あなたは子どもの頃、大切にしていたぬいぐるみはありましたか?筆者はぬいぐるみが大好きな子どもで、たくさんのぬいぐるみに囲まれて、幼少期を過ごしました。彼らに命が宿っていると信じ、一緒に起きて、ご飯を食べて、同じ布団で眠る。旅行へ行く前には選抜会議を開き、連れていくぬいぐるみを決めるのですが、いつも絞りきれず荷物が多くなってしまい、両親を困らせていました。
Bunkamura ザ・ミュージアムで4月14日(日)まで開催されている「クマのプーさん展」の内覧会に足を運び、幼き日のそんな記憶が、ふと頭をよぎりました。本展は、イギリスの作家、アラン・アレクサンダー・ミルンと挿絵作家、アーネスト・ハワード・シェパードの共作により、1926年に誕生した「クマのプーさん」にスポットを当てた展覧会。
シェパードが鉛筆やペンで描いた原画をはじめ、資料、写真、手紙など、イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館が所蔵する貴重なコレクションを中心に、200点以上が集結しています。
正直なところ、ディズニー・アニメーションの「くまのプーさん」は知っていても、原作のことはほとんど知りませんでした。東京ディズニーリゾートが好きな筆者にとって、プーさんと聞いて思い浮かぶのは、アトラクション「プーさんのハニーハント」で体験する、色彩豊かでファンタジックな世界。
一方、シェパードが描いたキャラクターの目は点で表現されていることも多く、一見とてもシンプル。しかし、場面の情景や雰囲気が的確に捉えられており、独特な温もりがあるのです。
プーさんをはじめとした仲間たちの多くは、ミルンの息子、クリストファー・ロビン・ミルンが遊んでいたぬいぐるみがモデル(実際に挿絵として使用されたプーさんのモデルは、シェパードの息子が持っていたぬいぐるみとされています)。クリストファー・ロビンが愛情を注いだぬいぐるみに命が吹きこまれ、個性豊かなキャラクターたちが誕生したのです。また、物語の舞台となる森も、イギリスにある「アッシュダウンの森」がモデルになっています。
原画の前に立ち、心に浮かぶキャラクターたちはとても生き生きとしていて、その後ろには「百町森(100エイカーの森)」の豊かな自然が広がっていました。それはきっと、観察力に優れ、豊かな表現力の持ち主だったシェパードが、実在したぬいぐるみや森をもとに綿密なスケッチを行い、挿絵を描いていたからだと感じました。
クリストファー・ロビンが、バタン、バタンと音を立てて、プーさんを引きずって階段を降りてくる絵。橋の上にクリストファー・ロビンとプーさん、コブタ(ピグレット)が立ち、“棒投げ”をして遊んでいる絵。これらの有名な原画も、もちろん間近で見ることができます。
しかし、筆者の中で一番印象に残っているのは、実際のぬいぐるみを見てシェパードが描いた、プーさんと仲間たちのスケッチでした。その中には、首を垂れたお馴染みのポーズをした、イーヨーの姿もありました。
このスケッチが描かれた時、イーヨーはすでにクリストファー・ロビンのところへやって来て5年が経過しており、首のあたりがすり切れていたそうです。ミルンは、ぬいぐるみのポーズや動作にヒントを得て、キャラクターの性格を構築しました。そのため、イーヨーは心配性でネガティブな性格になったのです。
物語の中でイーヨーは、仲間たちとの交流を経てちょっぴり前向きになっていくものの、損な役回りになってしまうことも多いキャラクター。でも、モデルとなったイーヨーは、首のあたりがすり切れるまでクリストファー・ロビンにたくさん遊んでもらい、嬉しかったことと思います。これまで知らなかったイーヨーの過去を垣間見た気がして、心がほんのり温かくなりました。このような誕生秘話を知り、プーさんと仲間たちへの愛着が増したことは、言うまでもありません。
「クマのプーさん展」は第1章から第5章まで5つのテーマで構成され、原画で名場面の数々をたどるコーナーや、世界中から集められた関連商品が並ぶコーナーなど、今回紹介した内容以外にも、たくさんの見どころがあります。原作ファンはもちろんのこと、ディズニー・アニメーションの「くまのプーさん」しか知らない人も、会場を出る頃には、プーさんとその仲間たちのことがもっと好きになっているはずです。
ちなみに、会場では大人心をくすぐる、おしゃれでかわいいプーさんのグッズもたくさん販売されています。「クマのプーさん展」へ足を運んだ際は、こちらもぜひチェックしてみてください!
水梨かおる