“コンフィチュールの妖精”クリスティーヌ・フェルベール氏が作るパティスリーの魅力

東京ウォーカー

2019年1月25日、“ジャムの妖精”と呼ばれるフランスのトップパティシエール、クリスティーヌ・フェルベール氏のスペシャルセミナーが、GINZA SIX(東京都中央区)の「The GRAND GINZA」で開催された。イベントでは、秘伝のコンフィチュール作りや、フランス・アルザス地方の伝統菓子の紹介、菓子作りの哲学などが披露された。

フランスのトップパティシエール、クリスティーヌ・フェルベール氏。優しい笑顔が印象的


【写真を見る】果実を知り尽くしたフェルベール氏が生み出すコンフィチュールたち


フランスの自然豊かなアルザス地方にある村の、4代続くパンとお菓子の工房「メゾン・フェルベール」のオーナーを務めるフェルベール氏。1998年には、フランスの最優秀パティシエに与えられるシャンぺラー&パティシエ連盟最高パティシエ賞を受賞した経歴もあるトップパティシエールだ。

季節ごとにアルザス地方で収穫される果物を使い、素材の味をいかしたフルーティーな仕上がりのコンフィチュールは、フランスの名シェフとして知られた故・ジョエル・ロブションや、パティシエのピエール・エルメ氏など、食のスペシャリストからも絶賛されている。

秘伝のコンフィチュール作りを披露


工房を構えるアルザス地方の風景


工房での様子や果実の生産者の思いなどをショートムービーで紹介


オープニングでは、フェルベール氏の故郷の景色や工房での作業風景、そしてコンフィチュールの素材となる果実の生産者が語るフェルベール氏への想いが詰まった、ハートフルなショートムービーを放映。

にこやかな笑顔で登場したフェルベール氏。盛大な拍手で迎えられた


ライブで使用する食材について説明するフェルベール氏


続いてフェルベール氏が登場すると、会場は一気に華やかな空気に包まれた。コンフィチュール作りのライブパフォーマンスでは、フェルベール氏の弟であるシェフのブルーノ氏がアシスタントを務めた。

リンゴを小さなサイコロ状にカット。均等サイズにすることが重要


カットしたリンゴにオレンジの皮をプラス。風味と苦味が加わることで味にしまりが生まれる


「私がいつも工房で作っているやり方をお見せします」とフェルベール氏。今回の素材として選んだのはリンゴとオレンジだ。「リンゴは一年中手に入れることができる果物なので、誰でも作ることができる。オレンジは果汁と皮を使います」と話し、「普段は4キロほどのリンゴを一度に煮るのよ」とチャーミングな微笑みを浮かべて会場を沸かせた。

搾ったレモン汁を加えたら鍋の中へ


カットしたリンゴにオレンジの皮と果汁を加えたら、絞ったレモン汁をプラス。「レモンはリンゴの変色防止の効果があり、酸味が加わることで主役となる果実の味を引き立ててくれます」とフェルベール氏。また、レモンにはペクチンと呼ばれる成分が多く含まれており、糖分と一緒に加熱するととろみがつく作用があることから、ヨーロッパでは古くからジャム作りに用いられてきたという。

工房ではすべて手作業で行うというフェルベール氏。リンゴ4キロとなると労力も相当と思われるが、彼女は「おいしいものを作るときは時間をかけてゆっくりと落ち着いて、丁寧に行うことが大切」と話す。

今回の実演では、リンゴ700gに対し砂糖を250g入れていく


リンゴの下ごしらえが終わったら砂糖を投入。250gとその量に会場が驚くも、フェルベール氏は「コンフィチュールの“コンフィ”は、砂糖に果物を漬け込んで、芯まで砂糖を染み込ませるという意味があります。冷蔵庫がない時代は、果物を保存するためにもっと大量の砂糖を使っていました。技術が発達した今は、これでも少量になったのよ」とにこやかに語った。

「煮詰める時間は自分の勘を頼りに!」とフェルベール氏


工房では2日に分けて食材を火にかけるという。「2回に分けて行うことで、より砂糖が果物の中に浸透します。食材や使う量、鍋の種類によって煮詰める時間は異なるので、自分の勘で確かめて」

気泡が大きくなってきたら完成はもうすぐ!


