10月16日の東京公演からスタートする、舞台『The Foreigner(ザ・フォーリナー)』に出演する小島梨里杏さん。同作は『キャッシュ・オン・デリバリー』に続くSHY BOYプロデュース作品として、江田剛さん(宇宙Six/ジャニーズJr.)の単独初主演でも話題の作品。そんな舞台にキャサリン役として出演する小島梨里杏さんに、お話を聞かせていただきました。
私が演じるキャサリンにとっては、人間の成長物語でもあります
――まずは作品の全体的な印象と、演じる役柄について教えてください。
【小島梨里杏】私が演じるキャサリンを知っていただく意味でも、あらすじをお話しますと、極度の人見知りである主人公のチャーリー(江田剛さん〔宇宙Six/ジャニーズJr. 〕が、ある日、友人のフロギー(徳山秀典さん)に連れられて、とある古い釣り宿へやって来るところから物語ははじまります。
その古い釣り宿で、私が演じるキャサリンや、その婚約者で牧師のデイヴィッド(高田翔さん〔ジャニーズJr.〕)、そしてキャサリンの弟エラード(我善導さん〔ワハハ本舗〕)など、登場人物たちが出会いコミカルに人間模様が描かれていく舞台です。
キャサリンは、街の住人なら誰もが知っている名士の娘で、かつては社交界でもてはやされた令嬢でした。その“かつては”というポイントが、キャサリンの重要なキーになっていきます。
――婚約者で牧師のデイヴィッドを演じる高田翔さんとは、ふたりの関係性や設定について話し合われたと聞きました。
【小島梨里杏】はい。ふたりの出会いは最近ではなくて、もっと古くからの関係があったことにしようと話し合いました。これは裏設定なのですが、キャサリンが小さな頃に通っていた教会に、幼かったデイヴィッドがいました。デイビットはキャサリンを意識していたが、キャサリンは街で有名な上流階級の娘なので、デイビットのことをツンと相手にしていなかった… みたいな過去があったことにしました。
――ふたりが婚約者になった経緯も、おもしろい設定をふたりで決めたんですよね。
【小島梨里杏】そこもお話するのですね(笑)。これもふたりで話し合ったのですが、デイビットは昔から両親がいなくて、私は早くに母を亡くして、最近になって父も亡くしたという設定にしました。ずっと父を頼りに何不自由なく、すべてをやってもらって生きてきたキャサリンなので、弟のエラードの面倒を見る責任感もなくて。
誰かに頼りたいのに、社交界でチヤホヤされてきた過去が邪魔をして素直になれない…。そんな彼女を唯一理解して、寄り添ってくれたのがデイヴィッドだったのかなと思います。
――とても緻密な裏設定ですね。演出家の方に話された際は、どのような反応でしたか。
【小島梨里杏】それが意外にも「ふーん」くらいの反応でした(笑)。「ふたりで上手くやってくれればいいよ…」みたいな。それでも演じるうえでは、私と高田さんとの間に共通認識があると大きく違ってくると思いましたので、たくさん話し合いました。どこで出会って、どういう思いでお互いを見ていて、どれくらい愛し合っているのか…とか。設定上だけのいい人、悪い人では、終わりたくなかったんです。
――冒頭でキャサリンの妊娠が発覚して、ふたりが揉めるところからストーリーがはじまるとお伺いしました。
【小島梨里杏】キャサリンとしては、父を失って、弟の存在を突き付けられて、社交界の枠からは外れてしまってと、まだ子供でいたい彼女にとっては最悪にも思える状況からのスタートです。なので、そんなモヤモヤした感じを怒りで伝えることしかできなかったのだと思います。
妊娠についても、決してよろこびではなく、かといって“できてしまった”悲壮感でもなくて、すべての環境が一気に変わり過ぎて混乱しているというのか、不安だからこそ怒る、というのか。本当はデイヴィッドのことを尊敬しているのに、彼にあたってしまうのが彼女の不器用さだと感じました。
――作品全体としては、コメディ要素が強いとのことですが、小島梨里杏さんが演じるキャサリンを中心に見ていくと、決してコメディだけとは言い切れない作品ですね。
【小島梨里杏】そうなんです! 私も最初に台本を読んだときに、キャサリン目線で読んだので「これって本当にコメディ?」と思いました(笑)。私の役柄だけを追っていくと、人間の成長物語です。
ずっと与えてもらってきたキャサリンが、最後にどう変わるのかが観てほしいポイント
――役作りをするうえで、特に意識したことがあれば教えてください。
【小島梨里杏】感情を“相手にあてる”ということを、すごく意識しました。誰かに強くあたるときって、どうしても申し訳のなさのようなものが残ってしまって、それが語尾の強さや言い方にでてしまうんです。ヒステリックではあるのですが、そうなり過ぎてしまうのも違くて。誰かに強くあたるということが、実はキャサリンにとっては“誰かに甘えていることなんだ”と気付けてからは、表現が大きく変わったと思います。
――役に入り過ぎて、その“誰かにあたる”感じをプライベートまで引きずることはありませんでしたか?
