところに連れて行ってもらったり、いろんなことをさせてもらったりしたおかげで、自分が今好きなことをできているので。子供ができたら家族でどこかに旅行したいですし、なるべくやりたいことをやらせてあげたいです。
けんかはするでしょうけど、老後は一緒に縁側で過ごすくらい仲良しな、人として尊敬し合えるような関係でずっといられるような人と出会って。子供に老後を見てもらう感じがいいなと思っています。
―家族がいちばん大切とのことですが、細田監督の作品をご覧になられた影響もありますか?
黒木:元々いちばん大事な存在だったんですが、たしかに細田さんの作品の影響も強いです。普段は忘れがちな親の大切さだったり、子供に対する親の気持ちを想像する機会があればあるほど、家族のつながりについて考えますよね。
実家が大阪なので、距離がある分忘れてしまいがちなことを思い返すきっかけにもなります。自分の両親が細田さんの作品を観て、感想を話すこともありますし、この作品のこのシーンでおかあさんはどう思ったんだろうと私から聞いたりもしますし。
弟も細田さんの作品がすごく好きなんですよ。そういうこともあって、細田さんの作品に関わらせてもらうたびに、家族と姉弟のつながりというのを再認識させてもらっています。
―過去の作品で特にご家族と注目した作品は?
黒木:やっぱり『おおかみこども~』がいちばんですかね。姉弟構成が一緒だったので、よく話をしていたかもしれないです。
―もしご自身が過去に戻れるとしたら、いつに戻りたいですか?もしくは、この時代に行けたら…という願望はありますか?
黒木:どちらかというと未来に行ってみたいです。過去とかやり直しにあまり興味がないというのと、未来がどうなっているのかを見てみたいので。
過去だと…太宰治に会いに行きたいです。中学生のころから好きなので(笑)。過去の自分があったから今があって、今の自分はすごく幸せなので、過去を変える必要はないかなと思います。それもやっぱり家族のおかげです。
もうちょっと勉強しておけばよかったなとか、習い事をもっとちゃんとやっておけばよかったなみたいなことはありますが、人生という大きなものをやり直す必要はないのかなと思いますね。もう終わってしまったことに固執するよりは、今からできることを考えたほうがいいと思える性格です。【取材・文:リワークス/撮影:渡邊明音】
ウォーカープラス編集部