煮詰めていくとブクブクと気泡が発生。「工房ではアクはすべてすくい取っています。アクが出なくなったら芯まで砂糖が染み込んだ証拠」とフェルベール氏。フランスではアクを取り除く方法として、少量のバターを入れることもあるとか。

鍋の中身にとろみがつき、果実が半透明になったら“コンフィ”しているサイン。コンフィチュールがツヤツヤと輝きを増している。工房では4人のスタッフで計8つの鍋を使って作っているというフェルベール氏。「コンフィチュール作りはみんなで一緒に作るのが決まり」と、一つひとつの作業を楽しんでいるようだ。

「熱いうちに瓶詰めすることが大切」(フェルベール氏)


密封効果を高めるため、瓶に詰めたら蓋を下に置いて保管するのがポイント


完成したコンフィチュールを瓶詰めしていく。「熱いうちに瓶詰めするのが鉄則。フタの中にあるゴム材を温めて膨張させ、真空状態に。隙間があると長期保存できないので、瓶に圧をかけるように、中身を詰めたらフタを下にするのがポイント」と話す。工房では翌日の朝までこの状態をキープしているそう。

コンフィチュール作りについてフェルベール氏は「果実を長生きさせるというマジックをかけているみたい。私が初めてコンフィチュールを作り出した頃、おばあちゃんが作った色鮮やかな瓶が棚に並んでいました。そのイメージがいまでも刻まれていて、さまざまな色の果実の絵を描いている気分よ」と語った。

ドット柄のキャップがとってもキュート。ファンの中にはこのキャップを集めている人がいるほど


最後にラベルと、ドット柄のキャップにリボンを添えたら完成!イベントと同じように、工房でも瓶詰め以降の作業はすべて自分の手で行なっているというから驚きだ。

試食したゲストは「重層的な味わいでおいしい」とコメント


できたてのコンフィチュールを参加者の1人が代表して試食。「最初はフレッシュな味わいで、あとからオレンジの皮の苦味や果実の甘さを感じる。重層的な味わいでおいしい!」と大絶賛。フェルベール氏も「階段を登っていくように味の変化を楽しんでくれるとうれしい。おいしいものを作るには時間がかかります。忍耐も情熱も愛もたくさん必要よ」と話した。

伝統菓子を味わいながらトークショーへ


ゲストのテーブルに用意された菓子を味わいながら、トークショーへ


パティシエ、ショコラティエと幅広く活躍するフェルベール氏


続いて、ゲストのテーブルに用意されたフランボワーズとすみれのコンフィチュール、サブレ、フランボワーズが香るボンボンショコラ、しっとりとした生地にドライフルーツがぎっしり入った伝統菓子のベラベッカを味わいながら、トークショーがスタート。

“西洋梨のパン”とも呼ばれているアルザス地方の伝統菓子。洋梨、クルミなどドライフルーツがいっぱい


フランス北東部にあり、ドイツ国境に近いアルザスで育ったフェルベール氏。「私の村はドイツの文化も持ちあわせている。メゾンで作っている伝統菓子はドイツや東ヨーロッパなどの文化がミックスされているものが多い」という。「ベラベッカは、別名“洋梨のパン”とも呼ばれていて。ホットワインと一緒に楽しむのがアルザスの習慣よ」

フェルベール氏の家族写真


代々パン屋を営んでいた家に生まれたフェルベール氏。職人になろうと思ったきっかけを聞かれると、「パパのせいね。妹は愛想が良かったからお店に立って接客ができたけど、愛想がなかった私は“厨房に入っていなさい”と言われたの(笑)」。

コンフィチュール作りを始めたきっかけは、「1983年頃、グリオットというチェリーを持ってきてくれた友人がいて、これを使ってコンフィチュールを作ろうと思った。ママに反対されたけれど、1回だけ!とお願いして作って店のショーウィンドウに飾ったら、“欲しい”と言ってくれたお客さんがいて。同じことを言ってくれる人がほかにも出てきて、ママがついに“売りましょう”と言ってくれた。これこそマジックよね!」と満面の笑みを見せた。

2019年には「メゾン・フェルベール」は創立60周年を迎える


真面目で真摯にものづくりに取り組む両親のもとで育ったフェルベール氏。「いい仕事をするという、意欲を持って何事にも取り組む価値観を教わりました。素材は生きているからうまくいかないときだってある。だからこそ謙虚な姿勢が大切。毎日ゼロからのスタートだと思って工房に立っているわ」と話した。

4代受け継がれてきた「メゾン・フェルベール」の創立60周年を迎える2019年。フェルベール氏の今後の夢を尋ねると、「最良なもの、最高のものを出し切る。出し惜しみせず、寛容に、作り手とも買ってくれる方々とも幸せをシェアしたい。そして、店の横にティーサロンを作るのが夢。海外から足を運んでくださった方が、少しでも私たちのそばで過ごしてくれることが叶えられるから」と語った。

ゆっくりと穏やかに語るフェルベール氏は、まさにコンフィチュールの妖精そのもの。手間を惜しまず愛情を込めて作られたフェルベール氏のコンフィチュールは、世界で唯一無二の存在といえるだろう。

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