淹れる人の心、経験が味わいに表れる「Étoile coffee」
BCでのジャッジ経験もある山口美奈子バリスタが営む「Étoile coffee」。開業当時は修業した「ハニー珈琲」出身者らしく、フルーティな酸味、華やかなフレーバーといった豆の個性を前面に押し出すスタイルだったが、オープンから丸3年経ち、プライベートでも結婚、出産を経験。今は、全体的に味わいに丸みがあり、なにか一つをあえて特出させない、まとまりに秀でたコーヒーになった印象。「2018年1月から自家焙煎にチェンジしました。本当に小さな焙煎機ですし、手探りの挑戦ですが、自分が今、求めている味を抽出以外でも表現できるのはすごく楽しいです」と山口さん。
そして、焙煎を始めたからにはこだわるのが生豆。「生産から抽出までの質を高める活動をしている北欧のチーム「ノルディック・アプローチ」、希少な「ナインティ プラス」など、世界的に高い評価を得ている生豆も仕入れています。今まで扱ったことのない豆に触れてみたくて」と続ける。
同店はこだわりのコーヒーに加え、洗練された雰囲気も魅力だ。テーブルにさりげなく飾られる季節の花、長時間の電話禁止など、居心地のよさに重きを置くことで、コーヒーはもちろん空間や流れる時間を重視する人たちから愛されてきた。さらに、最近はママ世代も増えてきたという。それは、山口さんの内面からにじみ出る優しさがコーヒーの味わいに表現されているからかもしれない。
[Étoile coffee(エトワール コーヒー)]福岡市中央区平尾2-2-22 / 092-531-5922 / 10:00〜16:30 / 水、日、祝日休み
コクと深みを追求した豆売り専門店「日々ノ珈琲」
高宮通りから一本裏通りに入った場所に店を構えて、今年で10年目の「日々ノ珈琲」。オープン時から豆売り専門を一貫する昔ながらの自家焙煎店だ。焙煎技術の指導も行うオーナーの酒井一博さんは、もともとは香料メーカーでコーヒーフレーバーの開発に携わっていた経歴をもつ。研究職だったためか、焙煎に対しての考え方もロジカルで、求める味も明確。
直火式の焙煎機を導入しているのも「直火式は料理でいうところのグリルやステーキに近い。豆への火の通り方が外側と内側で微妙にですが変化があり、グラデーション状に焼くことができるんです。これが味わいに奥行を与えます」と、こだわりを語る。さらに、「コーヒーの味わいで大切にしているのは口当たりのよさ(マウスフィール)とあと味のよさ(アフターテイスト)です。焙煎の仕方によって、それらはよりよくできますが…やはり限界がある」と酒井さん。そこで生豆の質を上げることにし、たどり着いたのが、東京-世田谷の名店「堀口珈琲」が中心となったグループで買い付けるスペシャルティコーヒー。福岡市内で扱っているのはここだけで、一般に流通しない高品質の豆を購入できるのが強みだ。
酒井さんは「価格で選んでほしくない」と、豆の価格も100g580円、650円の2プライスのみに設定。中深煎り以上の豆が中心なので、コクと深みを求めるコーヒー好きにおすすめしたい。
[日々ノ珈琲(ヒビノコーヒー)]福岡市中央区平尾2-17-6 山荘第2アパート1F / 092-404-3270 / 11:00〜19:00、日、祝〜18:00 / 月、第1、3日曜休み
一日を終えた人々がほっと翼を休める“空港”「Cafe Bar 375」
通りから入った建物の奥に灯る飛行機をモチーフにした店のサイン。「Cafe Bar 375」は無類の飛行機好きを公言する中村美奈子さんが、2018年5月にオープンさせたカフェバーだ。店内にはさまざまな旅客機の模型が飾られ、コーヒーメニューも空港コードを模し3桁の記号で表記。
