演劇ライターはーこによるWEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.70をお届け!
真矢ミキが舞台に帰ってきた。5年ぶりの本格復帰だ。宝塚歌劇団を退団して21年になるが、まぎれもなくその歴史に残る男役トップスターの一人。最近の大型ミュージカル界で、そこに立つだけでオーラを発し、観客を惹きつける存在感のある大型女優がもっと他にいてもいいのに…と思っていたところだった。が、なんと今回はストレートプレイに初挑戦! しかも4人芝居だ。
フランスの劇作家ヤスミナ・レザの『正しいオトナたち』。簡単に言えば、子供のケンカに親が出て…なストーリーだが、これがまぁ、すごいバトルに展開していく。06年に初演し、イギリスの俳優レイフ・ファインズらが出演した舞台は09年のローレンス・オリヴィエ賞、ブロードウェイ版でトニー賞など、世界的な演劇賞の数々を受賞した傑作だ。
11年にはロマン・ポランスキー監督が『おとなのけんか』で映画化し、真矢の役はジョディ・フォスターが演じた。日本では11年に『大人は、かく戦えり』というタイトルで上演された。
ヤスミナ・レザの作品は、18年にも『大人のけんかが終わるまで』が、今回と同じ上村聡史の演出、兵庫県立芸術文化センターで上演している。よくよく大人にケンカさせるのが好きな人なんやなぁ、レザって。。
作品のおもしろさは、役者4人の力量によって変わる。そんな難しさをはらんだ舞台だ。ジェットコースター的スピード感、次々に変化するケンカの視点、拮抗する力関係…。絶妙のバランスで会話劇の醍醐味が味わえる。
真矢ミキは、朝の情報番組『ビビット』のMCを卒業し、第1作目に敢えてこの作品を選んだ。稽古中に来阪、「今、楽しみながら苦しんでます」という彼女がその意気込み、舞台へ向かう姿勢などを取材会で語った。これから真矢ミキが歩む世界の、新たなスタートラインとなる舞台に期待したい。
【キャスト&ストーリー】
登場人物
ウリエ夫妻:妻・ヴェロニック(作家)真矢ミキ、夫・ミシェル(金物屋の経営)近藤芳正
レイユ夫妻:妻・アネット(資産運用の仕事)中嶋朋子、夫・アラン(弁護士)岡本健一
“安全”と思われる公園で、レイユ家の息子がウリエ家の息子にけがを負わせた。ウリエ家の居間。冷静に事態を収めようと始まった4人の話し合いは、次第にエスカレートし、互いにホンネむき出しのバトルとなって…。
【20年間在籍した宝塚を退団して】
宝塚を退団した時に、宝塚を引きずるのは止めようって、強く思ったんです。その時に、私のこれからやることはファンの方を失望させてしまうでしょう、とも思いました。いろいろな卒業生のやり方がある中で、私は非常に不器用なので、一番荒療治ではありますけれど、舞台を全部バシッと止めて映像に入らせてもらおうというのが自分で描いたやり方でした。自分と向き合って、それぐらい荒療治をやらなくてはリハビリが効かないなと、クラッシュ&ビルドで。
【4年半の番組から学んだこと】
舞台からずっと離れていたんですけど、中尾彬さんから「50代は芝居に深み、味わい出る年代だから、芝居をガッツリやるんだぞ」と言われて「わかりました!」って言った時に、朝の情報番組が決まったんです。
毎日時事ネタや芸能ネタで悲喜こもごもの出来事を見て、分ごとに人の人生を考えていくというのは、役作りの時に一人の人物を考える作業と似ていて、私にはすごくトレーニングになりました。役者は人の人生を演じさせてもらいます。だから、全然知らない社会の1歩、しかも自分の本職から離れる1歩というのは非常に勇気のいる大きな1歩でしたけれど、結果、役者としての味わいをしっかりと受け止めた時間でもありました。
【今回の舞台について】
舞台は5年ぶりですが、ストレートプレイは初めてです。1時間半から2時間、ずうっと4人で走るという芝居。これも私にとってはすごく大きな1歩です。生まれて半世紀過ぎましたけど、元気であと半世紀弱生きたくて。だったら落ち着くにはまだ早いなと。自分の可能性って、勇気を出して叩いたら出てくるのかな、良質なものに変わって行くんじゃないかなって、期待してるところがありますね。
【稽古と役への向かい方】
