シリーズ累計680万部突破の人気小説を映画化した「ビブリア古書堂の事件手帖」。現在と過去を繋ぐ2冊の本に隠された秘密に迫る上質なミステリーに仕上がっており、情緒的な鎌倉の風景も魅力的に映し出している。今回、キャンペーンのために来阪した主演の野村周平と三島有紀子監督にインタビュー。関西出身の2人だけにボケとツッコミが飛び交う、初タッグとは思えない相思相愛ぶりを見せてくれた。
「幼な子われらに生まれ」や「しあわせのパン」の三島有紀子監督がメガホンをとった「ビブリア古書堂の事件手帖」は北鎌倉にある「ビブリア古書堂」を舞台に、ある2冊の本に隠された秘密に迫るミステリー。人見知りだが本に対しては並外れた情熱と知識を持つビブリア古書堂の店主・篠川栞子を黒木華、ひょんなことからビブリア古書堂で働くことになる青年・五浦大輔を野村周平が演じる。また、若き頃の大輔の祖母・絹子に夏帆、絹子に惹かれる小説家志望の嘉雄を東出昌大が演じ、本の秘密を担う過去パートを彩る。
実写化は姿や形をトレースすることが重要ではない
―撮影の時は関西弁でお話しされていたんですか?
野村「標準語でしたね」
三島「関西弁やったよ?」
野村「そうでしたっけ?」
三島「親戚の子と真剣に映画を作ってる感覚でしたね」
―せっかくなので、今日はお2人とも関西弁でお話ししてもらえれば。本作はコミカライズもされ幅広い層から支持される人気小説が原作です。
三島「文学好きですし、古書も好きなんです。それに、この原作なら、死んだ人の思いが今生きている人に『古書』を通して伝わる、というテーマで作ることができると思いました。」
―野村さんは原作を読んでいましたか?
野村「僕なりの五浦大輔を演じるため、あえて読みませんでした」
三島「小説の映画化は姿や形を完全にトレースすることが一番重要ではないと思うんです。人間がやるわけですから完全にトレースは無理ですしね。大輔というキャラクターがどんな人間かをきちんと掘り下げて、役者さんの魅力も引き出しながら、あとは役者さんがどう表現してくれるのかが大事かなと」
―野村さんが演じた大輔は、非常に爽やかでニュートラルな印象でした。
野村「めっちゃかわいいですよね!三島監督に感謝してます!」
三島「かわいく爽やかに撮ってますから(笑)!大輔は好きな女性の望んでいることに寄り添う人間味のあるキャラクター。どこにでもいそうで、なかなかいないんですよ。栞子のために体も張るし。あんな風に思われるっていいよねって黒木さんと話してました」
―野村さんは黒木さんと現場ではどんな話を?
野村「たわいもない話ばっかりしてました(笑)早く打ち解けるように」
―黒木さんの心の扉を開けていく感じで?
野村「そうですね、少しずつトントンってノックしながら。でも『まだ入ってます』みたいな感じで(笑)」
三島「でも、野村さんは高度なテクを使うんですよ。相手が距離を置きたいって思ってるときに引くんじゃなくって、嫌がられる感じで入っていくんです。それで引かれたりすると、引かれたことをあえて話題にする。人付き合いの上級者なんです。野村周平の人付き合い講座したらいいんじゃない?(笑)」
野村「それなら僕のドラマを作ってもらえれば!」
―三島監督に作ってもらうのは(笑)?
野村「それなら『ヒューマン』ってタイトルで…ってええんです、こんな話は!(笑)」
現代と過去。それぞれのシーンに隠された思い
―夏帆さん、東出さんの過去パートは重厚感がありました。
三島「昔の文芸映画のように撮りたかったのでフィルターもかけて映像の色味を変えました。あとは立ち姿。過去の2人はお互いを見つめ合っているけど、栞子と大輔は見つめ合っているシーンはほとんどないんです。栞子と大輔は一緒の目的を見つめているので、そこの対比は意識しました」
野村「過去パートは嫉妬するほどの素晴らしい仕上がりでした。でも、あの重厚感があるから現代パートが際立つ。夏帆さんと東出さんのお芝居も心にくるものがありました」
―本作で登場する風景はどこも素敵ですね。特に切通が印象的でした。
三島「切通は、もともと通じていなかった2つの地点を山を切って通した道なので、人と人とが繋がる意味としてどうしてもここで撮影したくて。この切通と同じ意味なのがが、冒頭の野村さんのお葬式のシーンに出てくる橋。繋がってなかったものが、橋によって繋がる。現代と過去も、男も女もそう。繋がるということを視覚化して見せたいと考えて撮りました」
野村「そうだったんですね!」
鎌倉は、関西でいうならあの街に近い?!
―本作は鎌倉が舞台ですが、鎌倉は関西でいうならどこに近いですか?
野村「神戸かな?いや、ハワイ?」
三島「違う(笑)鎌倉は文学の街なので京都に近いかな。文学者がこよなく愛した街で…」
野村「そうなんですか?僕はヤンキーの街かと」
三島「それは湘南(笑)?海沿いを飛ばすところね。ビブリアじゃない!?(笑)」
―(笑)。栞子が大輔に連れられて向かう高台も素敵でした
野村「あれは伊豆下田ですね」
三島「鎌倉は観光地なので撮影が難しかったんです。鎌倉の文学的な匂いを感じられる場所をずっと探していたときに、伊豆下田に三島由紀夫さんが通っていた散髪屋があって、そこで聞いた喫茶店のマスターから切通と高台を教えてもらったんです。高台のシーンは大輔がとにかく素敵で、栞子が知らない場所に連れていくことで栞子は新しい世界を知る。嘉雄も本を読まなかった絹子に本で新しい世界を見せてあげる。この2人の男性、とても魅力的なんです」
「野村周平の見どころが詰まってます」(三島監督)
―三島監督が思う「この野村周平は素敵!」とシーンはありますか?
三島「野村周平の見どころは、本作にほとんど詰まってます」
野村「そうですね、それは思います(笑)」
三島「まずは身体能力の高さ。海に潜るシーンは本当に服を着たままスタントマンなしで飛び込んで潜ってますから。あとは栞子とのやりとりの中で本当に繊細な表情を見せてくれるんです」
野村「そんな褒められたことなかったから意気消沈としてしまった」
三島「意気消沈、使い方間違えてるよ(笑)!
野村「撮影中にもっと褒めてくれればよかったのに(笑)」
三島監督の良さは「ちゃんと怒るところ」(野村)
―お話を聞いているだけで、お2人の相性の良さを感じます。
野村「ナレーションの収録のとき『この物語を見ているお客様をいざなうように』って言われて、僕の言葉のボキャブラリーにはないけど、わかりやすいんですよね」
三島「野村さんは動物的な勘が鋭くて理解力が高いんですよ。ニュアンスを確実に受け取ってくれる非常に貴重な人です」
野村「今回はやりやすかったです。締めるところはしっかり締めてくれるし。女性監督のいいところなんですよ、男性にもちゃんと怒るところって」
三島「それって、女性監督だけなん?」
野村「僕、女性監督は今回が初めてでした(笑)男性の監督だと話が弾みすぎるときがあるけど、三島監督は全員を平等に見てくれる。人の感情を操ることができる人だなと思いました」(了)
■映画「ビブリア古書堂の事件手帖」
11月1日(木)よりTOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば他にて全国ロードショー
山根翼