【クラシック対談】業界激震!? “のだめショック”を語る!(後編)

関西ウォーカー

ドラマや映画、アニメにもなり、一大ブームを巻き起こしたマンガ「のだめカンタービレ」。才能には恵まれているけれど汚部屋に住み、読譜が苦手な音大生・野田恵と、指揮者志望の千秋真一が奏でるストーリーは全編にちりばめられたクラシックと、コミカルな恋物語が幅広い支持を得た。今回はクラシック専門誌「クラシックジャーナル」編集長の中川右介氏と「のだめカンタービレ」の編集者・三河かおりさんの対談の後編をお届けするぞ!。

人間性は悪い方がいい 新人作品に隠された秘密

--原稿をもらえないときは苦労しますね。そういうときはどうするんですか。落ちたことはないですよね。

中川 待つしかないですね。2時間おきにメールを送ったり、何とかします。基本的に書き手から「ごめん、もうだめだ」といわれるまで待ちますよね。編集者は。

三河 割と落ちますよ。編集部にバックアップ体制があるので、代替原稿を用意しています。マンガは文章と違ってネーム、下書き、仕上げと長丁場なので、どこでずれるかわかりません。ネームができてもアシスタントが来ないというときもあります。長くやっていると、この原稿量なら半日足りない、4時間ないと時間単位でわかるので、4ページとか、8ページと部分的に落とします。その代わりに同ページ数でショートの4コマを4日ぐらい前から用意します。全部落ちるのは途中で作家が行方不明になったときぐらいですね。あとは部分落ちで食い止めます。それはそれで調整する時間があるので、終わりの何ページかで落ちたのがわからないようにきっちりまとめるんです。担当は自分の持っている新人に同じページ数を書かせたりします。それでデビューしてチャンスをつかむ新人もいます。

中川 演奏家もよくキャンセルして新人が出ていくってありますからね。

三河 ネームが上がれば残りの日数でどれだけ書けるかがわかります。でも、ネームをあげずに行方不明になっちゃうマンガ家さんもいます。

中川 行方不明になったら、どういう風に再び現れるんですか?

三河 だいたい行方不明のふりをして、電話に出ないとかそれだけです。

中川 本当にどこかに行っている訳じゃないの?

三河 そういう強者は昔の話ですね。だいたいは行方不明のふりをしたら編集者が自宅に行ってチャイムを鳴らして、それでも出なかったら「連絡をください」と張り紙をします。だいたいそのぐらいで自首してきます。私は「怒ってないから」ってよく言うんですけど「やさしい嘘はいらないから、どんなにつらいことでも真実を知りたいから。やさしい嘘は一番私にとって不幸なんです」という話をいつもしています。ぎりぎりになって「だめ」っていわれる方がダメージが大きいんですから。

中川 編集者が3人集まるとどうしても締め切りを守らない話で盛り上がってしまいます。

品行方正じゃなくてもいいじゃない

--最近の中川さんが関心を持って見ているのは?

中川 ここ数年はコンサートより歌舞伎をよく見ています。最近も歌舞伎の本を1冊書き終えたところです。歌舞伎は大げさでおもしろいですね。基本的に海老蔵的なものが好きです。なぜあれを謹慎させるんでしょう。

三河 伝統芸能の担い手は品行方正でなければいけないというマスコミや世間の強制がある。

中川 歌舞伎役者に品行方正を求めるなんて最近の話です。中村歌右衛門は若いころ、男性と駆け落ちしました。彼は史上最年少で芸術院会員となり、文化勲章を授与され、人間国宝になり、最後は勲一等を受けますが、そういう人がそういう顔を持っていることはある時点から不都合になりました。

三河 なぜそこまで監視されなければいけないんでしょう。人々の価値観を統一するような時代に戻ってはいけない、それぞれの人が自分の人生を生きようと戦後始まったはずなのに、みんなを監視しているようです。

--中川さんの「松田聖子と中森明菜」が非常に気になっています。二人ともすごく好きなので。

中川 「カラヤンとフルトヴェングラー」と同じタッチで描いたらどうなるかと考えたのですが、あの二人は対立ではなく、競争です。むしろ松本隆が松田聖子に何を託し、何をしようとしたのか、そこにユーミンがどう絡んできたか。一方、中森明菜はどう孤独な戦いを繰り広げてきたか。

--中川さん、結構戦っていますね。中川さんが描く人はみんなアクがあって、粋の固まりです。

中川 アクがあるから美しいし、粋なんです。歌舞伎ファンでも海老蔵に批判的だったりします。もし、海老蔵にペナルティを与えるなら、1年間ノーギャラとか、そういう風にすべきです。

三河 作曲家も作家も役者もマンガ家も、その人の作品のすばらしさと人間性は関係ないじゃないですか。

中川 いや、関係はあります。人間性は悪い方が絶対いい(笑)。

三河 今度歌舞伎の作品をやりたいと考えているんですよ。明治時代を舞台にする予定です。また、いろいろ取材させてください。

中川 「歌舞伎座物語」という本を書きました。それは明治時代の話です。

三河 もちろん、持ってます。

--お二人となにか作りたいという野心があります。すばらしいお二人の化学反応が見たいですね。ありがとうございました。

(終わり)

※前編はhttp://news.walkerplus.com/2011/0307/22/

※中編はhttp://news.walkerplus.com/2011/0307/23/

【取材・文/ライター鳴川和代】

※本対談は2011年2/12(土)行われたUSTREAM対談を記事にしたものです。

アーカイブはコチラ!URL:http://www.ustream.tv/recorded/12640111

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