中村さんは「Étoile coffee」出身とバリスタの腕は確かで、ラテも甘く口当たりもなめらかに抽出。有田焼の窯元に特注した飛行機のロゴを入れたカップで“機上の一杯”を楽しみたい。
[Cafe Bar 375(カフェ バー サンナナゴ)]福岡市中央区大宮2-1-31 U/TERRACE101 / 050-1163-3711 / 15:00〜24:00、日曜13:00〜20:00 / 火曜休み
“エアロプレスの母”が淹れる新しいコーヒー「MANLY COFFEE」
志を集めて勉強会を開くなど、福岡のコーヒーシーンを盛り上げ、支えてきたロースター兼バリスタの須永紀子さんが営むロースターカフェ「MANLY COFFEE」。16年前、当時勤めていたスターバックスのコーヒー大会で日本1位になり、コーヒーアンバサダーに就任したことで、より深くコーヒーの世界にはまっていった須永さん。世界各地でいろいろなコーヒーを味わい、自らも探求を続けた須永さんが、自身にとって最高の抽出方法と感じたのがエアロプレスだ。2012年から「ジャパンエアロプレスチャンピオンシップ」を主催するなど、日本においてエアロプレスを広めた第一人者で、自身が店で焼く豆もエアロプレスで抽出した時に最大限のポテンシャルを発揮する浅煎り〜中浅煎りに仕上げている。
エアロプレスで丁寧に抽出したコーヒーは、なめらかな質感と華やかなフレーバーが広がるのが特徴で、さらに須永さんが焙煎して淹れたコーヒーは雑味がないため酸がきれい、かつ余韻に感じられる甘味が強い。原料もエチオピア、ブルンジなど個性的な生豆を選び、ブレンドはせずに、豆本来の味わいを生かすようにしている。その味わいはコーヒーというより、“お茶”に近い印象をもつ人もいるだろう。苦くて濃いコーヒーに苦手意識がある人は、ぜひ同店のコーヒーを味わってみてほしい。そのフルーティな味わいに、コーヒーの概念をきっと覆されるはずだ。
[MANLY COFFEE(マンリーコーヒー)]福岡市中央区平尾2-14-21 / 092-522-6638 / 10:00〜15:00、土曜8:00〜17:00 / 日、月、火曜、祝日休み
さらなる高みを目指す自家焙煎のパイオニア「ROASTER'S COFFEE 焙煎屋 平尾店」
警固本店は今年で30周年の「ROASTER'S COFFEE 焙煎屋 平尾店」。豆売りに特化した店の福岡における先駆けで、小売りに加え、飲食店や物販店への卸も多いというから地域密着で歩んできたのがわかる。
平尾店を切り盛りするのは2代目の平山謙吉さん。トレードマークのオーバーオールとキャップ姿で、生豆と焙煎機に日々向き合っている。その姿勢は初代と同じく、とにかく真摯だ。豆の素材を生かしつつ、ここにしかないオリジナリティある味わいを作ることを常に意識。謙吉さんは「焙煎度は幅広く、素材のどの部分をどう出したいかをイメージして、それを表現するためのアプローチを試行錯誤する毎日です。豆を仕入れる時は、自分が惚れ込んだイチオシだけでなく、長年のお客様に親しんでいただいている路線も不可欠なので、当店としてのぶれない物差しを大切にしていますね」と話す。その言葉どおり、ブレンドだけでも常時7種、シングルオリジンは15〜20種と、豆のラインナップは実に多彩。こんなに焼き分けるのは大変でしょう?との問いに「大変ですけど、いろいろ焼いてみたいんですよね」と謙吉さんは笑う。種類豊富かつ手ごろ、そして好みに合った豆を提案してくれる対面販売。この3点を柱に据えるだけでも日常的に通いたくなる。今年から契約農家に会いに生産国を訪れるなど、2代目として新境地を切り拓く謙吉さん。ますます魅力的になっていく同店に注目したい。
[ROASTER'S COFFEE 焙煎屋 平尾店]福岡市中央区平尾3-1-6 小河ビル1F / 092-534-1061 / 10:00〜19:00 / 月曜休み
九州ウォーカー編集部