川崎市育ち、もも(妹・歌)と小春(姉・アコーディオン)による姉妹ユニット、チャラン・ポ・ランタンが結成10周年目というアニバーサリーイヤーに突入。ライブはもちろん、ドラマや映画、CMへの楽曲提供など、活動の幅を広げ、駆け抜けてきた二人。その日ぐらしで、振り返るという概念もなかった二人が、インディーズ時代の楽曲で構成するベストアルバム「過去レクション」をきっかけに、ふりかえって取り戻したものとは!?
2018年11月23日(祝)、自身最大規模のワンマンライブ、10周年目突入記念公演「大拍乱会(だいはくらんかい)」NHKホールを前に、話を聞いた。
(前編からの続き)
——結成10周年目というアニバーサリーイヤーがスタートということで、2018年11月21日(水)に「親知らずのタンゴ」をはじめ、インディーズ時代の作品をまとめたベスト盤「過去レクション」を発表しますね。
小春 10周年にあたって「ベストみたいなものを出そう」って考えたんですが、まず「ベストって何?」となって。レジェンドの方々だと、みんなが知っているようなヒット曲ばかりを集めたようなベストなんでしょうけど、我々はそういう感じは持ち合わせていませんよっていう。だから、過去のハイライトとして、昔を振り返ったいいとこどりみたいな。改めて昔の作品を聴きたいって思った人に、全力で勧められるのはこれだよって。しかし、振り返ってみると、結構過激派だったなって。私が。
もも いや、私がって言わなくても、完全に姉が過激派です。事件しかなかったから。
小春 「アイツとなんかあったなー」とか「アイツとうまく行ってる時にこんな曲書いてたな」とか。個人的には自分の身の回りに起きたことが曲で振り返られます。
——(笑)。しかし、エネルギーに満ちあふれていますよね。
もも そう! ある!
小春 過去の自分から得るものは大きかったですね。「10年前の自分だから」「経験がないからこそ」できるみたいな。今、この感じを出そうと思ってもできない。
もも 小春ちゃんを一番近くで見ていると、自分で意識して変えていったというよりは、いろんな人と出会っていく中で、時間とともにだんだんと転がっていって、石みたいに角が丸くなっていくみたいな。悪い意味ではなく。
小春 そういうの思い出させてもらえたな。
——具体的に発見したことって、何?
小春 ど頭の「親知らずのタンゴ」から本当にウブ。
もも いやねぇ「過去レクション」は私でしょ。わかりやすくどんどんと変わっていくから。
小春 「声、変わりました?」とかって言われるんですけど、マジで子どもだったんだよね。
——ジャクソン5のマイケルから、マイケル・ジャクソンになったみたいな声の変化ですよね。
小春 そうそうそう!だから、あのころの感じって無理!
もも 絶対に不可能!声もだけど、あの歌わされてる感(笑)。
小春 「私、本当はこういうの好きではない」っていうのが少し出てる感じがよかった!そういえば、「人生のパレード」を歌うようになって、半年とか1年経って「憂鬱ってなに?」って聞かれたことがあったな。
もも “終わりのない憂鬱”ね(笑)。
小春 「(ああ、わかんないで歌っていたんだ)いいよ、別に。わかんなくても」って。10年たった今は、意味もわかると思うけど、当時はそれがよかったんだろうなって。
もも どんどん大人の階段のぼりましたね。最初から恋の歌も歌っているけど、だんだんと私も変わっていってるし。歌のテクニックというか、そういう技術的な力はいろいろ吸収していって、できることはたくさん増えたけど、声色も含め、あのころには戻れないんだなって噛みしめました。インディーズ時代の68曲。歌える歌はたくさんあると思っていたのに、もうこの「過去レクション」で歌っている通りには歌えない。自分で自分の歌を聴いて、こんなにハッとするものなんだなって。
小春 誰にでも当てはまることだと思うけど、時の流れで得られるものって、とてつもなく大きいけど、失うものもある。無知だったからあった自信とか背伸びみたいなものを、ゆっくり失っていってる。もちろん、それを守ろうとする必要はないんだけど、気持ちの部分は忘れないようにしたいですけどね。
もも ずっと同じ気持ちだけどね。でも、確実に、何かを得て何かを失っている。それが歌でわかるっていう。
小春 だから、みんなも写真とか動画とか、声だけでもいいから録っておいたほうがいい!
——アーカイブするって大事ですよね。
もも ホント。これまでも、結成当初の話をすると「最初はこんなんじゃなかったです。変わりました!」とか言ってきたけど、実際聴いたら「まじで変わってんな!!」って。
小春 CD4枚組のほうは、一気に聴いて、一番最後の歌から一番最初の歌に戻ると、時空が歪んでてヤバいから!
——ちなみに、横浜ウォーカー的には「好きです かわさき 愛の街」<CD4枚組+DVD盤に収録>も伺っておきたいなと。
もも 改めて聴いてみて、この曲かっこいいよね。
小春 これはよかったよ。これ、曲を作ってる時に「いい感じのマーチができたな」と思っていたら、すごく遠くから全く同じメロディが聴こえてきて「やばい、やばい。まだ発表してないのに盗作されてんじゃない?」ってバッと窓を開けたら、ゴミ収集車の音楽だったっていう。毎週聴いてて、自然と入ってて曲にしてたんですよ。盗作してたのはこっちだったっていう。
もも このエピソード自体、久々!
小春 ライブのMCでずっとしてたからね。本当に失礼なことをしかけたけど、そのくらいいい曲ってことだよ!もうね、これをゴミ収集車の音楽にした人に感謝したい。それだけで入れてるんですけどね。
——ぜひね、川崎市民に聴いてほしい。
もも いやー、そこは複雑ですけどね。この曲こそ、「たまーがわのー♪」って少年声ですからね。「ももちゃん何があったんだろう!?」って思うよね。
小春 だから、全部を得たまま大人になるって無理なんだなって!
——ちなみに、小春さんのアコーディオンも生々しいですよね。
もも なんか、近場で弾いている感あるよね。
小春 録り方がね。近っ!て(笑)。
もも 「練ったなー」「緻密に作り上げたなー」みたいなのが全く感じられない。「はい、弾いた、弾いた、弾いたったー」みたいな。あのころの小春ちゃんがそのまんま。
小春 スタジオってさ、お客さんいないし、弾いてもお金くれないし。
もも レコーディング自体に本当に興味がなかった。
小春 「その場のお客さんに向けて10年やってきました」みたいな何かはあるんですけど、音をどうしようとか、アレンジを練ったりとかってなかったな。だから、CDという作品を作るということに対しては、最近スタート地点に立ったんじゃないかって思うほどで。
——チャラン・ポ・ランタンの未知の領域はまだまだあるっていう。でも、楽しみですね。
小春 また、ここから何かを得て、何かを失っていくんでしょうね。雑な演奏とかできなくなったりして(笑)。
取材・文=古城久美子、撮影=山本佳代子