いつも行き慣れてるデパートの知られざる秘密やサービスを掘り起こして紹介する「まったく新しいデパート案内」。経験豊かな知識を軸にしながらもアップデートを繰り返す、百貨のスペシャリスト「ストアアテンダントサービス」。岩田屋本店・福岡三越での買い物に同行し、お手伝いするサービスです。1回目に引き続き、岩田屋本店(福岡市中央区天神)にお邪魔しました!
取引先に大変なご迷惑をかけてしまった。お詫びの品として何がふさわしいですか?
社会人なら誰しも1度や2度の失敗を経験したことはあるのではないでしょうか。内容によって様々なケースがあり、それぞれで内容は変わってきますが、取引先との関係を続けていく上でも迅速な対応が求められます。今回は大事な納品が遅れてしまい、多大な迷惑をかけてしまったというケース。最初の相談は『お詫びの品』。
ーー3日前の電話予約時にお伝えしたようにお詫びの品を探しているのですが…
「和と洋をご用意させていただいております。老舗の高級感があり、高価なものでは『虎屋の羊羹』ですね。4000円~5000円の商品がございます。複数でお召しあがりいただくことができますし、会社の中でもお配りしやすいというところで」
早速足早に案内を始める田尻さん。ストアアテンダントサービスは買い物3日前までの電話での予約ということで、事前にご提案する準備をしているため、当日はすぐに商品紹介をしてくれます。
「ちなみに洋菓子ですと、福砂屋にキュービックのカステラがあります。それを詰め替えてお渡しするのも、ご迷惑をお掛けしてしまった関連者のみなさまに、お詫びの気持ちをお届けすることができるのでいいのではないでしょうか。他にもジャン=ポール・エヴァンのマカロン。最高級の洋菓子でございます。おいしさはもちろんのこと、全世界に通用するクオリティでございます。他にはチョコレートでもよろしいかと思います。お詫びとはいえ、先様に負担を感じさせないようなお詫びをしなければという時は、やっぱりシガール。ヨックモックは(数も)多く入ってて、ささやかながらという場合はこちらの商品がよろしいのではと思います」
なるほど。会社の皆さんに行き渡るような『小分けタイプ』が良さそうです。
ーーちなみに渡す時のマナーなどありましたら教えていただけますか?
「そうですね、素熨斗(すのし)をかけていただいて、岩田屋の包装もしくは、各ショップの包装でお包みいただいてお渡しするとよろしいかと思います。ただ、今回は会社対会社でございますので、スピーディにお詫びの気持ちを表現されるのがよろしいかと。上司の方と同行し、目と目を合わせてお渡しする。誠意を込めると伝わると思います」
開始から15分。無駄のない動きでいくつかの商品をご紹介いただきました。今度失敗した際のお詫びの品も『小分けタイプ』のどれかにしようと思います。続いての相談は…
54歳と48歳の再婚同士の最適な引き出物は?
年齢的にもそれほど若くはない再婚同士。初々しすぎず、堅苦しさもないようなものをお願いしたいと思います。事前にお伝えした予算は5000円。早速ご案内いただきます!
「新しい門出ですので、再婚を強調せず、『本当におめでたい』という形で。年齢的なものでいうとやはりどなたに差し上げても恥ずかしくないラインでご提案させていただければと思います。ご予算的には30名のご出席でお一人あたり5000円ですよね?ちょっと前後する場合もありますので、実際にご覧いただき決めていただければ。ご列席の女性と男性の割合はどうでしょうか?」
ーー同じ職場なので、男性が多くなります
「承知いたしました。引き菓子を少しおさえて、できればこちら(引き出物)をメインにという考えもございますので、新郎のご家族にはこれ、新婦のご家族にはこれ、お友達にはこれとこれという感じで。今回は初々しくも上質なもの、お祝いの品としてふさわしいものをご提案させていただきます」
ーーやはりこういった引き出物のご相談等はありますか?
「何度もございます。お客様のご意向をうかがった上で、いろんなケースがございます。ホテルの宴会係の方ともお話しさせていただくこともありますし、引き出物ひとつに対して手数料がかかる場合がありますので、お客様に対しても、失礼に当たらない、おめでたい席にふさわしい方法をご提案をさせていただいております。今回は6階(新館)でご案内します。全員が同一のものをお持ち帰りいただく引き出物としてのご提案です」
田尻さんのアテンドは穏やかな口調で聞き取りやすく、相談に親身に寄り添ってくれるので、すでに『お詫びの品』と『引き出物』のいろはを会得した気分になります。
「有田の深川製磁はいかがでしょうか。こちらはご予算がぴったりということで。木箱に入っておりますし、受け取る方の年齢や性別を選びませんので全員同一の引き出物でしたら良いのではないでしょうか。他にもこのタンブラーは、富山の銀作品なのですが、100年の歴史がございます」
いいですねぇ。渋いです。最近の引き出物の傾向としてカタログギフトが人気だとは思いますが、こういったひとつのものを心を込めて選ぶというのも喜んでもらえそうです。
「あともうひとつ。こちらは『ヘレンド』でございます。192年の歴史があり(取材時)、女性の方におすすめです。いかがでしょうか。アクセサリーを入れていただいてもいいですし、キャンディーなどを入れても。女性の方はやはり綺麗なものをお持ちになると幸せな気持ちになりますよね。幸運を呼ぶという、銀も付いてますし華やかさもあります」
ーーなるほど。ありがとうございます。やはり田尻さんは店内のすべてが頭に入ってらっしゃって、ご依頼が来たらある程度目処が付けられるという感じですか?
