横浜で結成したASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)が約1年半ぶりとなるシングル「ボーイズ&ガールズ」を2018年9月26日(水)に発売する。同時代を生きる人々の背中を押す、ポジティブなメッセージにあふれ、次なる境地へと向かう1曲が誕生した。今回、アジカンのメンバーに新曲の話から、横浜でのレコーディング秘話まで聞いてきた。
――約1年半ぶりのシングル「ボーイズ&ガールズ」。バンドがノッていることが伝わってくる、会心の一曲だと思うのですが、これまでのアジカンにはないミドルテンポで、びっくりもしまして。
後藤(Vo.&G.) そうですね。「この曲、アジカンでやらない?」って何度かメンバーにデモを送っていたんですけど、「Gotch(後藤のソロ活動)でやったらいいじゃん」みたいな返信が来たり、既読スルーみたいな感じでNG出されていたんですけど(笑)。
喜多(G.&Vo.) ちょうどアルバム制作のセッションをしている時で、ゴッチ(後藤)から精力的に曲があがってきていて、ほかに取り組んでいる曲も多くて忙しかったというのも半分ありつつ……「これソロでやった方が映えるんじゃないの」って言ったのは、確かに認めます。
伊地知(Dr.) 認めた(笑)。
喜多 でも、アルバムの完成が見えてきて、あの曲が持っている力というか。ゴッチが「このタームで出した中で一番いい曲だ」って言うから、歌詞も書き起こしたりして、あらためて聴いたんですよ。こういう曲ってアジカンではなかなかやらないけど、取り組んでみるといいかも。ゴッチが気に入ってるっていう時点でやってみないとって思って。
後藤 「お前がいいって言ってる曲、ソロでやるより、俺らとやった方がよくなるよ」くらい言ってほしいよな(笑)。
――曲に引っ張られて、トライしてみたんですよね。
喜多 そう、取り組んでみようって。この曲は、アルバムの中でも最後のセッションだったんですけど、アルバムの完成を前になかなか終わんなかったんですよ。もうちょっとやりたいって。
後藤 久しぶりのアルバムだし、めいっぱいやりたいですよね。
喜多 いつもそうなんでしょうけど、いつも以上にゴッチのアルバムにかける意気込みがすごく強いから、それは頼もしいなというか。ついていかなければなって思いました。それに、実際アジカンでミドルテンポの曲を、この年齢でできたら、バンドも新しい扉を開くんじゃないかって。しっかり取り組むことで、自分自身ももう一歩先に進める感じがしました。
――セッションは、おなじみのアジカンのスタジオで?
喜多 はい、八景島の方の。
後藤 当時、いろいろ探して、横須賀の物件も見たよね。横須賀にしてたら、横須賀ウォーカーにしか出られなかったのかな。
喜多 そんなに厳密なの?(笑)
――大丈夫です。神奈川県全域カバーしています(笑)。リズム隊のお2人は、ミドルテンポに取り組んだのは、いかがでしたか?
伊地知 ミドルテンポの中でも、ここまでミドルなのはやったことがなかったんですよね。アジカンの曲の中でも、一番遅い?
後藤 うん、一番遅いと思うよ。
喜多 デモからテンポを上げるんだろうなって思っていたけど、落としましたからね(笑)。
伊地知 さらに、音数も少なくというオーダーがあったので。「それが一番難しいんだよ」と思いながら。ドラムは特にいい音で録るというのを目標に録りました。昔は、アレンジとかフィルで曲を聞かせたり、リズムを作り込んだりしていたんですけどね……。
後藤 いい音で録るって、うまくないとできないんですよ。でも、できるよ、潔はって。
伊地知 ありがたいです(笑)。
山田(B.&Vo.) デモはゴッチのソロっぽい印象だったんですけど、そこからアジカン風味にというオーダーもゴッチからきていたので、3人でスタジオに入っていろいろやってみたんですけど、イマイチどれもしっくりこなくて……。それで、最初のゴッチのインスピレーションを大事にしてみようと思って、結果的にデモよりシンプルな方向になった。
後藤 そうだね。プリミティブな感じになったね。弾き語ったメロディと言葉と展開とかあるけど、どこに着地するかわからない中で、ちゃんと結果を出せた。こんなふうになるとは全然思っていなかったようなところに、ちゃんとアジカンらしく、そしてかっこよくなっていけた。今回、一番化学反応があった曲じゃないかな。バンドらしい作業ができてよかったと思います。
――今のアジカンだからこそ。新人にはできない境地ですよね。
後藤 このBPM(1分間の拍数)は怖いでしょうね、新人バンドには。
喜多 スタッフもざわつく(笑)。
後藤 でもまあ、BPMが遅いとか、いい音で録って、いろんな音をかぶせないで聴いてもらうというのは、世界的な音楽のトレンドでもあるので、ちゃんと今の時代の音にしたいなというのがあった。でもギターは俺たちらしくっていう。最初の「We’ve got nothing」のあとのギターで、「もう、大丈夫。この曲、いい曲!」ってなるよね。建ちゃん(喜多)のギター素晴らしいと思うよ。
――「We've got nothing」という言葉もすごい力がある。時代のキーワードをとらえた、詩の世界になっているなって。
後藤 最初は、そのタイトルだったんですけど、何かもうちょっとないかって、じゃあ、ボーイズ&ガールズかなって。皮肉を言うでもなく、甘い言葉を言うでもなく、ただ、メッセージとしてポジティブになっていて。始まったばかりなんだよっていうね。これでいくらでも何にでもなれるし、どんなことでもできる、可能性があるということですよね。
――こういうこと考えていた?
後藤 でも、いつも思っていますよ。何事も今からやればいいだけで、人はいくらでも伸びていける。老いてもできることは増えていく。それは間違いないから。楽器も今からでも上手くなれるから。それは、ひとつの希望だと思うしね。些細なことで悩んでてもね、世界は広い。俺たちも去年ブラジルとか北米とかツアーで回ったけど。
――去年、ワールドツアーもされていましたからね。実感として。
喜多 知らないことだらけ。
後藤 もっと大事なことは、いっぱいありますよ、みたいな。へこむこともいっぱいありますけどね。基本的にはまだまだこれからなんだってできるさっていう。失敗なんて取り返せるよっていう気持ちはある。狭いコミュニティの中で、傷ついたりしないで、どんどんいろんなところに飛び出していけばいいんだよって思うし、過去は変えられないし、今まで成し遂げてきたことって、特に興味はなくて、これからなにができるかっていうことを考えた方が、ヘルシーだし、いいに決まってる。
――後編に続く
取材・文=古城久美子、撮影=映美