10月12日、雑誌『sweet』(スウィート)(2019年11月号/宝島社)が発売された。通常版と増刊号のダブル表紙を飾ったのは、同誌で何度もカバーガールを務めているモデルの小嶋陽菜。美脚を強調するようなピンクのレオタード姿でメリーゴーランドの木馬に座り、アンニュイな表情を浮かべている。他の雑誌にはない、独特の世界観だ。
「出版不況」が叫ばれる中、同誌は付録付き女性ファッション誌のパイオニアとして人気を博し続けており、今年3月には創刊20周年を迎えた。そこで今回は、同誌編集長の渡辺佳代子氏にインタビューを実施。ファッション誌界で確固たる地位を確立してきた、編集長のその原動力と、雑誌の今後について、この20年を振り返りながら語ってもらった。
20周年で盛り上がる雑誌『sweet』。小嶋陽菜は表紙でレオタード姿披露
同誌は、「28歳、一生“女の子”宣言!」というコンセプトを打ち出し、これまでも「大人カワイイ」という言葉を流行らせるなど、社会現象を巻き起こしており、累計実売もナンバー1の人気を誇っている。魅力的なカバーガール、他の女性誌と毛色の異なった内容もさることながら、人気ファッションブランドオリジナルの限定アイテムを付録として付けた先駆的存在で、その豪華な付録も多くの女性ユーザーを引き付けているのだ。
まずは今春、恒例のファッションショーイベントを実施し、そのなかで20周年をお祝いした同誌。このイベントがユニークなのは、モデルがただランウェイを歩くのではなく、“出し物”も行っているところ。
「今年はすごかったですよ。紗栄子ちゃんがブランコで空から降りてきてメリー・ポピンズとして踊ったり、小嶋陽菜さんが、まゆゆ(渡辺麻友)、れなっち(加藤玲奈)と『ハート型ウイルス』を歌ったり。ひと口に“出し物”といっても、しっかりレッスンして、ちゃんとしたショーとして行っていて、今年が終わったらもう来年の出し物を企画し始めるくらい力を入れています。“『sweet』でしかやれないこと”“本人がやりたいこと”をやってもらっていて、本当に面白いんですよ」
そして夏は、創刊20周年を記念したオープンイベントを六本木ヒルズにて実施。ビューティーと占いをテーマとした“女性にササる”夏祭りを行い、みちょぱこと池田美優や、ちぃぽぽこと吉木千沙都の登場で華やかに盛り上がったという。
その他、20周年を盛り上げたのは、『sweet』らしさあふれた付録。6月号では、同誌一番人気のブランド「スナイデル」とコラボレーションした「2階建て コスメパレット」を付け、特別感のあるものに。また、その前号でも「スナイデル」のポーチを4つも付ける大盤振る舞いを行った。
ギャルでもなくコンサバでもない、新たなジャンル・価値観を提示
『sweet』は、1999年3月に創刊し、渡辺氏はその年の11月から編集長に。前任者のやり方は引き継がず、手探りで雑誌の方向性を決めていったという。そんななかで、「日本の女の子は、なんだかんだで可愛いものが好きなのでは?」との考えに至った渡辺氏。「他誌と同じことをしても仕方ないので逆方向に振ったんです」と、青文字系でも赤文字系でもない、新たなジャンルを作り出した経緯を話す。
「創刊時の『sweet』は、宝島社からモード誌を出そうという試みで、表紙は外国人モデル。中身もラグジュアリーブランドを扱っていました。でも、私に変わったときの号の表紙は吉川ひなのさんに。テイストは決めておらず、最初は探り探りで…。『大人カワイイ』の言葉も、もっと何年もあとに出てきた感じです。20年前のその頃は、いまと時代が違って女の人たちはセクシーなものを好んでいて。ローライズデニムとピタTでお腹を見せていたり。安室ちゃん世代の人が20代に突入したくらいの時期で、流行しているのは格好良いものか、コンサバかという。そこで、ギャル卒業生向けでもなく、コンサバでもないものをやろうかなとなりました」
梨花から始まった『sweet』の流れ。“大人カワイイ”テイストに
また、『sweet』は、紗栄子や小嶋陽菜といった魅力的なカバーガールを発掘してきた。モデル起用の際に重要視していることを聞くと「う~ん、モデルは常に探してはいまして。可愛い人はいっぱいいると思うんですけどね。『sweet』で選んでいる人は、『私を見て』という気持ちがとても強い人たちではありますね」とのこと。「皆さん、“私はsweetの一員”という、当事者意識が強い方たち。一人だけ、安室奈美恵さんという例外はいるんですけど。彼女はサラッと撮影して、サラッと帰るという方で、モニターも見ないくらいでした」と、振り返ってくれた。
ちなみに最初のうちはしばらく、その時々の旬の女優を起用していたが、「それだと他誌との差別化もできない」ということで、当時、雑誌のカバーガールから遠のいていた梨花を起用。「話し合いを重ね、彼女をここぞというタイミングで出したら、当たったんです。そこから、私は『sweet』でやりたいことがあるんだ!という人を起用して、共に女性像を作り上げていくというスタイルが身につきました。カバーガールを務めてくれた浜崎あゆみさんや安室奈美恵さんは例外で、最初からディーバでしたから、彼女たちはうちが育てたということはないんですが、いまの『sweet』の流れは梨花さんから始まっています」
