スターバックスが地元の職人と作り上げた「蚊帳織ブランケット」製造現場に密着

東京ウォーカー(全国版)

JIMOTO made Seriesの第11弾、奈良の「蚊帳織5重ガーゼケットカップ」


全国約1400店舗を展開するスターバックスで2016年から展開する「JIMOTO made Series」。これまでに全国10カ所で、日本各地の伝統産業やその職人とコラボレーションしたアイテムを、“地元”のスターバックス限定で販売し、地域の人びとが地元のすばらしさを再発見するきっかけを創造してきた。第11弾は奈良の伝統産業である、「蚊帳織」の技術で作られたブランケットが6月20日(木)から奈良市内のスターバックス店舗で販売。地元の職人と一緒にどのように作られたのか、現地で取材を行った。

JIMOTO made Seriesの新作は、奈良の伝統産業の「蚊帳織」のブランケット!


季節問わず、少し肌寒いと感じた時に気軽に利用でき、1枚あると便利なアイテム。


スターバックスの「JIMOTO made Series」は、これまでに全国の10地域で展開。第11弾は奈良に息づく織物の技術「蚊帳織」に着目して作られたブランケット「JIMOTO made series NARA蚊帳織5重ガーゼケットカップ」だ。気温の変化に合わせて膝や肩に掛けて手軽に使用でき、日常のいろいろなシーンで活躍しそうだ。

今回の「JIMOTO made Series NARA蚊帳織5重ガーゼケットカップ」は、奈良市内で昭和22年に蚊帳生地の製造メーカーとして創業した大和織布有限会社とスターバックスが共同開発。蚊帳生地の製造技術を生かし、綿100%の蚊帳生地を重ね合わせ、通気性が良く夏場は涼しく、生地の間にたっぷりふくんだ空気の層により冬場は暖かいという、蚊帳生地の特長を生かしたブランケット(ガーゼケット)に仕上がっている。グリーンが可愛いドット柄がデザインされて、よく見ると…スターバックスのペーパーカップがモチーフになっている。そして、さらにもっと見ると鹿が隠れている。

ペーパーカップの裏から鹿がひょこっり顔そのぞかせる


奈良のシンボルとして全国的に知られている鹿。地元では“神の遣い”と言われ、天然記念物として大切に保護され、地元の人たちにとってはとってもなじみ深いもの。この「JIMOTO made Series NARA蚊帳織5重ガーゼケットカップ」でも地域の人たちに愛されている鹿が入っている。

我は神の使い……!? 奈良公園の鹿は人が来てもたじろかない。


「スターバックスが、なぜブランケットを?」そんな疑問を抱きつつも、奈良市で唯一、蚊帳生地を製造している、大和織布を訪ねた。どんな想いで作られたのだろうか。

1700年受け継がれる「蚊帳織」の技術をブランケットに


工場からは織機の動く音が響く。手前に置かれている車輪状のものは、経糸を巻き付ける「ビーム管」。1巻き5300mの原糸が巻かれ、ここ大和織布に運び込まれる。


「カタンカタンカタン……」工場に近づくと、独特の規則的な音が大きくなってくる。奈良で70年以上の歴史を持つ「大和織布」は、民家の建ち並ぶ住宅地の中にある町工場。不思議な音の正体は、織機の奏でるリズムだった。

大和織布の代表取締役、野崎育洋さん。創業は昭和22年、71年の歴史を受け継ぐ。


「騒がしいでしょう?」と笑う大和織布の代表取締役、野崎育洋さんに奈良で息づく蚊帳織の歴史を伺った。日本の蚊帳織の歴史は1700年以上前までさかのぼる。ここ奈良では、江戸時代に麻を用いた「奈良晒(ならさらし)」が織られるようになって、幕府の御用達品として認定されたのがはじまりだ。その後、麻から安価な木綿に原料を変え、庶民にも広まることになった。

蚊帳を吊したところ。日本家屋中心で殺虫剤も普及していない60年余り前までは、全国の夏の風物詩だった。


かつては夏場に蚊をしのぐ道具として、「蚊帳」は全国各地で重宝され、生産量は昭和30年代にピークを迎えた。ところが、エアコンの普及や生活様式の変化によって、年間250万も出荷されていた蚊帳は、平成3年には10万までに落ち込んでいる。そして現在、「蚊帳」を知らない世代も増えている。

蚊帳生地の表面。1インチ(約2.54センチ)の正方形の一辺あたりに19本の経糸(縦方向に走る糸)と緯糸(横方向に走る糸)が交差する。


「現在の蚊帳織は、その発祥とは違う用途で着目され、現在へ継承されています」と野崎さん。“荒く織る”全国でも稀有な技術は現在、エアコンのフィルターなどにも転用されているが、今回のガーゼケットは、蚊帳織本来の特長を最大限生かして作られている。

「蚊帳織生地の特長は、風通しの良さ。これを何枚も重ねることで保温性が生まれ、速乾性に優れ、断熱効果の高い素材にすることができるのです」と野崎さんは胸を張る。蚊帳生地を4枚重ねにした上に、もう少し目の細かい「ガーゼ」の生地を1枚加えた5層構造によって、夏はエアコンの冷気を和らげ、冬は温まった空気を逃がさない。しかも、通気性が良いので水洗いしてもすぐ乾く。

1枚に職人たちの手仕事と想いが凝縮…蚊帳織製造工場に潜入!


