「これだけ体と心を近づけあった二人の時間は、夫婦の宝物になる」 映画『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』主演・松重 豊インタビュー

関西ウォーカー

「ヒキタさんの子どもの顔が見てみたい!」という妻の言葉で、49歳から妊活をすることになった作家・ヒキタを主人公に、知られざる「男の不妊治療」をテーマに描いたヒューマンドラマ『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』が、10月4日(金)に公開。これが初の主演映画となる松重豊に作品に対する思いを聞いた。

日本を代表するバイプレーヤー松重豊が映画初主演に挑んだ。(C)2019「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」製作委員会


■デリケートな「男性の不妊治療」をあたたかく描いた夫婦の成長物語。


 「男性の不妊」というテーマを扱いながら、あたたかくも笑いと涙に満ちた作品が誕生した。監督・脚本は笑いを取り入れた作品に定評のある細川徹、原作は『狂気の桜』『鳶がクルリと』の原作者でも知られる小説家でイラストレーターのヒキタクニオ『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』(光文社刊)で、作者の実体験をもとにリアルに男の妊活を描いたエッセイだ。

松重が演じるのは、16歳年下の妻・サチ(北川景子)と暮らす流行作家のヒキタクニオ。子どもは作らず二人で仲良く暮らそうと決めていたが、妻の希望で突如妊活を始めることになった。しかし、なかなか結果が出ないので、不妊治療の専門クリニックで検査を受けてみると、妊娠しない原因は自身にあることを知ってしまう。精子の8割が動いていない! 原因は加齢だった。多くの検査を経てダイレクトに妊娠へと繋がるアプローチがなされる女性に比べて「男性は、精子の運動率がひとつの目安となっていて、若い頃よりも30%、20%に落ちてますよと医者に言われるんだけど、これは加齢ですからねと言われる。病気でもないし、じゃあどうすればいいんですか?となりますよね」。劇中でヒキタは、不摂生をやめ、食事も健康なものに変えて猛烈に生活改善をしてきたが、ここまできたらと、聞きかじったさまざまな方法を試してみる。「桃を食べるだとか、部屋にザクロの写真を貼るだとか、妊婦が握ったおにぎりを食べるだとか。中には、股間を冷やすという方法も。撮影でも実際にやりましたが(笑)もはや、それらの方法にすがるしかないというのも哀れで滑稽なんですよ。ぜひヒキタの努力を笑いながらみていただけたらと思います」と松重。

■年の差なんてありましたっけ?鮮やかに乗り越えた北川に救われた。


 妻のサチを演じる北川景子とは、上司と部下役などで共演してきたが、まさか夫婦を演じる相手としてキャスティングされるとは夢にも思わなかったという松重。「この年の差をお客さんが納得するのかどうかが一番不安で、クランクインするまではちょっと怖かったんです。でも北川さんが、そこを鮮やかに乗り越えて『そんな年の差ありましたっけ?』という風に夫婦の世界に入ってくださったので救われました」と振り返る。二人で行った最初の撮影がアパートのシーンだったそうで「撮影の合間もちょっとした会話のキャッチボールで夫婦の呼吸をつかんだかな」とも語ってくれた。

仲睦まじく絆を強めながら妊活に励む二人だが、物語の中でサチは数回だけヒキタに激怒するシーンがある。そのひとつが、酒を断っていたヒキタが酒を飲んでしまい大事な日を逃してしまう場面だ。「ヒキタにとって、酒を断つこともひとつの願掛けだと思うのですが、魔が差してしまい…。まあ見事に怒られてしまいました(笑)。でも、年下のきれいな女優さんに怒られるというか、怒られたい願望が自分の中にあったのには驚きましたね。気づいてしまった(笑)」と夫婦の危機のシーンでの心情をこっそり教えてくれた。

■性愛描写はまったくない妊活映画。でも共に食事をし、心と体を近づけあった経験や時間こそ、夫婦の宝物になる。


 最初は自身の課題として妊活に励むヒキタとサチだが、さまざまな治療を重ねることで、二人の課題として共に歩む姿に変化していく。互いを思い、夫婦の絆が深まっていく姿を見届けていくことはこの映画の醍醐味だ。

「北川さんと一緒にものを食べるシーンがちょこちょこ入るんですよ。妊活を扱う映画ではありますが、性愛描写はまったくない。でも、ふたりでご飯をたべる行為が、いわゆる生殖というものと結びついているイメージがありました」。そして、ふたりが共有しているやりとりや空気は、子作りとリンクしているなという思いもあった。だからこそ「それを積み重ねていくことで、夫婦感というものを出せたんじゃないかな」と。

そして、さらに松重はこう続けた。

「子どもつくるということは、具体的に体を寄せるということであり、夫婦の距離を近くに感じる時間の共有だと思うんです。だから結果がどうあれ、これだけ体と心を近づけあった経験や時間は、死ぬまで二人だけの宝物として持ち続けるんじゃないかなと思います」。

「子どもは人生の通過点。ふたりは子育ての思い出を持ち生きていくからこそ、不妊治療の数年間は夫婦の財産に」


■妊活は人間がむき出しになる。それを取り巻く周りの人たちも。


 松重は「妊活は、人間がむき出しになるもの」だからこそ、それを取り巻く家族や仲間たちにも注目してほしいと言う。「夫婦を見つめる周りの人たちが、不妊治療という課題に対してどういう気持ちで、どんなアプローチで向き合ったかがよく表れていると思うんですよね」。確かに、サチの父親・田野辺和夫(伊東四郎)の態度や子供がどんどんできてしまうヒキタの担当編集者・杉浦(濱田岳)の振る舞いは、妊活を行う夫婦の絆や姿をより際立たせるものになっている。

「冷や水を浴びせたり、はげましたり、共に楽しんだり、という人々の様子が人間性をむき出しに表している。そこが観る人にとっても共感できる要素になっていると思うんです。この映画は妊活ものだし、おじさんの不妊ということは若い人にとっては遠い話かな?と思うかもしれないですが、子どもを作ることについてのプロセスが、現代医学ではどういう仕組みになっていて、どういう困難が待ち受けているのかということがよく解かると思います。担当編集者の杉浦君のような気持ちで、または妻・サチの友人として、年の離れた旦那と結婚して大変だなという目線で眺めることもできます。とても楽しいこの妊活映画を、気楽に笑って観てほしいなと心の底から思ってます!」と力強く語ってくれた。

映画『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』は10月4日(金)よりなんばパークスシネマほか全国公開中

■映画『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』公式HP

https://hikitasan-gokainin.com/

■配給:東急レクリエーション

田村のりこ

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