そんな梨花が、スタイリストの風間ゆみえらとタッグを組み、“大人カワイイ”甘口なファッションを押し出していったことで、『sweet』モデルに憧れる女性も増加。「『こういうテイストでいきましょう!』といった掛け声があって作っていたわけではなくて、そこに集まる同世代のメンバーで、感覚を頼りに、雰囲気と勢いで作っていきました」と、渡辺氏は当時の舞台裏を明かした。
“エグみ”や“毒”がなくなった…。女性ファッションのトレンドの変遷
そして「いまは巷のファッションがつまらなくなっていると思うんです。みんなお洒落でみんな地味」と話す渡辺氏。「昔はコンサバな女性やギャルもいたし、原宿にスナップ待ちの宇宙人みたいな人とか、多様な女性がいたと思うんですけど、いまの人たちは“エグみ”がないというか。ご飯を削ってブランドものを買い集めていた人もいれば、モテを意識して毎日武装していた人、その逆で、モテとはベクトルの違うヤマンバも。そのときの方が多様な人がいて、いまの平均的な感じよりは面白かった」と、トレンドの変遷について思うところを吐露。
年々加速する“雑誌の厳しい戦い”については、「いまはうちも含め、雑誌のテイストがどこも似てきているのですが、平均的なものばかりだと面白くない、このままだと淘汰されていくんじゃないでしょうか。雑誌を買っていただくということは、女性の1000円の使い方の問題。『sweet』は続けたいですけど、同じようなものは滅びても仕方ない。こんなことを言っていますけど、危機感はめちゃくちゃありますよ(笑)。なんとなくでサラッと流されないような、先ほどいった“エグみ”のような、ちょっとした毒は忍ばせておかないとなと」
具体的な“毒”について聞いてみると、「例えばですが、11月号も変な表紙で変な付録(笑)。増刊号の方の付録はポーチとパンダ(ぬいぐるみ)ですし、表紙はよく分からないけど小嶋陽菜さんがレオタード姿で。毎年ハロウィンで『ジェラート ピケ』が動物をモチーフにしたアイテムを作っているのですが、今年はパンダモチーフだったので、そのパンダで何かやりたいなと、ぬいぐるみを作っちゃいました」
ずっと好きな服を着て暮らしていい、という価値を提案
こういった付録が付いて雑誌価格は1000円前後。人気ブランドのアイテムを低価格で手に入れられるとあって、多くの女性を魅了してきたが、近年の付録ブームに火を付けた同誌も、「やっぱり、売上増加のターニングポイントになったのが付録」と回顧。
「2002年9月号から始めて。最初はノーブランドのポーチだったのですが、その後、大人気だった『Cher(シェル)』を付録にしたくてしたくて。でも、ブランドで使われているロゴは付録に使えないという制約もあり。オリジナルロゴを作ってもらって、初めは定期入れなどを作って、やっと2008年に念願の『Cher』のトートバッグを作りました。あんなに電車の中で、たくさんの人が同じ付録を持っていたのを見たのって、後にも先にもないかもしれない。そのくらい反響がありました」と、爆発的ヒットとなったアイテムについて語り、そこから売上を伸ばし続けて2010年に発行部数100万部を突破したことを明かした。ちなみにここ最近では、2019年4月号で登場した「サマンサタバサ」の初付録であるハートモチーフチャーム&ミニ財布、2019年11月号の「ジェラート ピケ」のパンダポーチが大人気だったそうだ。
そもそも“大人の服装”を求められることに抵抗感があったという渡辺氏自身。同誌の「28歳、一生“女の子”宣言!」のコピーは、「ずっと好きな恰好をして暮らしていってもいいんじゃないですか?というメッセージ」なのだそう。「いまでは特に目新しくないかもしれないのですが、創刊当時、30代で『sweet』のような服装というのは許されなかったんです。2000年くらいのトレンディドラマを見ていただければ分かりやすいと思うんですけど、皆さん、きちんとした服装なんですよね。そんななか、20代後半、30代向けのファッション誌はコンサバ誌オンリーで、市場自体がなかったので『sweet』はなかなか受け入れられない時期も長かったんですが、新しいと思えることをやっていきました。すると、ルミネの売り場が『sweet』ブランドばかりになって。新しい市場ができていくのを見るのは面白かったです」
今後については、「『sweet』はこれまで、男性目線は意識していませんでしたけど、ファッション誌が画一的になるのが嫌なので、今後はもっともっとギトギトした誌面にしていってもいいかもしれませんね(笑)」。ふんわり甘め…ではなく、最後まで、逆張り精神を垣間見せてくれるクールな渡辺氏でした!
取材・文/平井 あゆみ