「新世紀エヴァンゲリオン」をはじめ、「時をかける少女」や「サマーウォーズ」といった人気アニメ作品でキャラクターデザインを手がけた貞本義行氏は、アニメーターや漫画家などとしても第一線で活躍する日本を代表するクリエイターだ。2019年11月3日(祝)、長野県飯田市で開催された「第13回飯田丘のまちフェスティバル(丘フェス)」にスペシャルゲストとして訪れた貞本氏に、アニメ文化と地域のつながり、そしてクリエーターとして長く活躍する原動力について話を聞いた。
各地のアニメ・サブカルイベントに足を運ぶ「丘フェスはあらゆるオタクが楽しめる独特な雰囲気」
――このたび、丘フェスにいらした理由をお教えください。
【貞本義行】「どうやってモノ作りをしているかっていうのを、飯田の人たちに肌で感じていただきたい」と、丘フェスに深く関わっていて、最近一緒に仕事をしたアニメプロデューサーの竹内宏彰さんから声を掛けてもらい参加させていただきました。飯田に到着してから出番まで少し時間があったので、イベント会場に繰り出して、エヴァの痛車を見たり、信州酒メッセでちょっとだけ試飲もしました。おかげで少し顔が赤くなっちゃった(笑)。
――丘フェスをご覧になっていかがでしたか?
【貞本義行】今やアニメやサブカルを絡めた町おこしイベントって日本中で結構あって、各地でいろいろ見せてもらったけれど、この丘フェスは独特でしたね。テーマが「サブカル、グルメの大祭典。来るもの拒まず、去るもの追わず」というだけあって、お酒オタク、アニメオタク、車オタクとさまざまなジャンルのオタクが集まっていました。ジャンルは被っていないはずだけれど、オタクの相乗効果のようなものが生まれているんでしょうね。若い人も私みたいな50歳以上の人も楽しめたし。全方位に間口を広げているのは新しい。この感覚は面白かったなぁ。
クリエイターから見た“地方創生イベントの価値”とは?
――こういった地方イベントについてはどう思われますか?
【貞本義行】アニメなどサブカルをより身近に感じてもらえるのは良いことだと思います。山口県出身の僕は、中学〜高校時代にアニメがすごく好きだったけれど、やっぱり「遠い東京の文化」って思っていました。その文化に近づけるのは近所の本屋で売っているアニメ誌やテレビだけ。でも地方局のテレビだとアニメ誌に掲載されている中の何分の一も観られなかった。今はネットがあるから状況は違うかもしれないけど、でもやっぱりそういう意味ではアニメ文化を身近に感じられる機会はとても大切なことだと思います。だから僕は、福島県三春町でアニメを作ったり(福島ガイナックス)、故郷のアニメイベントにも参加したりしています。
――海外のイベントにも参加されていますよね
【貞本義行】東京以外を地方と考えるなら、ドイツやシンガポール、アメリカだって同じ地方です。どんなに遠くても、日本のアニメーションが好きな人がいるならできるだけ会いに行くようにしていますね。きっと山口県にいたころの、「君たちはいつでも見られるでしょ」っていう東京に対して持っていたヒガミが影響しているのかも(笑)。
そして何かがきっかけで「貞本と一緒に仕事をしたい」って思ってもらえるかもしれないので、とにかく、こういうイベントに参加してアニメカルチャーを身近に感じて、コミュニティーの輪と可能性を広げてもらえたらって思います。
50代でも「好き」が原動力、若手と変わらぬスタンスで現在も新作を続々制作中
――世界中で愛される作品を数々生み出してきた貞本さんの原動力とは何ですか?
【貞本義行】自分が作りたいもの、自分が観たいものを作る。とにかく「好きだから」というのが創作の原動力ですね。この気持ちはデビューした20歳のときからずっと変わってない(笑)。
20歳の頃は「今はまだこんなんだけど、頑張っているんだぞ!」という思いでしたが、30年以上たった今は「まだまだ若い者には負けられない!」という気持ちでやっています。自分を励ましたい、というのもありますね。
――現在のお仕事を教えてください
【貞本義行】今は、キャラクターデザインを手がけたゲーム「星と翼のパラドクス」がゲームセンターで絶賛稼働中です。あとは劇場版とテレビのSF作品を2タイトルと、漫画2作品ですね。いずれも2020年には形になる、もしくは正式発表になると思うので、ぜひ楽しみにしてください。
デビューから変わらない自分流のスタンスをつらぬく貞本氏。優しくも端々に情熱がにじみ出る語り口がとても印象的だった。これから発表される作品はもちろん、日本のアニメカルチャーの普及にも力を注ぐ活動は、これからもさらに大きな影響を世界にもたらすに違いない。
北村康行