地元・奈良のスターバックスのパートナーが、今回のJIMOTO made Seriesの製造見学ツアーを行うというので、そこに取材陣も密着。大和織布に集まった約20名のパートナーに、まず野崎さんは作り手の想いを伝えていく。

地元のスターバックスのパートナーに奈良の伝統産業である蚊帳織について説明する。


続いて、工場の見学。工場内の織機は、ほとんどがすでに製造が中止されて何十年も経つ旧式の機械だという。旧式にこだわる理由について野崎さんは語る。

「新しい織機ではできないことがあるんですよ。織り方とか生地の風合いとか……細かい調整やメンテナンスが常に必要。良い製品をつくるためには、こうした古い織機が必要になるんです」

高校卒業以来、62年間一筋の大和織布の職人さん。コンピューター制御ではない「キカイ」である織機を、いかに調整するかどうかが腕の見せどころだという。


技術は進歩し続けて、新しいものこそ万能である――私たちは無意識にそう思い込みがちだが、技術は継承されなければ、失われてしまうことがあるのだ。

白い筋のように見えるのは織る前の「経糸」で、その数は960本以上。このうち1本でも切れれば機械は止まる。切れた糸を継いで再び動かす――1日じゅう目が離せない。


1本1本の経糸を織機に通す作業はかつて人の手で行われていた。すべての糸を通すのには半日以上かかったという。


工場の織機を前に、野崎さんの説明を聞くパートナー。一言一言を聞き逃すまいと真剣な面持ち。


見学ツアーには「蚊帳織5重ガーゼケットカップ」の縫製を担当した、縫製メーカー「ホトトギス」の代表、盛利和さんも参加。製品化にあたっての苦労を明かす。

縫製を担当した「ホトトギス」(大阪府)の代表・盛利和さん。蚊帳生地を用いた「ふきん」なども手がける。


「蚊帳織生地は、通気性と保温性に優れる反面、目が粗くて縫製が難しいのです。5枚重ねて縫い合わせるとき、ほつれにくくするにはどうすればよいのか、スターバックスさんと相談をしながら、たくさんの試作品をつくりました」と盛さんが言うように、通常のブランケットでは用いない特殊な縫い方で作られるという。このように、さまざまなプロの仕事と想いが凝縮されて消費者へと届く、製造の裏側を知ることができた。

商品と対面! パートナーが見つめ直したそれぞれの「地元愛」


地元のスターバックスのパートナーに奈良の伝統産業である蚊帳織について説明する。


パートナーツアーのフィナーレで、「蚊帳織5重ガーゼケットカップ」のお披露目が行われた。商品を目にしてスタッフから歓声が上がる。

スタッフが手に取りその優しい風合いを確認し、手触りの違いに気づく。「洗いをかけていない状態では、ややゴワゴワとした手触りです。でも、洗濯をするうちに柔らかくなり、より肌になじんでいくのも蚊帳生地の魅力なんですよ」(野崎さん)。時間とともに、使い慣れていくのも、天然素材を活かした工芸品の魅力なのだ。

「あっ! 鹿の背中にコーヒーカップ!」鹿とスターバックスのカップをモチーフにしたデザインも魅力。


地元、奈良に脈々と息づく技術と製法によって実現した「蚊帳織5重ガーゼケットカップ」。地元のパートナーたちは、製品を見て、どのような思いを抱いたのだろうか。

「自分が生まれ育った奈良の歴史は幼少のころから学んできましたが、身近な場所で、伝統が受け継がれていることに新たな発見をした思いです。蚊帳織の技術や地元のすばらしさを多くのお客様に伝えていきたいです」「おいしいコーヒーと心地よい空間と時間を提供する私たちにとって、自分自身がこの街から何を発信できるのか、考えていきたいです」

歴史と伝統の街、奈良に対する想い――パートナーたちも地元の魅力を再発見したようだ。

JIMOTO made Seriesの第11弾、奈良の「蚊帳織5重ガーゼケットカップ」


古都・奈良には、奈良発のモノ・コトが実はたくさん存在する。蚊帳織もその伝統のひとつ。変わらないように見えて、大事な部分は守りながらも時代に合わせて少しずつ変化をして受け継がれている。蚊帳織の伝統や職人たちのスピリットが、このかわいいデザインのブランケットに込められていた。

丹羽毅

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