ヤスミナ・レザさんの戯曲は、読めば読むほど全然違う世界観がどんどん広がっていくんです。それがおもしろくて。経験豊富で芸達者な方たちとの化学反応を、毎日試している時間に思い切り浸れることが今、すごく楽しいです。
お3人と上村さんを見ていて、最終的にコツコツ没頭して真剣に向き合えたものが結果を出すっていうことが、ご一緒してすごくわかりました。私は焦って結果を求めて先に進みたくなるクセがあるので、自分をちょっと落ち着かせてやっていきたいと思っています。
本番では、どうしてこうなるの? みたいな最悪な1日を見せたいと思うので、相当な醜態をさらすことになると思います。敢えて人に見せたくなかった自分をさらけ出す。自分で裸になるような感覚って、人生に何回か必要かなって思うひとつだと思いますね。カッコつけない役作りでいきたいです。
【作品の魅力は】
子供たちのケンカを巡って、穏便にすませたいという夫婦2組の話し合いが、どんどん違う方向に亀裂が入っていって、子供も驚愕するような最悪な大人のケンカに発展していくんです。人間がほんとに切羽つまった時に、こんなになるんだって巻き散らかしてしまう空気が全体的にあふれていて。喜劇と言われて本読んで、全然喜劇じゃないと思いました。やる側としては、ほんと真剣。でもこれ全部、他人様から見たら滑稽な喜劇なんだなぁと。だから私も普段の生活で自分が必死で生きてることが、周りから見たらいかに滑稽なんだろうと気付かされました。そういうところも見どころです。そして劇場を出られる時に、私はどう生きよう、私はこう生きたいって、そんな風に皆さんに楽しんで観ていただけたらと思います。
【ヴェロニックはどんな女性? 共通点は?】
似てる部分、あります。彼女は石橋を叩いて叩いて、叩きすぎて割れて橋が無くなったタイプ。正しさもある程度の範囲を過ぎると迷惑になるみたいな話なんですね。私も『ビビット』を経験するまで、めちゃめちゃ石橋叩く人でした。すごく点検時間が長くて、みんな渡ってるのにまだ渡らない。そういうところが、あの番組のおかげで、自分の調べたいことや知識を入れたいものは、短時間に集中するべきだと学びました。
でも私、家の中ではゆるいんですよ。仕事に重きを置いてしまって、オフはその余力だけで、けっこうダメ人間で生きています(笑)。
【メッセージを】
一番の抱負は、皆さまに喜んでいただけることです。私、ファンの方に、昔観た私という目線で来ていただいた方にどう見えるのかなって、私の中で楽しみで。やっぱり、昔の宝塚の真矢さんが好きなんだよね、ということもあるかもしれないけれど、できれば「なんか全然違うけど、いいね」って言っていただけるような、そういう説得力のある舞台をやりたいと思っています。演劇好きの方には「ヤルね」って言っていただきたいですね。
プロフィール
まやみき●大阪府出身。元宝塚歌劇団花組男役トップスター。1998年に宝塚歌劇団を退団し、99年より女優デビュー。2003年「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」の女性管理官を演じ話題に。その後、ドラマ、舞台、映画、CMなどで活躍。15年3月からTBS系の情報バラエティ番組「白熱ライブ ビビット」のMCとして、今年9月の番組終了まで出演。最近の主な作品は、ドラマ「さくらの親子丼」、映画「Dinner ダイナー」など。関西の舞台は14年の「真田十勇士」以来となる。
STAGE チケット発売中 「正しいオトナたち」
公演日時:12月7日(土)14時/18時、8日(日)13時 会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 作:ヤスミナ・レザ 翻訳:岩切正一郎 演出:上村聡史 出演:真矢ミキ、岡本健一、中嶋朋子、近藤芳正 価格:8,500円 問合せ:0798・68・0255(芸術文化センターチケットオフィス) HP:https://www1.gcenter-hyogo.jp/contents_parts/ConcertCalendar.aspx?md=5&ko=4312412345
取材・文=演劇ライター・はーこ
高橋晴代・はーこ