選手を支えるキラリと光る“最高のマネージャー”を発掘し、さまざまな部活・サークルをご紹介してきたこの連載。今回は、映画化もされた人気マンガ『ちはやふる』効果で大会への参加者も急増し、競技人口100万人を超える「競技かるた」に挑戦する九州工業大学百人一首同好会が登場。九州工業大学で応用化学を学びながら活動に励む1年生、山本麻由(やまもと・まゆ)さんに、競技かるたと百人一首の魅力について語ってもらいました。
札をはさんで向かい合う
まずは、実際に「競技かるた」の試合を見せていただきましょう。2年前にこの同好会を立ち上げた4年生・樋口将太さんと、現在の部長・山中大輝さん。そして山本さんに誘われる形で入部した1年生・島田遥香さんと山本さんの2組が、畳の上で向かい合います。
試合開始前にはお互いに一礼をします。競技かるたは、スポーツであると同時に百人が読んだ和歌という文学作品を楽しみ、その伝統文化を未来に継承していくもの。勝負とはいえ、礼節を重んじることが求められます。山本さんが百人一首に興味をもったきっかけはなんだったのでしょうか。
「地元北九州の小学校の取り組みで『源氏物語』などに触れたのが古典に興味をもったきっかけです。百人一首を知ったのは中学の時です。いろんな歌を知って、これはいいな!と思って100首を覚えました。百人一首には恋愛の歌が多くあって、昔の作品ではありますけど、共感をしたり、現代にも通じる感覚があると思います」
100首を記憶することは、競技かるたで強くなるためには不可欠な要素。まだ大会に参加したことのない山本さんは文学としての百人一首に惹かれ、歌を覚えました。
「好きで、“歌を覚えている”のと、“試合をする”っていうのは、ちょっと別モノです。出身中学校では古典の学習の一環として百人一首に力を入れていて、かるたクイーンの方の講演会をしたり、ウチの中学の生徒はみんな百人一首になじみがありました。高校に入ってから文化祭で競技かるたをやって、私も同じ中学出身の友達とペアで出場したんです。確か、ひと学年に300人近く居たはずなんですけど、4組しか出てこなくて優勝しました。しかも、その4組の内の半分がウチの中学出身でした(笑)」
100枚の札から50枚を使い、お互いの陣内に25枚ずつ並べていきます。この際、使われない50枚の札は「空札(からふだ)」となります。札は100首すべて読み上げられるため「お手つき」にも注意が必要です。
考えながら動く
札を並び終えると15分間の暗記時間に入ります。互いの陣に置かれた札を確認し、その位置を頭に叩きこみます。「自陣の25枚はこちらを向いていますけれど、逆から見た相手の陣地の札も覚えます。相手の陣のあっち側にあれが!みたいに」
ここでは、相手の暗記を邪魔するような、大げさな動きや声出しは、禁止です。それぞれが畳の上の札を目で追う静かな時間には、張り詰めた緊張感が漂います。暗記時間終了の2分前には「素振り」が解禁され、札を取るイメージを描きながら、先輩たちは素振りを繰り返します。野球やテニスの基礎練習として素振りが有効なように、競技かるたでも、札を素早く正確に取るために、素振りをすることで頭と体を一致させ、体全体で記憶を固めていくのです。先輩たちに比べると、1年生の2人はまだ「体が動かない!」ようです。
「とりあえず『100個覚えてるぞ!』というのはありましたけれど、競技の世界では100首覚えていて、当たり前ですし、思ったより体が動かないんです。『あそこに札があるのは、わかっていたのに...』というのが結構あります。札自体を覚えていても手が出ない。暗記の時間内に覚えきるのも、まだ苦手です。鍛えなきゃいけないですね」
この札はどこにある?
部長の山中さんが、スマホの百人一首読み上げアプリを立ち上げて練習試合が始まります。
互いの陣に並べられた札には「下の句」が記されていて、読み上げられるのは「上の句」から。取るべき札を確定できる上の句の冒頭の文字を「決まり字」といいます。100首のうち86首が、冒頭3字目までに取り札が確定する「1字決まり」「2字決まり」「3字決まり」のため、この決まり字を把握することが勝利へのカギです。
たとえば、山本さんに、もっとも好きな歌としてあげてもらった
『逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり』
という歌ならば、決まり字は「あい」で、2字決まり。「あ」と聞こえた時点で取るべき札は16枚に絞られ、「あい」まで読まれれば1枚に確定されます。記憶力、集中力に反射神経や相手との駆け引きまでを求められるのが「競技かるた」というスポーツです。
自陣の札を取り、また敵陣の札を取った場合には、自陣から相手に札を送る「送り札」を繰り返しながら、自陣の札を0枚にすれば試合に勝利します。この日の1年生同士の対戦では、島田さんが山本さんに勝利。お互いまだ「『ド』の付く初心者です」と笑う2人。来年度には大会に出場し、まずは競技かるたの入り口「E級」獲得を目指します。
幅広く奥深い「競技かるた」
自身も大学に入ってから初めて競技かるたに触れ「軽い感じで入ったんですけど、徐々に面白さがわかってきました」という部長の山中さんに、競技かるたの魅力をうかがいました。
「音を聞いてから札を取るスピードが早い人は当然勝てる可能性が高いじゃないですか。 でも、ちゃんと決まり字まで聞いて、お手つきを全くせずに、札を取りに行った方が、勝つこともあるんですよ。手の動きで、相手のお手つきを誘発したり、札の配置の仕方だったり、人それぞれ戦略があって、小さい子から高齢者まで、老若男女で試合を出来るのが、面白いところです」
山中さんからは、山本さんに向けて「彼女は最初から歌を覚えてきているんで、もう優秀です。来年度の新入生には教えてあげて欲しいので、頑張って!」とエールをもらいました。
山本麻由さんの『ここが最高!』
幼稚園の頃から本好きで、図書館に毎週通い、10冊借りた翌週には、返却したそばからまた10冊借りて読破していたという山本さん。「私が両親から与えられた本をすぐ読み終わるので、買っていると、らちが明かないみたいな感じでした(笑)」
そんな中で触れた百人一首。和歌の世界と出会い、魅了されました。覚えた100首の中で、特に好きな歌をうかがうと、その意味や自分なりの解釈を、よどみなく話してくれる山本さん。好きになった事にはとことんハマりこむ性格で、英語コミュニケーション能力をはかるTOEICでもスコア860点を獲得。「英語は結構好きなので、きっかけがあった訳ではなかったんですけど、やってみたらハマりました」
文学、英語、そして大学では「ちょっと苦手」な数学に苦戦しながらも化学を学んでいる山本さん。「競技かるたの大会に参加してみたい!と思っていたので、この百人一首同好会で、実際に競技の世界にチャレンジしていきたいです」
山本さんは、その、とことんのめり込む力で、学業では化学に、サークル活動では競技かるたに挑んでいきます。来年度には、4月に新たに加わる仲間たちと共に、競技かるた大会で、その力を発揮する彼女に出会えることでしょう!
山本真己