【小島梨里杏】これがですね、まったく引きずりませんでした(笑)。今回のキャサリンについては、私のなかにある経験を利用して演じてはダメだと感じていて… というのも、私のなかにはない要素で構成されている人物だったからです。感じ方とか、温度感とか、嗅覚とか、私とは全然違っていて、キャサリンは感情の起伏がジェットコースターみたいな人です。演じてみたら、キャサリンみたいな生き方って、めっちゃ疲れるなって思いました(笑)。
――作品のなかで、演じてみて楽しい部分を教えてください。
【小島梨里杏】作品全体としては、1幕の1場と2場、2幕の1場と2場と、4つのパートに分けられるのですが、楽しいのは2幕の1場です。登場人物たち、それぞれが抱えていた問題が消化されて、束の間の平和というか、楽し気なやりとりが描かれていく場面です。なかでも、主人公のチャーリーを登場人物みんなで囲んで、団子みたいにくっ付くシーンがあるのですが、それが楽しくて。冷静に見ると、少しハッピー過ぎるだろって、おかしな人たちではあるのですが、とにかく楽しそうなシーンです。
それが、ラストに向けてどうやって崩れていくのか… すごい展開になっていくので、そこを楽しみに観に来てほしいですね。
まくしたてるように言い放っていくシーンもあるのですが、そこのスピード感はすごい!
――セリフ量が多いことも特長と聞いていますが、実際にはどうでしたか。
【小島梨里杏】大変です! 過去いちばんのセリフ量(笑)。キャサリンには、長ゼリフもあるのですが、それも過去いちばんの長さでした。ただ、そのシーンはキャサリンの本質というか、人間性が見えてくる大切なシーンなので、感情移入も深くてスッと覚えることができました。あれだけ怒っていたのには、そんな理由があって、本当はこういう娘だったんだと紐解かれていくシーンです。
――セリフの掛け合いも、アップテンポなのでしょうか。
【小島梨里杏】全体としては、アップテンポの掛け合いが多いです。物語的には、ラストに向けて怒涛の展開が待っているのですが、そこに向けてのセリフの掛け合いはすさまじいくらいです。キャサリンが登場人物たちに「あなたは○○よ」「あなたは○○よ」と、まくしたてるように言い放っていくシーンもあるのですが、そこのスピード感はすごいです!
――どのような怒涛の展開が待っているのか、ストーリーが気になります。
【小島梨里杏】物語の中盤で、キャサリンに「えっ?」という出来事が起こるのですが、それは彼女自身も気づいていない、全体にも関わっていく出来事になります。そのことがストーリーを追うごとに、どんどん、どんどん大きな渦になっていって… という。キャサリン自身は、ラストで、さらにひとまわり大きな人間に成長するのですが、そこも観てほしいポイントです。ずっと与えてもらう側として生きてきたはずの彼女が、最後の最後に与える側の人間になる、そんなイメージです。
――とても楽しみな舞台ですね。最後に、小島梨里杏さんにとっての舞台の魅力を教えてください。
【小島梨里杏】その時、その瞬間の会場や演者同士の体温だったり、熱量だったりを、肌で感じられるのが好きです。それと、同時進行で起きている出来事の全体像を見られるのも魅力です。
ドラマや映画だと、セリフを話している人以外はフレームアウトになってしまうことが多いのですが、舞台だとスポットライトが当たっていないところで登場人物たちがコミュニケーションをとっていたり、それが性格や関係性を暗示していたりと、何回も観ていると「あの人、あのシーンで、あんな表情してたんだ」とか、そんな発見が舞台の魅力です。
観劇されるうえでは、視線のやり場がいろいろで大変だと思うのですが(笑)。でも、今回の作品は、ぜひ何度も体験されて、その楽しさを実感してほしい作品です。
『The Foreigner(ザ・フォーリナー)』
アメリカ・ジョージア州にある古い釣り宿を舞台に、極度の人見知りである主人公・チャーリー(江田剛)と、宿に集まる人々との人間模様を描いたコメディ作品。主人公チャーリーは、友人のフロギー(徳山秀典)に連れられ、アメリカへやって来たばかり。1人でフロギーの親友・ベティ(武藤晃子)が営む釣り宿に滞在することになるが。うまくやっていく自信のないチャーリーは、フロギーのアドバイスを受けて英語のわからない外国人のふりをすることに。そこへ、釣り宿を買い取ろうとする牧師のデイヴィッド(高田翔)と、その婚約者・キャサリン(小島梨里杏)、キャサリンの弟・エラード(我善導)、そして怪しげな不動産鑑定士のオーエン(清水順二)が次々と現れて……。
公演日程
10月16日(水)~10月23日(水) 【東京】三越劇場
11月9日(土)~11月10日(日) 【愛知】東海市芸術劇場
11月20日(水)~11月24日(日) 【大阪】近鉄アート館
キャスト
江田剛(宇宙Six/ジャニーズJr.)、高田翔(ジャニーズJr.)、徳山秀典、小島梨里杏、無糖晃子、我善導(ワハハ本舗)、清水順二(30-DELUX)
スタッフ
脚本:ラリー・シュー 翻訳:小田島恒志 演出:野坂実 主催:SHY BOYプロデュース
撮影=石塚雅人 取材・文=千葉由知(ribelo visualworks)
ウォーカープラス/野木原晃一