「そうですね。ストアアテンダントとして4年目に入りましたので、ある程度頭の中に入れてます。全館ご案内はできるかと思います」
毎日ファッションを見て、物を見て、歩いて
田尻さんにアテンドしていただいた所要時間は1時間弱。事前予約(ストアアテンダントサービスは予約制・無料)から、予約後の内容確認の電話もあるので、無駄のないとても有意義で快適な買い物が楽しめるのではないでしょうか。最後に『ストアアテンダント』についてお聞きしました。
ーー販売職を選んだ理由はなんですか?
「いろんなものを、たとえば高級マンションを売りたいとか、高級車も売ってみたいなどは頭の中にありました。たまたま百貨店と縁があって百貨を扱うという楽しさとご提案ができるうれしさを経験し、今に繋がってるんじゃないかなと思います。以前担当していたショップのパンツは裾にファスナーが付いてるのでカットができないんですね。独断で膝下5cmのところでカットして、お客様に合わせてご提供することで何本もお求めいただいたことがありました。そのブランドのイメージを壊すということで反対されるかもしれないのですが、お客様にとっては曲げて穿くよりはピッタリ穿いた方が綺麗なので、そのようなご提案をしました。何か一つのものだけをお求めいただくのではなくて、お洋服とバッグなどの小物もコーディネートしてトータルでご提案することができるのも百貨店での接客ならではです」
ーーそれはブランドから怒られたりはないんですか?
「『田尻は、そんな感じで(販売を)してるんだ』って全然怒られなかったですね。やっぱりお客様に喜んで頂けてますので。怒られるなら別ですけど、すごく喜んでいただけたのでブランドの垣根を超えよそのお店にも教えてしまいました。こうやって販売してますということを。年に1、2回はブランド独自の全体会議があるので、このような形で接客してますということを発表し、事例として共有していました」
ーー最近百貨店よりも、モールのようなショップの集積みたいなところが多いですけど、田尻さんから見てデパート、百貨店の魅力というのはどういうところですか?
「モールは若い方が行きやすい、出入りしやすい、ファミリーで楽しめる。私たちはやはり親子三代。『大奥様』『若奥様』『お嬢様』という、代々繋がった誇りと歴史を大切にするお客様にコンパクトにご提案をさせていただく。ですから、お孫さままでもきちっとした形でご提案、ご提供できるというのが強みですね。これからもっと大事にしないといけない姿勢です」
ーーなるほど。どこかで情報収集されたりとかされてるんですか?
「そうですね。電車の中や人と待ち合わせしてる時、昔は携帯電話が無かったので、ただ待ってるのがもったいなくて、コンコースで行き交う人の服装を観察してました。もっと工夫するとよりステキですよ、とご提案をしたくなっちゃうんです。つい(笑)。電車の中で前の人を見て、背広の着方かっこいいなとか、でもストライプのシャツを着たらもっと素敵なのになとか、ネクタイを変えるだけでもっと印象が良くなると思うんだけどとか。そういうことを思いながら。それは今でも毎日しています」
ーーデパートに馴染みがない若い方々に(ストアアテンダントの)サービスのPRなどがあれば教えていただけないでしょうか
「そうですね。やはりお客様のご相談事、個人情報はきちっと守りますので、お困りでしたら、ぜひお気軽にお電話かけてください。色んな意味合いでご提案できますし、金額の方もご希望に沿った形でのファッション、そして百貨をご提案させていただきたいなと思っております」
ーー指名もできるんですか?
「大丈夫でございます。事前にお日にちさえ分かれば。今ストアアテンダント全員が毎日勉強してファッションを見て、8万8000平方メートル(※1)を歩いて。毎日お品物が変わってるので、それ相応には私たちも勉強しないとアテンドはできないなと思っています。ご指名いただけるようがんばります」
岩田屋本店・福岡三越での買い物に、専門知識を持つスペシャリストが同行し案内するこのストアアテンダントサービス。さまざまな要望に対応してもらえそうです。ぜひ一度体験してみましょう!
※1.岩田屋本店と福岡三越の売り場面積は2店合わせて約8万8000平方メートル
末永禎治